2020年12月より海上保安庁で新たな捜索・救助システムの運用がスタートしています。その名は「MEOSAR」。人工衛星を用いた新システムとのことですが、従来の人工衛星を使ったシステムとは何が違うのでしょうか。

新たなコスパス・サーサットシステム運用開始!

 海上保安庁が2020年12月から、新たに中軌道衛星を使った船舶や航空機の捜索・救助システムの本格的な運用を始めました。これは「コスパス・サーサットシステム」という国際的な仕組みの新システムに加入・対応したというものですが、いったい何が特徴で、どのようなシステムなのか、見てみましょう。

 そもそも、海洋において「船どうしが衝突した!」「飛行中にエンジンから出火した!」などといった非常事態が発生すると遭難信号が発せられます。有名なのはモールス符号による「SOS」ですが、国際的な遭難信号としては1999(平成11)年1月31日をもって廃止されています。

「SOS」の代わりとして、世界的に用いられるようになったのが「コスパス・サーサットシステム」です。これは「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度」(GMDSS:Global Maritime Distress & Safety System)という枠組みのなかで用いられる国際システムで、船や航空機に搭載されたビーコン発信器から遭難信号を発信し、人工衛星で受信して位置を特定し、各国窓口機関へ通報するという流れが短時間のうちに行われるのが特徴です。


ミニボートの転覆。画像はイメージ(画像:海上保安庁)。

 スタートは1979(昭和54)年、アメリカ、カナダ、フランス、旧ソ連(現ロシア)共同での取り組みとして始まり、1988(昭和63)年に国際協定によって範囲が拡張され、現在の枠組みができました。日本は1993(平成5)年から協定に参加しており、海上保安庁が窓口となっています。

 とはいえ当初、運用をスタートした衛星通信を利用した遭難警報、すなわちコスパス・サーサットシステムは、低軌道衛星を利用した「LEOSAR」(レオサー)というものでした。これはGPSなどが内蔵されていないビーコン発信器の位置も計算でき、全地球上で場所を特定できる長所はあるものの、逆に100分程度で周回してくる衛星を最低2回とらえないと測位できないため、ビーコンを発してから位置の特定まで最大で2時間程度かかってしまうという欠点も有していました。

 そこで、LEOSARの欠点を補う新たなシステムとして衛星通信利用の捜索・救助システムが開発されることとなったのです。

新システムを支える3種類の人工衛星

 LEOSARについで、衛星通信利用の捜索・救助システムとして登場したのが、「GEOSAR」(ジェオサー)と「MEOSAR」(メオサー)です。

 従来のLEOSARが、南極・北極を通り高度約1000kmを回る低軌道衛星で、アメリカならびにロシアの低軌道気象衛星に専用通信機を載せた形を採っていたのに対し、1990年代に加わったGEOSARは、赤道上空の高度約3万6000kmに置かれる静止衛星という点が異なっています。こちらはアメリカ、フランス、インドの静止気象衛星に通信機が相乗りする形を採っています。

 2005年から試験が始まったMEOSARは、前出の2つの衛星の中間となる、高度約2万kmを回る衛星を使います。これはGPSやグロナスなどの測位衛星に専用通信機を載せています。

 GEOSERの長所は、北極・南極を除き、常にビーコン発信地点から衛星が見えているため、データが即時に伝わること。短所は、ビーコン信号に位置情報が含まれていないと発信位置が特定できないことと、北極と南極近くでは衛星の見える位置が地平線ギリギリすぎてカバーできないことです。

 最後に登場したMEOSERは、LEOSERとGEOSERのあいだを飛ぶため、双方の短所を改善・補完しているといえます。ビーコンに位置情報がなくても発信地点が判るほか、地球上どこでも測位が可能で、データは即時に転送できます。さらに陸上の救難基地などからビーコン発信器へ、簡単なメッセージを送れるように進歩しているのも特徴です。


2011年、海氷によって遭難しないよう、漁船を先導する海上保安庁の巡視船「てしお」(画像:海上保安庁)。

 海上保安庁が12月に発表した内容は、日本がMEOSARのシステムに対応完了したことが認められたというものです。事故はいつ・どこで起こるか分かりません。万一の時、助けを求める情報がより早く、より簡単な装置でも送れるように進化を遂げたといえるでしょう。

 日本の排他的経済水域は約450万平方キロメートルあり、世界第6位(海外領土を含まない場合)の広さを誇ります。まさしく世界屈指の海洋国家である我が国にとって、今回の「MEOSAR」の運用開始は、心強いものになるといえそうです。