最近よく耳にする不妊治療のERA、EMMA、ALICE検査ってなに? それぞれの違いを教えて!
妊娠確率を医学的に向上させることは可能なのでしょうか。もしも、不妊の原因を検査であぶり出せるとしたら。一部の医療機関で取り扱っている各種検査について、「つくばARTクリニック」の吉田先生に解説していただきました。ERA、EMMA、ALICEの3種類を紐解きます。
監修医師:
吉田 丈児(つくばARTクリニック 院長)
慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学産婦人科非常勤講師、東京歯科大学市川総合病院リプロダクションセンター長・教授を経て、茨城県つくば市に位置する「つくばARTクリニック」院長に就任。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、日本周産期・新生児医学会新生児蘇生法インストラクター。日本人類遺伝学会、日本産科婦人科学会、日本生殖医学会、日本受精着床学会、日本女性医学学会、日本産科婦人科内視鏡学会の各会員。
適切な着床タイミングを知るERA(エラ)
編集部
不妊治療で出てくるERA、EMMA、ALICEなどのアルファベットは、なんのことでしょう?
吉田先生
いずれも体外受精・胚移植に関係した検査ですが、まずは「ERA(Endometrial Receptivity Analysis、子宮内膜着床能検査)」からご説明しましょう。子宮内膜には、受精卵を受け入れられる「受容期」と、受け入れられない「非受容期」があります。受精卵、つまり胚は、形態的に問題なかったとしても、「非受容期」に移植すると着床しません。
編集部
その受容期を調べるのが、ERAということですか?
吉田先生
そういうことです。受容期のことを「着床ウィンドウ」と呼び、患者さんごとに異なる子宮内膜の着床ウィンドウを調べ、適切な胚移植へ結びつけていきます。なお、費用は自費で17万程度になります。
編集部
具体的には、どうやって調べるのでしょう?
吉田先生
子宮内膜の生検で得られた組織の遺伝子を調べます。前提として、「プロゲステロン」というホルモン剤を投与すると、約120時間後に、子宮内膜が移植へ適した状態になります。ただし、人により多少のズレがあるため、それを遺伝子レベルで確認する仕組みです。ズレは「12時間単位」で判明し、例えばマイナス12時間なら、その方の適切な着床ウィンドウはプロゲステロンの投与から「120-12=108時間後」ということになります。
編集部
着床ウィンドウのズレは、どれくらい起こりえることなのですか?
吉田先生
約4500例の胚移植を追った報告によると、全体の37%が非受容期でした。うち、約87%が受容期“前”で、約13%が受容期“後”ということです。このズレを改善した結果、胚移植での妊娠率が約25%向上したとのデータもあります。
善玉菌の割合を調べるEMMA(エマ)
編集部
続いて、EMMAについてもお願いします。
吉田先生
「EMMA(Endometrial Microbiome Metagenomic Analysis、子宮内膜マイクロバイオーム検査)」は、腟(ちつ)や子宮内にいる乳酸桿菌(にゅうさんかんきん)を調べる検査です。従来、子宮内は無菌と考えられていましたが、最近になり、善玉菌であるラクトバチルス(乳酸桿菌)の重要な役割に注目が集まっています。
編集部
腸内フローラならよく聞きますが?
吉田先生
フローラとは菌の集団のことで、子宮内膜の生検で得られた組織の遺伝子検査で判明します。フローラのうち、ラクトバチルスの割合が90%未満の場合は、ラクトバチルスの腟内投与を推奨します。子宮内の乳酸菌の割合を高めることにより、妊娠確率の向上を図ります。
編集部
EMMAの費用はどれくらいかかるのでしょう?
吉田先生
ERAと同時におこなうことが多く、自費でプラス1万円前後です。この費用は検査単体で、その後の処置費などを含みません。
悪玉菌の有無を調べるALICE(アリス)
編集部
最後はALICEについてです。
吉田先生
「ALICE(Analysis of Infectious Chronic Endometritis、感染性慢性子宮内膜炎検査)」は、不妊の原因となる「慢性子宮内膜炎」の起因菌を調べる検査です。ほかの検査と同様、生検で得られた菌の種類を、遺伝子検査で特定します。
編集部
起因菌がいた場合、どうやって処置するのでしょうか?
吉田先生
善玉菌である乳酸桿菌ごと全滅させないよう、お薬を慎重に選んで投与します。なおのこと、遺伝子レベルで正確に特定することが求められるわけです。場合によっては、処置後に乳酸桿菌をサプリメントや腟剤で補充します。
編集部
ALICEの費用についても教えてください。
吉田先生
やはり、こちらもERAと同時におこなうことが多く、自費でプラス1万円前後です。EMMA同様、検査単体の費用になります。
編集部
最後に、各検査の総括をお願いします。
吉田先生
ERA、EMMA、ALICEは、体外受精・胚移植で進めることを前提にした検査です。何度試みても結果が伴わない方に対し、科学的根拠をもってアプローチする手法といえるでしょう。他方、ERAの臨床例を見ると、6割強は適切な「受容期」でした。わざわざ検査をしたところで「合っていました」という結論だったのです。このように、検査の評価はなかなか難しいので、医師とその中身を確認しながら、慎重に進めていってください。
編集部まとめ
ERAは着床ウィンドウ、EMMAは善玉菌、ALICEは悪玉菌を、それぞれ調べる検査ということでした。また、各検査結果に応じた対処法も確立しているようです。なかなか妊娠確率を100%にもっていくことは困難なようですが、今後も新しい検査法や治療法が進み、少しでも不妊治療での妊娠率上昇を期待していきたいですね。