「不安で行列してしまう人たち」の行動原理。悪循環を断つには?
新型コロナウイルスの影響で、店頭からマスクやトイレットペーパーが品薄に。そしてそれらを求めて、すでに買いおきがあるにも関わらず、何度も朝早くからドラッグストアの開店待ちをしたり、何店舗も探し回ったりする姿が問題視されています。
こうした「不安に対して衝動的に行動する人たち」について、うつ専門メンタルコーチの川本義巳さんが解説してくれました。
不安で衝動的に行動してしまう人たちの心理とは
マスクやトイレットペーパーを求めて衝動的に行動する人たちを見ていると、かつて指導したクライアントさんのことを思い出しました。
小田美雪さん(仮名)は25歳の看護師。総合病院の外科病棟に勤めていました。
性格はまじめでおとなしいタイプ。自分から意見をはっきり言うことはなく、「頼まれたら断れない」ことがよくありました。
1年目はもう無我夢中でとにかくよく怒られました。たまに「理不尽だなあ」と思うこともありましたが「これが仕事というものなんだ」と割りきり、がんばっていました。2年目からは後輩もでき、自分のことばかりというわけにはいかなくなります。
●怒られないために先回り
美雪さんの心の内には、いつも2つの考えがありました。
・患者さんに迷惑をかけてはいけない
・怒られないようにしなければならない
いつもこの2つのことを意識して働くようになりました。
3年目になって仕事に慣れてはきたものの、やはり2つの考えは頭から離れません。気がつくと、必要以上に物事を確認したり、他人の気持ちを先回りして考えるようになりました。仕事の責任は増え、後輩を指導する機会も多くなり、先輩からも「もっと自分の判断で行動して」と強く言われ、日に日にプレッシャーを感じるように。
●「今日やること」が頭から離れなくなって
そんなある日のことです。朝目覚めたときに「今日の仕事のこと」がふと頭に浮かびました。
そして「自分がやるべきことはなんだっけ?」「抜け落ちはないかな?」「昨日しくじっていないだろうか?」などの考えがどんどんと浮かび、それらをひとつひとつ処理しようとしても、また別のことが浮かびます。ほんの短い間でしたが美雪さんは汗びっしょりになり、意識が真っ白になる感覚に襲われ座り込んでしまいました。
その日はなんとか仕事に行くことができましたが、しばしばそういう状態が起こるようになりました。それにつれて「ちゃんとしなければ」という気持ちもふくれ上がり、仕事が終わってもなかなか帰れない、非番の日も職場に行きたくなってしまうということが起こるようになりました。
●自分なりに調べたことが裏目に
「さすがにこれはおかしい」と感じた美雪さんは、いろいろと調べました。本来なら病院に行く方がよかったのですが、自分が医療現場にいるということもあり、なかなかその気になれません。むしろ「自分の問題」ととらえ、自分で解決しようと考えたようです。
自分なりに調べた結果、不安症・抑うつ・パニック障害・適応障害あたりが近い感じがしました。その改善策として、サプリメントがいいと聞けばそれを購入したり、整体がいいと聞けば遠方であっても治療に行ったり、冷えが問題と聞けば体を温めることをしてみたり…。
気づいたことを次から次へとやりましたが、すぐに効果を感じることはなく、そのたびに「これじゃないんだ。なにか別のことがあるはず」と思ってしまいます。
その結果、また「頭が真っ白になってへたり込む」ことが増え始めました。「もうどうしていいのかわからない」…そう感じて、ついに私の元を訪れたそうです。
一般的にうつ傾向の人は「行動できない、動きたくない」という感覚になることが多いのですが、美雪さんのように「不安を解消するために行動し続ける」という人もいます。
この人たちは常に考えるということをしがちです。そのため「考えずにゆっくりしなさい」というのが難しいのです。不安から衝動的に行動すると、間違えることも増え、その結果さらに不安が増えるという悪循環に陥ることもあります。
このタイプの方の相談を受けるとき、私は3つのことをアドバイスしています。
(1) 行動したくなったら、一度体の動きを止めて深呼吸する。
(2) 「その行動にリスクはないか?」について探求する。できれば代替案も考える。
(3) あえて「できていること・うまくいっていること」を考える時間をとる。
不安に対して衝動的になる人は、一連の動きが自動化されています。そこで一旦動きを止めて深呼吸をすることにより、自動化のパターンを崩すことができます。
また行動の基本が「不安回避」にありそれが最優先されるのですが、同時にリスク分析をすることで歯止めをかけることができます。そのときに代替案もつくってあれば比較検討できるので、客観的に自分を観察するきっかけになります。
また「考えすぎる」という面を逆に利用して「プラスの面について考える時間を増やす」のもいいです。悩みは心が安定した状態で取り組むのがベストなので、プラス探求での状態をつくります。
不安から衝動的になるタイプの人について3つの提案をしてきましたが、「信頼できる人に相談する」ことも大事です。当てはまると感じた人は、ぜひ試してみてください。
●教えてくれた人
【川本義巳さん】
うつ専門メンタルコーチ。高校卒業後、SEとして20年以上メーカーに勤務。大手IT企業への転職を機にうつ病を発症、寝たきり状態になり、1年2か月の休職を余儀なくされる。職場復帰後も6年間うつ病に悩まされ、さまざまな方法を試すが失敗。2007年コーチングに出合い、うつ病を完全克服。その体験をきっかけに現職に。著書に『1日3分でうつをやめる。
』(扶桑社刊)がある
こうした「不安に対して衝動的に行動する人たち」について、うつ専門メンタルコーチの川本義巳さんが解説してくれました。
不安で衝動的に行動してしまう人たちの心理とは
不安から衝動的に行動すると、間違えることも増え、さらに不安が増えるという悪循環に
マスクやトイレットペーパーを求めて衝動的に行動する人たちを見ていると、かつて指導したクライアントさんのことを思い出しました。
小田美雪さん(仮名)は25歳の看護師。総合病院の外科病棟に勤めていました。
性格はまじめでおとなしいタイプ。自分から意見をはっきり言うことはなく、「頼まれたら断れない」ことがよくありました。
1年目はもう無我夢中でとにかくよく怒られました。たまに「理不尽だなあ」と思うこともありましたが「これが仕事というものなんだ」と割りきり、がんばっていました。2年目からは後輩もでき、自分のことばかりというわけにはいかなくなります。
●怒られないために先回り
美雪さんの心の内には、いつも2つの考えがありました。
・患者さんに迷惑をかけてはいけない
・怒られないようにしなければならない
いつもこの2つのことを意識して働くようになりました。
3年目になって仕事に慣れてはきたものの、やはり2つの考えは頭から離れません。気がつくと、必要以上に物事を確認したり、他人の気持ちを先回りして考えるようになりました。仕事の責任は増え、後輩を指導する機会も多くなり、先輩からも「もっと自分の判断で行動して」と強く言われ、日に日にプレッシャーを感じるように。
●「今日やること」が頭から離れなくなって
そんなある日のことです。朝目覚めたときに「今日の仕事のこと」がふと頭に浮かびました。
そして「自分がやるべきことはなんだっけ?」「抜け落ちはないかな?」「昨日しくじっていないだろうか?」などの考えがどんどんと浮かび、それらをひとつひとつ処理しようとしても、また別のことが浮かびます。ほんの短い間でしたが美雪さんは汗びっしょりになり、意識が真っ白になる感覚に襲われ座り込んでしまいました。
その日はなんとか仕事に行くことができましたが、しばしばそういう状態が起こるようになりました。それにつれて「ちゃんとしなければ」という気持ちもふくれ上がり、仕事が終わってもなかなか帰れない、非番の日も職場に行きたくなってしまうということが起こるようになりました。
●自分なりに調べたことが裏目に
「さすがにこれはおかしい」と感じた美雪さんは、いろいろと調べました。本来なら病院に行く方がよかったのですが、自分が医療現場にいるということもあり、なかなかその気になれません。むしろ「自分の問題」ととらえ、自分で解決しようと考えたようです。
自分なりに調べた結果、不安症・抑うつ・パニック障害・適応障害あたりが近い感じがしました。その改善策として、サプリメントがいいと聞けばそれを購入したり、整体がいいと聞けば遠方であっても治療に行ったり、冷えが問題と聞けば体を温めることをしてみたり…。
気づいたことを次から次へとやりましたが、すぐに効果を感じることはなく、そのたびに「これじゃないんだ。なにか別のことがあるはず」と思ってしまいます。
その結果、また「頭が真っ白になってへたり込む」ことが増え始めました。「もうどうしていいのかわからない」…そう感じて、ついに私の元を訪れたそうです。
不安を解消するために行動し続けるのも、うつ傾向の行動のひとつ
一般的にうつ傾向の人は「行動できない、動きたくない」という感覚になることが多いのですが、美雪さんのように「不安を解消するために行動し続ける」という人もいます。
この人たちは常に考えるということをしがちです。そのため「考えずにゆっくりしなさい」というのが難しいのです。不安から衝動的に行動すると、間違えることも増え、その結果さらに不安が増えるという悪循環に陥ることもあります。
このタイプの方の相談を受けるとき、私は3つのことをアドバイスしています。
(1) 行動したくなったら、一度体の動きを止めて深呼吸する。
(2) 「その行動にリスクはないか?」について探求する。できれば代替案も考える。
(3) あえて「できていること・うまくいっていること」を考える時間をとる。
不安に対して衝動的になる人は、一連の動きが自動化されています。そこで一旦動きを止めて深呼吸をすることにより、自動化のパターンを崩すことができます。
また行動の基本が「不安回避」にありそれが最優先されるのですが、同時にリスク分析をすることで歯止めをかけることができます。そのときに代替案もつくってあれば比較検討できるので、客観的に自分を観察するきっかけになります。
また「考えすぎる」という面を逆に利用して「プラスの面について考える時間を増やす」のもいいです。悩みは心が安定した状態で取り組むのがベストなので、プラス探求での状態をつくります。
不安から衝動的になるタイプの人について3つの提案をしてきましたが、「信頼できる人に相談する」ことも大事です。当てはまると感じた人は、ぜひ試してみてください。
●教えてくれた人
【川本義巳さん】
うつ専門メンタルコーチ。高校卒業後、SEとして20年以上メーカーに勤務。大手IT企業への転職を機にうつ病を発症、寝たきり状態になり、1年2か月の休職を余儀なくされる。職場復帰後も6年間うつ病に悩まされ、さまざまな方法を試すが失敗。2007年コーチングに出合い、うつ病を完全克服。その体験をきっかけに現職に。著書に『1日3分でうつをやめる。
』(扶桑社刊)がある