トンガでの火山噴火災害を受け、イギリスが支援物資を搭載した海軍艦艇を派遣しました。とはいえ、地球のほぼ反対側のイギリス本島から駆け付けたわけではありません。もちろん、たまたま近くにいたわけでもありません。

イギリスも救援活動に参加 トンガの噴火災害

 2022年1月15日(土)にトンガで発生した海底火山の噴火による災害に関して、国際社会からの支援が集まってきています。アメリカ海軍第7艦隊によると、トンガの救援活動には1月26日現在、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、日本、フランス、フィジー、そしてイギリスが参加しているようです。


イギリス海軍の哨戒艦「スペイ」(画像:イギリス海軍)。

 このうち、イギリスは哨戒艦「スペイ」に飲料水3万リットルと救急医療キット400セットを搭載して、フランス領タヒチからトンガへと派遣しました。1月20日(木)にイギリス海軍のWEBサイトに掲載された「スペイ」の派遣決定の発表では、「スペイ」の艦長であるマイク・プラウドマン中佐が「イギリスは同盟国やパートナー国と共に世界中で災害復旧を実施してきた長い歴史があります。イギリス海軍がトンガにおける災害復旧に携わることができることを誇りに思います」と述べており、この活動に関するイギリス海軍の強い意気込みが感じられます。

哨戒艦がインド太平洋地域に派遣されている理由

 実は、この「スペイ」は今回のトンガにおける救援活動のためにイギリスから展開したわけではなく、2021年から姉妹艦の「テイマー」と共に5年間のインド太平洋地域への配備に就いているのです。

「テイマー」と「スペイ」はそれぞれ2020年および2021年にイギリス海軍に配備されたばかりの最新鋭艦で、全長は90m、排水量は2000トン、そして固定武装は30mm機関砲という非常にコンパクトな艦艇です。しかし、その任務は警戒監視活動や麻薬密輸の取り締まり、さらに対テロ作戦などに至るまで多岐に渡ります。


フランス領タヒチにて、トンガへの救援物資を積み込む「スペイ」(画像:イギリス海軍)。

 インド太平洋地域において、「テイマー」と「スペイ」はこうした活動に従事することになりますが、しかし、その運用は非常に特殊なものとなっています。まず、この2隻は通常の軍艦のように固定された配備港を有するわけではなく、地域内にある他国の港や海軍基地を転々と移動することとされています。また、艦の運用に携わる46名の乗員のうち、その半数は数か月ごとにイギリスから交代要員が派遣され、定期的に乗員が入れ替わります。そのため、乗員の休養に要する期間が短くなり、1年間の内およそ9か月ものあいだ洋上で作戦行動を行うことができるのです。

なぜ2隻はインド太平洋地域に配備された?

 それでは、なぜイギリスは5年もの長期にわたってこの2隻をインド太平洋地域に派遣することにしたのでしょうか。それは、この地域に対してイギリスが強い関心を示しているためです。

 EU(ヨーロッパ連合)からの離脱後、イギリスは広く世界とのつながりを強めていく方針を示しています。そのなかでも、人口が多く、また主要な海上交通路も数多く存在するインド太平洋地域は、イギリスにとって非常に魅力的な存在となっています。


トンガに到着した「スペイ」艦上にて、荷降ろしを待つボトル入飲料水の山(画像:イギリス海軍)。

 そこで、この地域での存在感を強め、かつその安全を維持するために、イギリスはこの数年間で多くの軍艦を派遣してきているのです。その象徴が2021年にインド太平洋地域への長期展開を実施した、空母「クイーン・エリザベス」を中心とする空母打撃群の派遣でした。この派遣は日本を含む地域の国々に強力なメッセージを送ったものの、さすがにずっとインド太平洋地域にとどまることはできません。そこで、「テイマー」と「スペイ」を5年間という長期にわたってこの地域に配備し、イギリスの永続的な存在感を示そうとしているわけです。

 さらに、この2隻は先ほど説明したように非常にコンパクトな艦艇です。そのため、あまり大きな艦艇が入港できないような中小国の港にも問題なく入港できるほか、そうした国々が保有する、能力が限定的な海軍艦艇や海上警察機関ともスムーズに共同訓練が実施できると考えられます。そのため、この2隻はこうした地域内の国々とイギリスとのあいだの連携に際して大きな役割を果たすことが期待されるのです。

 今回のトンガにおける災害では「スペイ」が支援活動に従事していますが、一方で「テイマー」は北朝鮮への制裁の実効性を確保するため、東シナ海での瀬取り監視活動に従事しています。この2隻、見た目の小ささとは裏腹に、その存在感は非常に大きなものとなっているのです。