現場の医師に聞く、不妊治療の「医院選びのポイント」とは?

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医療ガイダンスが整っている一般的な病気と異なり、不妊治療は、個人の考え方を重視する分野です。それだけに視野が広まり、医院選びを難しくさせているのではないでしょうか。そこで、「小塙医院」の小塙先生に、目安となるフォーカスを当てていただきました。

監修医師:
小塙 清(小塙医院 院長)

北里大学医学部卒業。同医学部産婦人科教室、慶應義塾大学医学部産婦人科教室入局。大学病院の産婦人科勤務後、国内外の大学で不妊症や人工受精、体外受精などを研究。1992年、茨城県小美玉市に位置する「小塙医院」院長就任。1998年には医療法人「小塙医院」理事長就任。茨城県少子化対策課と連携し、茨城県内の不妊治療や生殖医療の普及に努めている。医学博士。日本産科婦人科学会産婦人科専門医。日本生殖医学会、日本受精着床学会、日本女性医学会の各会員。

どの不妊症患者にも言えるポイント

編集部

不妊で悩んでいるときは、やはり、有名なクリニックを受診したほうがいいのでしょうか?

小塙先生

不妊治療の受診先を選ぶポイントとして、「誰にでも当てはまる普遍則」と「患者さんの考え方によって変わる相性」の2種類があると思います。まず優先すべきは、「誰にでも当てはまる普遍則」でしょう。

編集部

例えば、どのような普遍則がありますか?

小塙先生

分かりやすいのは、「不妊外来」を標榜している医院です。産科や婦人科には、どの医師でも普遍的な治療をおこなえるガイドラインがありますが、不妊治療や生殖医療という分野は特殊で、明確なガイドラインが存在しません。日々の勉強や経験、ほかの医師とのディスカッションなどにより、実力差が出るかもしれません。そのため、妊娠の確率をどれだけ上げることができるかは、医師の努力で変わってきます。

編集部

医師に左右されることがあるんですね。クリニック全体でみるとどうでしょう?

小塙先生

チームワーク」は、受診先を選ぶポイントになり得ますね。チームワークのいいクリニックは、患者さんの情報共有を徹底しています。また、それを可能にするため、医師だけでなく看護師や受付も知識が豊富です。医師に聞き忘れたようなことも簡単に教えてくれたり、メンタルケアで支えてくれたりと、“ワンチーム”で接してくれるでしょう。実際、医師よりスタッフと話す時間のほうが多いですよね。

編集部

”距離的な”通いやすさに関してはどうですか?

小塙先生

やはり、近所のクリニックや職場から近いクリニックだと便利ですよね。加えて、医師と患者が親密な関係になることで、よりフィジカルやメンタルのケアが望めます。そのため、できるだけ「通いやすい」クリニックが好ましいですね。

編集部

とはいえ、仕事の都合などでタイミングが合わない場合もあります。

小塙先生

採卵や採卵前の注射・採卵などは、医師がタイミングを見極めた日に受診すべきでしょう。しかし、都合がつけられないケースも理解しています。そこで問われるのが、「いかにして通院させずに採卵や移植などをおこなえるか」という医師の考え方やスキルです。また、新型コロナウイルスの流行により、通院回数を少なくした不妊治療が注目されています。「通院回数」もクリニック選びの判断基準として、頭に入れておきましょう。

個人差が顕著に表れるポイント

編集部

続いて、個人によって観点の分かれるポイントもお願いします。

小塙先生

まず、自然周期か刺激法か、どちらで不妊治療を進めるのかで分かれそうですね。主に体外受精の話になりますが、採卵をおこなうまでのプロセスは、内服薬のみであまり注射を用いない「自然周期」と、連日注射をおこなう「刺激法」に分かれます。どちらにもメリット・デメリットがありますので、医師の説明を聞いてください。ご自身の考え方や通いやすさも加味して考慮する必要があります。

編集部

相談するとなると、医師との相性も影響してくる気がします。

小塙先生

ビシッと指示をしてくれる医師がいいとする人もいれば、一緒に悩んでくれる医師がいいとする人もいますよね。外来は忙しいので、効率よく淡々とこなす医師もいれば、ひとりひとり時間を取りながらじっくり診てくれる医師もいます。バランスの取れた医師が一番いいのですが、いずれにしても、気になる医院を受診して“直接”確かめることが必要です。口コミやインターネットの情報は主観を含むため、実際に受診することが重要だと考えています。

編集部

なるほど。受診する際は、1人の医師だけに診てもらうべきでしょうか?

小塙先生

1人の医師がかかりつけで面倒を見るのか、それぞれの専門性を生かしたチーム医療で担当してくれるのか。これも意見の分かれるところでしょう。方針にブレがなく、少しの変化にも気づいてもらいやすいものの、おのずと限界がある1人の医師なのか。待ち時間の少ない一方、医師間の連携によっては方針が変わりえるチーム医療なのか。こちらも一長一短です。避けるべきは、多人数でベクトルがバラバラな医療機関でしょう。

費用対効果と見切りどきのポイント

編集部

施設や人的要件も大切ですが、やはり費用が気になります。

小塙先生

たしかに不妊治療の費用には、数千円から数十万円といった開きがあります。ただし、高いからといって「高確率」とはいえず、逆に安いからといって「成功しない」というものではありません。やはり、インフォームドコンセントと費用対効果が重要です。方法と説明、理論に納得がいって、費用も問題なければ、そこに決めてもいいと思います。もっとも、「必ず妊娠する方法」は存在しないので注意してください。

編集部

費用の一部を成功報酬にしている医院も見かけるのですが?

小塙先生

成功報酬の費用的なリスクは少ないものの、妊娠確率を上げる根拠とはなりません。「失敗したから費用は要りません」というのも、ドライすぎますよね。他方、一般的な医院で、「なるべく成功させる、信じて選んでくださった患者さんのためにベストを尽くす」ことを心掛けているところはあります。それこそがプロの自負なのではないでしょうか。

編集部

何度もうまくいかなかった場合って、転院すべきでしょうか?

小塙先生

治療を繰り返すことで妊娠率が上がるケースはあります。2015年に発表されたイギリスでの体外受精と累積出生率の評価では、胚移植を繰り返すほど成功確率が上昇し、6サイクルで65%まで上昇したそうです。最大8サイクルで85%という別の報告もあります。

編集部

つまり、転院は避けるべきだと?

小塙先生

繰り返す必要性をきちんと説明しているかどうかですよね。妊娠しない場合、その原因について考察せず、機械的に同じ方法を繰り返しているようなクリニックは考えものです。ただし、やみくもに転院するのではなく、結果への評価や医師の考えを何回も聞いてから判断すべきかと思います。

編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

小塙先生

受診するには勇気がいると思います。昨今、受診の前段階として「無料でのオンライン相談」が増えてきていますので、活用されてみてはいかがでしょうか。出産は「人生の一大イベント」ですから、慎重になりすぎるくらいで構いません。ぜひ、口コミなどに頼らず、医師と直接に面談してみてください。

編集部まとめ

「誰にでも当てはまる普遍則」は必須、「患者さんの考え方によって変わる相性」は選択可能な項目です。これだけ多いと、パートナーと機会を設け、「自分が取るべき選択肢」について話しあっておく必要があるでしょう。その上で、医師の意見を加味して煮詰めていきましょう。セカンドオピニオンは「当然」で、遠慮の介在する余地などありません。