「歯科医師との相性」はどこで判断する? 考えのすれ違いを起こさないための医院選び
歯の治療は元より、病気にならないような定期メインテナンスでも通うことが多くなってきた歯科医院。通院するなら「相性のいいところを選べ」という声を聞くものの、判断基準が曖昧です。なにをもって「いい」とすべきなのか、「斎田デンタルクリニック」の斎田先生を取材しました。
監修歯科医師:
斎田 尚貴(斎田デンタルクリニック 院長)
鶴見大学歯学部卒業。鶴見大学歯学部口腔顎顔面外科学講座入局。歯科口腔外科を中心に一般歯科クリニック勤務。2020年、神奈川県横浜市に「斎田デンタルクリニック」開院。患者さん一人ひとりに治療説明をして向き合い、合意の上で精度の高い治療の提供を心がけている。日本口腔外科学会口腔外科認定医、厚生労働省認定歯科臨床研修指導医。日本口腔インプラント学会会員。
押しつけでも迎合でもない「気持ちのいい合意」
編集部
よく、歯科医院を「相性で選べ」と聞きますが、いまひとつ抽象的なんですよね?
斎田先生
治療法やゴールが最初からアリキなのではなく、「お互いに話しあって決め、なおかつ、そのプロセスがスムーズ」ということでしょうか。医師の対応が治療優先で一方的だと、どうしても患者側と「意見のズレ」を生じさせますよね。
編集部
たしかに、費用の面もありますし、望んでもいない治療をされるのは嫌です。
斎田先生
治療の説明がされていればいいほうで、「なにをされているのか、わからない」ことも起こりえるでしょう。黙ったまま歯科用チェアユニットが倒され、お口の中に正体不明の機具を入れられたら、誰だって怖いと思います。
編集部
なにか、現場での具体的な例を挙げていただけませんか?
斎田先生
私の専門とする口腔(こうくう)外科で多いのは、親知らずの治療です。医局にいたころは、それこそ「抜くのが正義」と信じていました。ところが現実には、さまざまな考え方を持つ患者さんがいらっしゃいます。そのお気持ちを短時間ですくい取れると、「相性がいい」ことになるのでしょう。ただし、将来的な不都合が起きそうな場合は、正直にご説明します。単なる迎合では終わらせません。
編集部
現状で困っていなければ、慌てて抜く必要はないと?
斎田先生
そう決めつけるのも、別の意味で「押しつけ」でしょう。医師の理屈を押しつけるでもなく、患者さんに迎合するわけでもない。つまり、話し合いの結果は患者さんにより異なるということです。お互いに気持ちのいい“合意”が得られてこそ、「相性がいい」と言えるのかもしれません。
合意点は患者の意識によっても変わる
編集部
そう考えると、治療は医師と患者の双方向なんですね?
斎田先生
まさしくそうです。とくに患者さんとの信頼関係が欠かせません。治療の意図や目的が共有できていて、「この先生にお任せしよう」という気持ちを肌で感じれば、医師としても「期待に応えよう」と励むじゃないですか。
編集部
歯科ならではの難しさや特徴などはありますか?
斎田先生
初期のむし歯や歯周病は、「あまり困ってない」ですよね。その段階で無理に治療介入すると、「どうして必要なの?」という誤解を起こしかねません。また、お口の状態が患者さんの日々のブラッシングに左右されることも、歯科ならではの特徴です。みなさん、ブラッシングのために生きているわけではないですから、「もっと上手になりなさい」とも言いづらいのが現状です。
編集部
患者側の向上心や意識も「相性」を左右すると?
斎田先生
結局は、気持ちのいい“合意”なのでしょう。ブラッシングがうまくなりたい方には、どんどんうまくなっていただく。他方で「別にそこまで」という方は、必要最低限のケアができていればいい。まさに臨機応変さが求められます。
自分で会って、話して、見て決める
編集部
セカンドオピニオンについてはどうでしょう?
斎田先生
積極的に利用すべきです。1院目で「相性がよさそうだな」と思えても、もっと寄り添ってくれる医院が見つかるかもしれません。歯科医院でそれなりの費用と時間を費やすわけですから、ぜひ、患者さん側から面接してみてください。
編集部
その際、施設要件などもチェックするべきでしょうか?
斎田先生
細かな医療機器などの確認は難しいと思われるので、「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)」に認定されている歯科医院を選ぶといいでしょう。「か強診」とは、かかってしまった病気を治すというより、組織的なメインテナンスで予防に努めようとする歯科医院のことです。保険の優遇措置といった、目に見える費用軽減も受けられます。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
斎田先生
とにかく医師と会って、信頼関係や気持ちのいい合意が結べるかどうか、逐一確かめてみてはいかがでしょうか。昨今、出かけなくても済む「オンライン診療」などが普及してきましたので、ぜひ有効活用してみてください。
編集部まとめ
不明瞭だった「相性」の正体がわかりかけてきました。それは、医師と患者の「合意形成の在り方」にあるようです。患者が医師を信頼しようとするから、医師もその期待に応えるとのこと。こうした信頼関係が結べれば、おのずとトラブルも減るでしょう。「言ったつもり」、「聞いたつもり」で進んでしまうから、「言っていない」、「聞いていない」が起きるのです。また、セカンドオピニオンも積極的に活用し、課題点や費用についても明確にしてくれるような、自分が納得できる歯科医院探しに励みましょう。