28歳会社員の「寿司リーマン」さんは、稀代の寿司マニアだ。月給の6割を寿司に費やし、この3年間に600万円分は食べたという。なぜそこまでして全国の一流店を渡り歩いているのか。寿司リーマンさんの寄稿をお届けしよう――。
撮影=寿司リーマン
口の中で儚く消える寿司には、魂が込められている。 - 撮影=寿司リーマン

■一流の寿司屋は寿司を食べる場所ではない

はじめまして。わたくし、「寿司リーマン」と申します。月給の6割を寿司に投資し、平均週4回全国の一流寿司屋を食べ歩いている28歳のサラリーマンです。これまで一流寿司に投資した金額は3年間で600万円。累計1万貫の一流寿司を食べてきました。

決してお金持ちの家系に生まれたわけではなく、いわゆる普通のサラリーマンである私が、なぜそこまでのお金と時間を投資して一流の寿司屋に通っているのか? その答えの1つが「一流の寿司屋に行くと成長できるから」です。

私にとって一流の寿司屋とは、寿司を食べる場所ではなく、自己成長につながる場所、いわば「ビジネススクール」なのです。

さまざまな角度から、「一流の寿司屋=ビジネススクール」という観点で読者の皆さまにその魅力をお伝えできればと思っています。

今回のテーマは、「一流寿司屋に通いつめる常連客の正体」です。

皆さまにとって、「全国の予約困難店を定期的に訪問する常連客の正体」はどのようなイメージですか? その正体を考察していきます。

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一流の寿司はアート。細部にまで職人の哲学が詰まっている。 - 撮影=寿司リーマン

■常連の正体は大きく2つの年齢層に分けられる

私はこれまで、全国200軒の一流寿司屋を食べ歩いてきました。そこで出会った人の数はどれくらいか? 一流寿司屋の席数は平均でカウンター8席ほどです。同じ空間、時間を共にするのは1回あたり平均6名。単純計算で1訪問あたり6名×200軒訪問=1200名のお客さんと出会ってきたことになります。

その中で、何かのきっかけで実際にお話する方は、自分の隣に座った方がほとんどなので、毎回2名くらい。つまり1訪問あたり2名×200軒訪問=400名のお客さんと直接会話してきたことになります。

例えば、大将と「このヒラメの食感の感じだと、3日くらい寝かせていますよね?」などといった話をしていると、隣に座る渋めの50代男性にこう言われました。「キミ、いくつだ? 若いけど相当寿司を食べ歩いているな。20代のうちからそうやって身銭を切って一流に触れることは、大切なことだ」。その方は後にわかったのですが、関西圏で高級スーパーマーケットを経営している、メディアにも取り上げられている社長でした。

そうして隣席のお客さんと会話が弾むと、最終的に名刺をいただくこともあります。今までいただいた名刺の数は約50枚。そこから分析した事実と、私の肌感覚とを合わせて「一流寿司屋に通いつめる常連客の正体」をあぶりだしました。

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寿司屋は社交場。名刺交換をすることも多い。 - 撮影=寿司リーマン

そこからわかったのは、「一流寿司屋の常連の正体は、大きく2つの年齢層に分けられる」ということでした。

■1つめの正体、バブル世代の経営者

一流寿司屋に通う常連客で最も多いのは、「経営者」です。私が寿司屋でこれまでいただいた名刺の7割強は、経営者でした。名刺には「代表」と記載されており、HPで社名を検索してみると、だいたい1〜50名規模の会社の経営者。年齢層でいうと、50代前半の男性がボリューム層です。コンサルティングや飲食業界の方が多いです。経営者以外だと、医師、会計士、弁護士の方にもよくお会いします。

見た目の雰囲気は、質の高いジャケットを着こなしていたり、高そうな腕時計をしていたり。そしてお隣には奥さま、あるいは愛人なのか、同伴中のクラブのホステスなのかわからない、奇麗な女性がいることも多く、なんとなく「社長っぽいオーラ」を感じます。寿司を食べながら耳を傾け、会話内容を聞いてみると「この前うちの社員をあの寿司屋に連れて行ったんだけどさ」などといった話をされていることもあります。そうした見た目の雰囲気と会話内容から、「なんとなくこの人社長っぽいな」と思いながら寿司を食べます。

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カウンターを通しての「出会い」も寿司屋の楽しみの1つ。 - 撮影=寿司リーマン

■バブル期の価値観を強く持ち、とことんお金を落とす

私は大将と会話しながら寿司を楽しみたいタイプなので、「このコハダの皮目の柔らかさからすると、産地は熊本県天草ですか?」「札幌の寿司屋だとあそこがうまいですよね」などといった寿司好きならではの会話を仕掛けます。自然とほかのお客さんにもそうした会話が耳に入るので、隣に座っている社長らしき人に「キミ、なかなか面白い子だね」と声をかけられることがあるのです。最終的に名刺をいただくと「代表」の文字。こうしてたくさんの交流をしてきました。これがたまらなく楽しいです。

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江戸前寿司の技術が詰まった王道ネタ、コハダ。 - 撮影=寿司リーマン

このような方は、ご自身で会社を立ち上げられた、いわゆるオーナー社長なので、行動の自由が利く方が多いのでしょう。当然、お金も持っていますし、私的な飲食費用も経費で落とせるため、大枚をはたきやすいかと思います。会計の際に「領収書ちょうだい」というシーンをよく見かけます。

また、50代前半というと、俗に言う「バブル世代」の中心。

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ルイ・ヴィトンのケースにマグロ。バブリーな寿司屋が人気を集めている。 - 撮影=寿司リーマン

世代的な傾向として、コミュニケーション能力が高くフットワークが軽い人が多いです。そして、男らしさや女らしさを大事にする。「貯蓄よりも消費!」という考えを持っており、ブランド志向が強い。若い頃から「猛烈に仕事をして出世したい、稼ぎたい」「高級車に乗りたい、ブランドもののバッグが欲しい」「銀座の高級寿司屋でうまい寿司を食べたい」などの価値観を強く持つ世代だからこそ、今でも一流寿司屋を普段使いし、気に入ったらとことんその寿司屋にお金を落としていくのです。

■もうひとつの正体、ミレニアル世代

バブル世代の方々が常連客の中心となっているのは間違いないのですが、実はそれ以外にも一流寿司屋に通う世代がいます。最近寿司屋でよく見かけるのは、「23〜33歳くらいの若い方々」です。世代でくくると、「ミレニアル世代」と言えるでしょう。

一流寿司屋に足を運ぶミレニアル世代は、3つのパターンに分けられます。1つ目は、「稼ぎがあるビジネスパーソン」。コンサルティング、MR、金融、ITなど、いわゆる高給取りと言われるような職業の方々です。2つ目は、「育ちが良い若者」。企業に勤めてはいるものの、ご両親が経営者、医者などといったお金持ちの家系で育ってきた方々です。3つ目は、「パパ活女子」。容姿端麗な美女がバブル世代のおじさまに同伴し、ご馳走(ちそう)してもらっているようなシーンもよく見かけます。

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同世代だけで一流寿司屋を楽しむ「寿司リーマン会」。写真中央・下が寿司リーマンさん。 - 提供=寿司リーマン

■「インスタやってますか?」が合言葉

こうしたミレニアル世代は、スマホで寿司の写真や動画を撮りながら食べるのも特徴です。ミレニアル世代の特徴として、「周りからどう思われているかを気にする」「モノよりもコト(体験)に対してお金をかける」「必要なものであれば、高くても質がよいモノにはお金を惜しまない」などの傾向があります。

質の高い感動体験を求めて一流寿司屋に足を運び、それを思い出としてSNSで写真や動画を周囲に共有することが、この世代にとってのイケてる価値観なのです。実際に、寿司屋で出会った同世代の方々とも交流することは多々ありますが、合言葉は「インスタやってますか?」です。

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寿司職人だけを集めた「寿司リーマン会」も実施。インスタをやっている寿司屋も多い。写真左下が寿司リーマンさん。 - 提供=寿司リーマン

例えば、熊本県の寿司屋にひとりでランチに来ていた福岡在住の29歳の男性と交流がありました。ブランド物のハンドバッグを持ち、会計を気にせず高い日本酒を飲みまくる彼は、不動産会社社長の息子さんとのこと。全国の一流寿司屋を食べ歩いている同士として意気投合し、その場でInstagramを交換しました。そしてその日のディナーでもたまたま同じ寿司屋を予約しているという奇跡が起こり、今では一緒に全国の寿司屋を定期的に食べ歩く仲間になっています。

■最近増えている、ちょっと怪しい若者たち

また、最近、予約困難店で「ちょっと怪しい若者たち」の姿を目にすることも増えています。エグザイルのようなイケイケ系の風貌で、「GUCCI」や「BALENCIAGA」などと大きく書かれた文字がプリントされた、いかにもなブランド服を身にまとっている20代前半の男性グループです。彼らの会話内容を聞いていると、「ビットコイン」「アフィリエイト」「FX」などの単語が頻繁に出てきます。こうした「働かずに不労所得を得て自由に暮らしたい」というコミュニティの中でそれなりに成功した若者が、一種のステータスとして、一流寿司屋に足を運ぶのかもしれません。

「お店にお金を落としてくれるのはいいけど、ただ騒いで帰るならもう来ないでほしいな」とぼやく大将もいます。年齢や職業にかかわらず、目の前に置かれた寿司としっかり向き合い、真剣に味わうことが、一流寿司屋でのマナーです。客側の私たちも、そうしたお店へのリスペクトを忘れずにいたいと思います。

寿司仲間の役員から仕事のアドバイスをもらっている

ここまで「一流の寿司屋に通いつめる常連客の正体」について書いてきました。寿司屋にはいろいろな客が集います。中でも、私は1つめの正体「バブル世代」の方々との交流を楽しんでいます。目上の方々、特に経営者とのコミュニケーションはビジネスパーソンにとって、勉強になることが多いからです。

私には寿司屋で出会い、その後長く関係性が続いている方々がたくさんいます。例えば、札幌の予約が取りにくい一流寿司屋で隣席だった大手外資系コンサルティング企業の役員(40代男性)と、寿司好き同士ということで意気投合。その場で連絡先を交換し、2カ月後に、金沢で一流寿司屋の食べ歩きをご一緒させていただきました。今でも定期的に寿司仲間として、寿司屋の情報交換はもちろん、仕事へのアドバイスをいただくような、ありがたい関係を作ることができました。

寿司屋はレストランではなく、社交場だ

そのほかにも、香港から定期的に日本の予約困難店を訪れている30代の香港人女性美食家とも寿司屋で出会いました。「繊細でアートのような日本の食文化は素晴らしい。寿司リーマンオススメの全国の寿司屋情報を教えてほしい」と言われ、Facebookで友達になりました。彼女は出会ってから半年後には、わざわざ私を訪ねて日本にまた来てくれました。寿司をコミュニケーションに活用して、海外の方を接待することになるとは思っていませんでした。

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寿司屋で出会った香港人の美食家。定期的に情報交換。写真左が寿司リーマンさん。 - 提供=寿司リーマン

私はこうして、一流寿司屋をただ単に、「美味しい寿司を食べる場」として利用するだけでなく、いわば「社交場」として活用し、質の高い方々と出会ってきました。それにより人脈が生まれ、人生が豊かになっている実感があります。

カウンター文化の寿司屋だからこそ生まれる、そこに集う客たちとの交流。一流の寿司屋は社交場であり、自身の成長につながる場だと私は考えます。このような観点で寿司屋に足を運ぶと、あなたにとって新たな発見や学びがあるかもしれません。

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一流職人こそ、意外と気さくな方が多い。写真右が寿司リーマンさん。 - 提供=寿司リーマン

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寿司リーマン(すしりーまん)
会社員
25歳で訪れた石川県の名店「太平寿し」をきっかけに寿司屋の奥深さを知り、全国200軒以上の予約困難店を食べ歩く28歳のサラリーマン。月給の6割を寿司に投資し、累計10000カンの一流寿司を食す。そこでの実体験から編み出した「一流の寿司屋はビジネススクール」という独自の価値観で、寿司の価値を再定義し、発信している。各種SNS 
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(会社員 寿司リーマン)