若い人のほうが注意!? 急速に歯が失われる「侵襲性歯周炎」とは?

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こんにちは、埼玉県さいたま市浦和区にある『ナカニシデンタルクリニック』院長で日本歯周病学会歯周病専門医の中西伸介と申します。

みなさんは「侵襲性歯周炎」という言葉を聞いたことがありますか? この病気はきちんとした診断や治療を行わないと急速に進行してしまう恐ろしい歯周病です。今回は侵襲性歯周炎について説明していきたいと思います。

執筆歯科医師:
中西 伸介(日本歯周病学会専門医)

《保有資格》日本歯周病学会認定歯周病専門医、臨床歯周病学会歯周病認定医等。
《自己紹介》ナカニシデンタルクリニック院長の中西です。近年、歯周病と全身疾患との関連性もわかってきています。歯周病や虫歯は一度なってしまうとそのあといくら頑張って磨いても治ることがないのが実情です。そこでどうせ治らないとあきらめないで一日でも早めの治療をしましょう。

 侵襲性歯周炎の病態は?

まず歯周炎の分類として慢性歯周炎侵襲性歯周炎、そして遺伝疾患に伴う歯周炎の3つに分類されます。
一般的な歯周病として認識されているのは慢性歯周炎と呼ばれているものです。
侵襲性歯周炎は全身的には健康ですが急速な歯周組織の破壊が起こることが特徴となります。歯の周りの骨(歯槽骨)の吸収して溶けてしまい、歯肉が下がって失われます。また破壊のスピードだけでなく失われる健康な歯周組織の量も非常に大きいです。また家族内集積を特徴とします。
また顎全体に症状が出る広汎型と前歯と第一大臼歯付近に症状が出る限局型があります。

 慢性歯周炎との違いは?

慢性歯周炎は発症時期が35歳以降と言われています。主に歯周病原細菌によって生じプラークコントロール等がきちんと徹底されていないと徐々に歯周組織が失われ、周囲の歯肉の腫れや、深い歯周ポケットの形成出血や膿が出るだけでなく歯槽骨の吸収が生じやがて歯の揺れが出てきます。慢性歯周炎は比較的進行が穏やかですが体の抵抗力が低下した際急性化することがあります。
それに対し侵襲性歯周炎は10歳から30歳代といった比較的若年層が多いです。
そのため以前は若年性歯周炎といった病名も付いていました。
また慢性歯周炎では多量のプラークや歯石の付着が認められることが多いのに対し、一般的にプラークの付着量は少なく、歯肉の腫れや赤みもあまり見られません。それにもかかわらず急激な歯周組織の破壊が起こります。つまり症状はあまり無くてもレントゲンを撮影すると高度な歯槽骨の吸収が認められることも多いです。
歯周病原因菌では一般的な菌の他にAggregatibacter actinomycetemcomitanceといった菌の存在比率が高いです。

 侵襲性歯周炎の罹患率は?

罹患率はかなり低く0.05~0.1%とされていますので発症頻度は稀な疾患です。過度の心配は必要ありませんが前述の通り家族内集積を特徴としているため、ご家族の中に若い頃急激に歯周病が進行したケースや大型の義歯を使用している場合は診断に対して家族歴も非常に重要な情報となります。

 侵襲性歯周炎の原因は?

プラーク中の歯周病原因菌が主な原因ですが、発症と進行には遺伝的要因も関与していると考えられています。患者さんの生態防御機能免疫応答の異常が認められるケースもあります。

 侵襲性歯周炎の治療は?

必要に応じて細菌検査を行う他にまずは慢性歯周病の治療と同じく歯周基本治療を行います。正しいブラッシングを行いプラークコントロールの徹底を図ります。またブラッシングでは取れない歯石の除去を目的として超音波チップを用いたスケーリングや、局所麻酔下で歯周ポケット内に存在する歯石や病的な歯周組織除去を目的としたルートプレーニングを行います。
またそれらの治療と並行して抗生物質の投与などを行う場合もあります。
その後に高度な歯周組織破壊が起こっている部位に対して歯周外科治療や歯周組織再生療法を行っていきます。
再生療法として
・組織再生誘導法(GTR法)
・エナメルマトリックスデリバティブ(EMD)
・bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)
・自家骨移植
・人工骨移植
などが挙げられますが症状や病態をもとに、これらの術式の選択もしくは併用して治療を行っていく必要があります。

 治療後のメンテナンスは?

侵襲性歯周炎は術後のメンテナンスも非常に重要になってきます。
特に歯周組織の破壊が高度に起こったケースだと歯周組織が健康な状態になったとしても歯肉が下がり歯根面が露出してしまいますので露出部位のう蝕歯周病の再発のリスクが高くなります。また病的な歯牙の移動が生じた場合矯正治療を行ったり差し歯など被せ物による治療、残念ながら歯の喪失がある場合には義歯インプラントの治療が必要となってきます。これらも長期的に維持するためにはセルフケアだけではなく歯科医院でのプロフェッショナルケアが必須と言えるでしょう。

 まとめ

いかがでしたでしょうか? 侵襲性歯周炎は発症率は低く過度の心配をする必要はありませんが一般的歯周病の症状があまり見られなくても急速な歯周組織破壊が起きる怖い疾患です。発症が疑われる場合には是非大学病院や、歯周病専門医が在籍する病院での診断や治療をおすすめします。