なぜ欧米では新型コロナウイルスの感染爆発の収束が遅かったのか。イギリス在住で著述家の谷本真由美氏は「イギリス人は3密を守るつもりがなく、マスクも着用しない。さらに、自粛を国民に呼びかけた有識者がロックダウン中に不倫相手と密会もしていた。その結果、『家族以外』『野外』のセックスまで禁止になった」という--。

※本稿は、谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らない2 未曽有の危機の大狂乱』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xijian

イギリスではどこへ行っても、密、密、密

6月になってもイギリスでは死者が1日に200名近くというひどい状態でしたが、5月11日以降、ロックダウンが段階的に緩和されはじめたため、市民の間では、新型コロナはもはや消滅したというような扱いになっていました。

5月8日の欧州戦勝記念日は75周年記念だったこともあり、ルールを無視しまくって路上でパーティーを開いたり、バーベキューをやったりする人が続出。我が家の近所でも、路上でのパーティーをめぐって口論が起きました。パーティーをやっている人たちからすれば、「いったい何が悪いんだ!」ということなのでしょう。

富裕層はスコットランドやイギリス南部にある別荘に出かけて、バカンス気分で休暇を楽しみはじめました。そのなかにはベッカム夫妻や有名シェフ、さらにはスコットランド政府で新型コロナ対策を指揮する最高責任者もいました。

イギリスだけではなくイタリアやフランス、ドイツなども同じ事態で、死者や感染者が依然として多いのにもかかわらず、経済破綻を恐れ、ロックダウンを緩和せざるを得ない状況でした。一応、「2メートルのソーシャルディスタンスを守りましょう」「集会は禁止です」などのルールはありましたが、ロックダウン生活に飽き飽きした人々が多数で、もはやルールは形骸化し各地で違反者が続出していました。

3密破りまくり! どこへ行っても、密、密、密です。

■「家族以外」「野外」のセックスは禁止

イギリスの場合、6月1日から学校も段階的に再開していましたが、さすがマスク嫌いのイギリス人、子どもたちにマスク着用を禁止する学校もありました。バスや電車の車内では、一応、マスク着用が義務化されましたが、日本の「マスク警察」が見たら卒倒しそうなほど、ちゃんと着用している人はほとんどいませんでした。

当然のように、路上や店では誰もマスクをしていません。店内でもソーシャルディスタンスなどまるっきり無視で、お互いに近距離でしゃべりまくりです。手の消毒などやりませんし、店員から消毒液を配られても知らん顔です。

こんな調子なので、イギリス政府はロックダウンを緩和したのにもかかわらず、一部のルールを厳密化しました。そのなかにはトンデモないものもあり、なんと自宅で行う家族以外とのセックスのほか、野外セックスまで禁止にし、違反者は刑法犯に問うことにしたのです。これに対して一般市民は、「俺は義父とセックスしなければいけないのか!」と大激怒。イギリスの民度をよく表しています。

なぜこんなことになったかというと、数十万人が死亡するという予測を公表し、市民を恐怖のどん底に陥れた首相のアドバイザーを務めていた学者が、ロックダウン中に不倫相手と密会してゴニョゴニョやっていたからです。「自粛しろ」と言っている奴が不倫しているなら、実は平気なんだろ。室内での密会はダメ、じゃあ野外でするならいいじゃないか──そんなことを言う人が増えたのです。

日本人がまじめに自粛しているあいだ、イギリスは死者数が一向に減らないというのに、不倫しまくり、彼氏彼女の家に行きまくり。これでは状況が改善するはずがありません。

■外食前に手を洗おうものなら変人扱い

そもそも欧州でもアメリカでも、普段から食事の前に手を洗う習慣がありません。学校は土足ですし、靴を履いたまま歩きまわったカーペットの上に幼稚園児が座ったり、寝っ転がったりしています。トイレは高級デパートでもひどい有様で、床がなぜか尿で水浸しだったり、便器が流されていなかったりとメチャクチャです。それ以前に便座が割れていたり、故障だらけだったりして、日本人の想像をはるかに超越しています。

電車やバスのなかでサンドイッチやリンゴを取り出し、手を洗わずにそのまま食べ、ちょっと荒い地域だと、ゴミを床に放り投げます。KFCの食べ残しが床に捨てられているバスもめずらしくありません。

これはイギリスだけではなく、私が4年間住んでいたイタリアをはじめ、欧州の他の国でもそれほど変わりません。几帳面なはずのドイツの衛生概念も「?」です。他人に迷惑をかけないとか、街をきれいに保つとか、そういう基本概念が欠けています。

それどころか、外食前に手を洗おうものなら、周囲の人に「ちょっと神経質すぎて頭がおかしいんじゃないの」と変人扱いされてしまいます。私は新型コロナ以前から医療用のワイプやアルコールを持ち歩き、外食時には必ずテーブルや椅子を消毒していましたし、手もきれいに洗っていました。そんな私の姿を見て、ママ友たちはいつもギョッとしていました。義両親には「神経質すぎる」と言われますし、家のなかを土足厳禁としたら、彼らと口論になったほどです。

■ウイルスやバイキンは誰が教えるのか

日本とは異なり、イギリスをはじめ欧州では、学校で行う体育や理科の授業で公衆衛生やウイルス、バイキンなどに関してあまり教えません。もちろん進学校や教育熱心な学校ならちゃんと教えるでしょうが、全体的にウイルスやバイキン、衛生といった事柄が日常的な教育に組み込まれていないのです。

日本だと、赤ん坊の頃から「アンパンマン」のバイキンマンなどに触れますし、親は「バイキンは怖いんだよ。だからきちんと手を洗おうね」と教えます。ところが他の国にはそういったキャラクター自体、存在しません。

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日本の病院や歯医者には、子どもがバイキンや病原菌の強さなどを理解できるようにいろいろな絵本が置いてあったり、キャラクターが壁に描かれていたりします。日本では公衆衛生に関して考えることが日常的で、そういう問題は身近なのです。保育園や幼稚園でも手洗いうがいの歌があったり、先生が紙芝居で公衆衛生の重要性を教えたりすることもめずらしくない。だけど、欧州の学校にはそういったものがありません。

どうやらこれらの国々では、公衆衛生は学校や教育機関ではなく各家庭が教えるもの、という意識があるようです。学校でも、ハンカチやティッシュを持っているかという抜き打ちチェックはないし、そもそも先生は子どもの健康状態を気にしません。私立の学校なら服装規定のチェックはありますが、あくまで見た目を保つだけ。日本に比べると、先生はあまり子どもたちに気を配っていない感じがします。

さらに、欧州の学校には保健室がないことも多く、「日本の学校には保健室があって、保健の先生が常駐している」と話すと、すごく驚かれます。一応、保健室に該当するような部屋を設けている学校もありますが、日本の保健室に比べると単なる物置みたいな感じで比較になりません。

また、欧州では普段から「子どもにはグロいものや怖いものは見せない」「子どもたちにショックを与えるべきではない」と考える傾向があります。災害や犯罪の話題もやたらと隠しますし、歴史の授業でも戦争の悲惨さをストレートに伝えません。きれいなところや、前向きなものしか子どもたちに見せないのです。その割に、街には麻薬や暴力があふれまくりなので、隠しても無駄だろうと思ってしまいます。

■「健康診断がある」と伝えると驚かれる

イギリスでは、学校で健康診断を行いません。当然、虫歯のチェックもありません。

谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らない2 未曽有の危機の大狂乱』(ワニブックス)

「日本の学校では毎年、健康診断がある」と家人や友人に伝えると、大変驚かれます。イギリスをはじめ、医療費が無料という欧州の国々では、病院で健康診断を受けようとすれば1回に5〜10万円もかかるからです。

イギリスなど欧州では、子どもの発育不良や健康的な問題は、すべて家庭の責任です。思い出してみると、私が日本で通っていた小学校では、保健の先生が毎月「保健だより」を印刷して生徒に配っていましたし、肥満の児童には保健の先生が注意し、栄養や運動の指導をしていました。

私は小学校の頃、肥満児だったので実際にそういう指導を受けていました。友人や親類から日本の学校の話を聞く限りでは、いまでもそれほど変化していないのではないでしょうか。

日本では保護者だけではなく、政府や自治体、教育に関わる人々などの健康に関する意識が高いのだと思います。もともと気にしていなかったら予算もつけないでしょうし、カリキュラムにも組み込みません。保健室だってわざわざ造らないでしょう。

イギリスに住んでいると、みんな健康についてあまり興味がないんだな、と感じます。そういう健康への関心が、新型コロナ対策でも大きな差になっているのでしょう。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)
著述家、元国連職員
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する
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(著述家、元国連職員 谷本 真由美)