「ニュースを読み解く用語集」と題し、メディアで見聞きするビジネスやIT、医療分野など、知るとよりニュースがわかりやすくなりそうな用語について、その意味や使用例を連載で紹介しています。

今回・第8回は、「ステークホルダー」について、大正大学表現学部の教授で情報文化表現が専門の大島一夫(おおしま・かずお)さんに、編集スタッフ・藤原椋(ふじわら・むく)が尋ねました。

企業経営や団体活動の「利害関係者」の意味

メディアや企業のホームページなどで、「ステークホルダー」という言葉をよく見聞きします。どのような意味でしょうか。

最近だとオリンピック、パラリンピックのボランティアの人たちのことをステークホルダーと称していましたね。実際に、イベントに対応するさまざまな人たちをそう呼んでいるそうです。

ステークホルダーは英語の「stakeholder」で、直訳すると「利害関係者」です。語源は、ステークが競馬などの賭け金、ホルダーが保管する人や保持する人の意味です。

しかしいまビジネス社会では広く、企業や団体などの経営、活動による「利害の影響を受けるすべての関係者」と解釈されています。

利害関係者とは、具体的にどういう人をいうのでしょうか。

株主、経営者、従業員、取引先、顧客などです。利害関係者というと、直接的に金銭が関わる人をイメージしがちですが、ステークホルダーはそれだけではありません。金融機関や行政機関、地域社会、労働組合、競合他社など、間接的に企業や団体に関わる組織も含まれます。

ステークホルダーという語を使う場合、その背景には、主体となる企業や団体の「社会的責任」があります。そのために、これまでのユーザーや消費者などの一方通行の関係ではなく、ステークホルダーという相互の利害関係のとらえ方をする必要が生まれたのでしょう。

企業は具体的なステークホルダーを公表しているのでしょうか。

例えば、自動車メーカーのSUBARU(スバル)グループの場合、ステークホルダーに、従業員、取引先、株主、投資家、NGO・NPO、行政、金融機関、メディア、顧客、教育機関、地域社会を挙げています。

第一生命では株主、投資家、従業員、取引先、顧客、地域、社会としています。こうした姿勢を公表する企業はどんどん増えています。

家族や地域など間接的なステークホルダーに注目

直接的なステークホルダーだけでなく、間接的なステークホルダーが存在するということですね。

そうです。ステークホルダーを理解するには、この考え方がポイントのひとつになります。直接的ステークホルダーとは、企業や団体にとって直接的に影響を受ける人のことです。例えば、企業の新プロジェクトに関わるメンバー、中でも意思決定の権限を持つ人物、そのプロジェクトで完成したサービスを利用するユーザーなどです。

間接的ステークホルダーは、活動やプロジェクトの結果が直接的には影響せず、従業員の収入や商品の売れ行きによって影響を受ける家族や地域、また、相互に関係する団体や人々なども含まれます。

ステークホルダーとの交流は経営のカギ

企業経営や組織活動には、日ごろからステークホルダーと良好な関係を築くことが求められているのですね。

いまの時代の経営のカギと言えるでしょう。そのためにステークホルダーとのコミュニケーションを積極的にとっている企業は多く、株主や取引先への説明会はもちろん、地域社会や顧客層に向けた無料イベントを定期的に開催するなどしています。

先ほど例に挙げたSUBARUグループは、小学生を対象に、交通安全の教室や啓発サイトを運営しています。第一生命では、ダイバーシティ(第3回参照)の啓発のためのセミナーや、自治体との連携を行っています。

「ストックホルダー」「シェアホルダー」という言葉も耳にします。

ストックホルダー(stockholder)のstockは「株券」のことで、株式の所有者、つまり「株主」を指します。シェアホルダー(shareholder)は持ち株の比率が高く、経営に影響のある株主、つまり議決権を持つ株主のことです。どちらもステークホルダーに含まれますが、影響が強い存在なのでそう呼ばれる場合があるわけです。

「ステークホルダーに向けたイベントを毎月行う」

ビジネスシーンでの会話では、ステークホルダーをどのように使うといいでしょうか。

「うちの会社は毎月、ステークホルダーに向けた無料のイベントを開催している」「ステークホルダーとのコミュニケーションのための企画を考えている」「ステークホルダーの信頼を得るために、団体としてサスティナブル(第7回参照)な活動を積極的にしていく」などと言えるでしょう。

言葉を理解したところで、自分が関わる企業や団体のステークホルダーの存在を意識し、関係性を見つめたいと思います。

次回・第 9回は「個人視聴率」についてお尋ねします。

(構成・取材・文・イラスト 藤原 椋/ユンブル)