坂井学・官房副長官は「携帯電話市場には競争原理が働いていない」と語る(撮影:尾形文繁)

9月に発足した菅政権が目玉政策の1つとして打ち出しているのが、携帯電話料金の値下げだ。

だが、政府が民間サービスの価格に直接介入することは原則許されないはずだ。では、菅政権はどういう形で携帯電話料金を値下げするのか。また、菅首相はなぜ、携帯料金の値下げにこだわるのか。

菅首相の側近で、通信分野に詳しい坂井学内閣官房副長官に聞いた。

家族4人なら月1万円の値下げ

――総務省は10月27日、モバイル市場の適正化に向けたアクションプランを発表し、翌28日にはKDDIとソフトバンクがそれぞれのサブブランド(UQモバイルとワイモバイル)において、「20GBで4000円前後」という新プランを発表しました。こうした動きをどうみますか?

基本的には評価したい。20GBという、今までプランがなかった容量のところに新しいプランがつくられて、これまでの大容量の料金と比べると45%前後値段が下がっている。

新しい値段でサービスが提供されたことは、ユーザーにとっても選択肢が広がることになる。

――今回はサブブランドに新プランが加わっただけで、値下げとは言えないとの声もあります。新プランで提示された料金水準に納得しているのでしょうか。

2〜3GBではなく、20GBの大容量で5000円を切る金額は、私は値下げだと思っている。50GB使う人の値段は下がらないが、これまで20GBしか使わない人はプランがないために50GBで契約していた。20GBのプランで十分なわけで、家族4人分であれば1万円を超える月々の値下げになる。かなり値が下がった実感はあると思う。

(新プランが出てきた背景には)楽天の存在もある。楽天はいま5Gで月額2980円というプランなので、そこも大きいだろう。いずれにせよ、(国の方針に)何も反応しないよりは、政府の「お願い」に配慮していただいた対応なので、(菅)総理も評価していると思う。

――携帯料金を国際比較する際に引き合いに出されるのはNTTドコモの料金ですが、ドコモにはサブブランドがありません。

ワイモバイルとUQモバイルが同じようなプラン、サービスで4000円前後の価格帯を示している。そのあたりでドコモも(何らかの形での料金引き下げを)お考えなのではないのかなと、私は思っている。

――NTTとNTTドコモの統合でドコモに値下げ余地も生まれるということですが、統合の背景に「官邸の意向」があったのではないかとの臆測もあります。

おっしゃる意味がわからない。NTTに「統合しろ」なんて考えもないし、言ってもいない。

結果として、いままでより4割ほど安い値段で20GBという大容量を利用できるプランを出していただければ、十分値下げとみなしうるし、評価できるとの思いは(政府内に)あったとは思う。ただ、政府にはどのような手段、どのような形でという意向はまったくない。

携帯料金はもっと安くできる

――2018年に菅官房長官(当時)は、「携帯料金は4割安くなる」と発言しました。背景には何があるのでしょうか。

菅総理は総務大臣の前に、テレコム系の副大臣をやっていて、その頃からずっと(携帯料金を)追いかけてきた。総務大臣の頃も「携帯料金が高い」ということを発言している。

2年前の発言は、ぽっと誰かに言われて出たものではない。あのタイミングで確信をもったので話をした。発言を聞いたとき、私は「これは本気だ」と思った。総理は誰よりも情熱をもって、(携帯市場を)健全なマーケットにしたいと思っている。


さかい・まなぶ/1965年生まれ。1989年東京大学法学部卒。松下政経塾に入塾(10期)。鳩山邦夫衆院議員秘書を経て2005年衆議院議員(4回当選)。財務副大臣、総務副大臣兼内閣副大臣などを歴任し、2020年9月内閣官房副長官に就任(撮影:尾形文繁)

情報通信網は生活のインフラになっていて、公共財のような意味を持つ。一方で、(NTTやKDDIなどの)キャリアは、電波という国民の財産を独占してビジネスを行っている。料金はもっと安くできるのに、努力しないのはけしからんというのがまずあった。

さらに、3社が3社とも同じような利益率をあげている。構造をみていくと、キャリアと端末メーカーに「ウィンウィン」の関係がある。しかし、消費者はその関係に入っていない。(携帯)ショップでも、販売員が売りたくない売り方、勧めたくない勧め方を消費者にしているケースがある。総理にはキャリアや端末メーカーなどが消費者を向かず、のけ者にしているのはおかしいという意識がある。

民間企業がいくらの値段をつけるか、行政には強制力がない。お願いベースでこういうことが望ましいと言ってきたが、どこまで値下げしろと強制的に言うことはない。料金は適正利潤をのせて決まるし、のせてもらうのはかまわない。ただ、それが適正かどうかだ。

競争原理が働かない中で、その上乗せ(幅)が適切ではなかったりする。健全な競争環境の中で競争原理が働くのが何より大事なことで、その環境を整えることが何よりも必要だ。健全な環境で競争原理が働けば、自然に適切な値段に収斂していく。

――坂井副長官は7月、携帯料金値下げに向けた提言書を自民党有志としてまとめ、菅官房長官(当時)に提出しました。報告書のポイントはどこにありますか。

いくつかあるが、一番真剣に考えてもらいたいのは、国内外の各キャリアのサービスを比較する指標や数字がないということだ。それでは、ユーザーがどのサービスが優れているのか、適切に評価できない。

ユーザーごとに、「通話が切れにくい」「データの通信速度が速い」など(キャリアに)求めるものが違う。単純な値段は海外が安いが、サービスの優劣は単純に値段だけでは決められないところがある。料金プランも複雑になりすぎていて、どれが得なのかわからない。

自分がどんな使い方をしているのかわからない人も多い。そうした人にもわかりやすい指標ができないかと考えている。そうした指標をつくるための情報をキャリアが出したがらない。企業秘密もあるが、役所に工夫してもらって何とか実現させたい。

eSIMやSIMフリーが今後の課題に

――携帯電話市場の競争環境の整備について、今後課題になることは何ですか。

キャリア間の流動性は課題の一つだ。提言書で求めている「eSIM」(内蔵SIM=料金の安い事業者に乗り換える手間が簡略化できる)は、アクションプランでずいぶん取り上げてもらった。このあたりも3大キャリアは乗り気ではない。キャリアにしてみると、ユーザーにはなるべく動いてもらわないほうがいい。

SIMフリーも課題だ。端末を購入するとき、ローンを組むとロックがかかったままとなり、100日後に(SIMロックを)解除するための手続きをしなければならない。これを100日後に自動でできるようにするべきだという話をしている。端末の中古市場を整備していく必要もあるだろう。

公正取引委員会は携帯市場で競争原理が公正に働いているか、調査を始めたと発表した。公取委の判断も横目で見ながら、競争環境の整備についてしっかりフォローしていかなければならない。

(政権では)総理の強い意思が共有されている。総理は武田良太総務大臣、通信政策トップの谷脇康彦総務審議官に指示を出して、施策はよく進んでいる。私もお手伝いできるところはしていきたい。