若くて健康な人であっても、「鼻水1滴分の新型コロナウイルス」で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症するということが、実際にボランティアの鼻に新型コロナウイルスを注入した実験で明らかになりました。

Safety, tolerability and viral kinetics during SARS-CoV-2 human challenge | Research Square

https://www.researchsquare.com/article/rs-1121993/v1



COVID-19 human challenge study reveals detailed insights into infection | Imperial News | Imperial College London

https://www.imperial.ac.uk/news/233514/covid-19-human-challenge-study-reveals-detailed/

One nasal droplet's worth of coronavirus is enough to make you sick | Live Science

https://www.livescience.com/coronavirus-challenge-study-preliminary-results

Exposure to one nasal droplet enough for Covid infection - study | Coronavirus | The Guardian

https://www.theguardian.com/world/2022/feb/02/exposure-to-one-nasal-droplet-enough-for-covid-infection-study

イギリスの研究チームはワクチン未接種で新型コロナウイルスの感染歴がない18〜29歳の健康なボランティアを募集し、「わざと新型コロナウイルスに感染させて経過を観察する実験」を実施しました。実験では合計34人の被験者に対し、アルファ株・デルタ株・オミクロン株の出現前に流行していた新型コロナウイルス株を含む液滴を鼻に送達しました。研究チームによると、この液滴に含まれている新型コロナウイルスの量は、感染性がピークに達したCOVID-19患者の鼻水1滴とほぼ同じだったとのこと。

ボランティアは液滴が鼻に送達された後も検疫ユニット内にとどまり、24時間体制で医師らの監視を受けました。その結果、34人中18人が新型コロナウイルスに感染し、そのうち16人が喉の痛み・頭痛・筋肉痛・関節痛、疲労・発熱・鼻水・くしゃみ・嗅覚の喪失といった軽度〜中程度の症状を発症しました。発症者は適切な治療が行われ、重症に至った患者はいませんでしたが、嗅覚の喪失を報告した13人のうち3人は、実験後3カ月の時点でも嗅覚が完全には回復していないと報告されています。

研究チームによると、感染者の体内からウイルスが検出されたり症状が現れたりしたのはウイルスの暴露から「平均42時間後」であり、想定されていた平均潜伏期間の「ウイルスの暴露から5〜6日」より有意に短かったとのこと。また、患者の体内では暴露から約40時間後に喉でウイルスが検出され、暴露から58時間後に鼻でウイルスが検出されました。患者の体内におけるウイルス量は暴露から5日後にピークとなりましたが、喉のウイルス量は一般的に鼻よりも低かったそうです。この結果は、口と鼻の両方を覆うフェイスマスクの重要性を強調していると研究チームは述べました。



インペリアル・カレッジ・ロンドンの感染症研究所に所属するクリストファー・チウ教授は、「まず第一に、今回の感染チャレンジモデルにおいて、若く健康な被験者に重篤な症状や臨床的懸念事項はありませんでした」「この年齢層の人々はパンデミックの主な要因だと考えられています。今回の研究は軽度の感染例を代表するものであり、感染やパンデミック拡大の要因を詳細に検討することを可能にします」と述べています。

インペリアル・カレッジ・ロンドンの感染症学科長を務めるウェンディ・バークレー教授は、イギリスの大手新聞紙The Guardianに対し、感染した18人が症状の有無にかかわらず同程度のウイルス量を持っていたことから、無症状感染者がウイルスを広める可能性があると主張。「多くの人々がウイルスを放出しつつ歩き回っており、自身はそれに気付いていない可能性があります」とコメントしました。

また、COVID-19の迅速検査方法として知られる「ラテラルフローテスト」については、感染過程を通じて高い精度でウイルスを検出したものの、ウイルス量が比較的少ない感染初期と後期には感度が低く、陽性なのにウイルスが検出されない「偽陰性」になる可能性が高かったとのこと。チウ教授は、「全体的に、ラテラルフローテストは感染性ウイルスの存在と非常によく相関していることがわかりました。最初の1〜2日は感度が悪くても、正しい方法で繰り返し使い、陽性反応が出たら対処することで、ウイルスの拡散を阻止する大きな効果が期待できます」と述べています。



by Jernej Furman

なお、今回の論文はSpringer NatureのプレプリントデータベースであるIn Reviewに掲載されたものであり、記事作成時点では査読が完了していません。また、使用された新型コロナウイルスがアルファ株・デルタ株・オミクロン株より前に流行した株であり、感染力が過小評価されている可能性もあると研究チームは指摘しています。

研究チームは今後、一部の被験者が新型コロナウイルスに感染しなかった原因の調査を進めると共に、デルタ株で同様の実験を行う予定だとのこと。チウ教授は、「デルタ株やオミクロン株などの変異体はウイルスの感染性に違いがありますが、基本的には同じ病気であり、同じ要因がそれぞれに対する保護をもたらします」と述べました。