世界最大の半導体製造ファウンドリにアメリカ政府が国内生産を要求、中国との対立が原因か
by Fritzchens Fritz
アメリカ政府が、台湾の半導体製造ファウンドリであるTSMCに対して、チップ製造をアメリカ国内で行うよう圧力をかけていると報じられています。アメリカ政府がTSMCに圧力をかけるのは、中国政府からの干渉を避けるためだといわれています。
The US government still wants TSMC to produce chips in America - TechSpot
日経アジアレビューによると、世界最大の半導体ファウンドリであるTSMCは、アメリカのステルス戦闘機F-35で使われているチップの製造に関わっているとのこと。
2018年1月にアメリカが緊急輸入制限(セーフガード)による追加関税措置を発動したことを皮切りに、アメリカと中国の貿易関係は急速に悪化。2020年1月15日にアメリカと中国は「包括的な貿易協定の第1段階」に合意し、米中貿易戦争は一時休戦と報じられましたが、依然としてアメリカと中国の間の緊張は高く、アメリカ政府はTSMCにアメリカでチップ生産を行うよう要求しているそうです。
by Sandia Labs
2018年12月31日、アメリカでAsia Reassurance Initiative Act(アジア再保証推進法)が成立。この法律は、アメリカが台湾へ武器を定期的に売却することを認めるもので、アメリカと台湾の協力体制を強くすることで、中国へのけん制の意味合いがあるといわれています。これに対し、中国の習近平国家主席は「外部の干渉や台湾独立勢力に対して武力行使を放棄することはしない。必要な選択肢は留保する」と発言したことが2019年1月に報じられました。
技術系メディアのTechspotは、「中国が台湾を武力行使で支配する可能性があるため、アメリカは自国の防衛産業が大きく依存するTSMCを、軍事的にも技術的にも敵対する中国の手中に収めさせたくないのだろう」と主張しています。
by iphonedigital
TSMCは日経アジアレビューに対して「アメリカで半導体の製造工場を建設する、あるいは買収することを否定したことはありません」と語っています。また、日本経済新聞の報道によると、TSMCの劉徳音董事長は「アメリカでの工場建設の可能性を排除はしないが、コストが壁になる。顧客はコストアップで価格が高騰するのを望まないだろう」と述べ、軍事用のチップをアメリカ国内で生産することに対して慎重な姿勢を示しました。
TSMC劉董事長、米生産は「コストが壁」 :日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54473770W0A110C2FFE000/
なお、TSMCは軍用チップの生産だけではなく、AppleやAMD、Qualcomm、NVIDIAなど、多くの大手デバイスメーカーやチップメーカーのチップ製造にも関わっています。そのため、TSMCがアメリカ国内での生産に切り替えることで価格が高騰すれば、世界的にPCやスマートフォンの価格も高騰することが予想されます。