緊急来日したバナヤン氏が参加した「サードドア」読書会。「たとえ99人にノーと言われても、本当に必要なのは、たった1人のイエスと言ってくれる人だ」と語り、会場は熱気に包まれました(撮影:笠間勝久)

12万部突破のベストセラーとなり、世界18カ国で刊行中の『サードドア:精神的資産のふやし方』。著者のアレックス・バナヤン氏は、フォーブス誌「30歳未満の最も優れた30人」、ビジネス・インサイダー誌「30歳未満の最もパワフルな人物」などに選出され、アップル、グーグル、ナイキ、IBM、ディズニーなど著名企業で講演を行っている。

2019年11月、バナヤン氏が緊急来日し、東京と沖縄で催されたイベントに参加した。バナヤン氏は何を語ったのか。その模様をお届けする。

成功者たちはどうやって成功にたどり着いたのか

2019年11月28日、日本最大級の読書会「みんなの読書会」が主催するイベントが東洋経済新報社(東京都中央区)で行われ、アレックス・バナヤン氏がオープニングトークを行った。


話題のベストセラー『サードドア:精神的資産のふやし方』の特設サイトはこちら(画像をクリックするとジャンプします)

今から9年前、18歳の大学生だったバナヤン氏は、ペルシャ系ユダヤ人である移民の子としてアメリカで育ち、さまざま困難の中で生きてきた両親から、ある「プレッシャー」を受けていたという。

「私は、両親から『医者になりなさい』と言われつづけてきました。大学では医学部進学課程に進み、両親を喜ばせるためにも勉強していましたが、その中で、まるで自分の魂が抜き取られていくかのような感覚に陥ったのです。

同じ思いをしているのは、自分だけではないということにも気がつきました。会社にお勤めの方も学生の方も、かつての私のように『本当は好きではないことをしている』という感覚を胸に秘めておられる方は多いかもしれません。

しかし、かと言って私には、自分が何をしたいのかがわかりませんでした。尊敬する成功者たちはいます。でも、彼らがどうやって成功にたどり着いたのかもわからない。そこで疑問を持ったのです」

「ビル・ゲイツは、無名時代、寮暮らしをしながらどうやって最初のソフトウェアを売り込んだのだろう? レディー・ガガは、ウェイトレスとして働きながら、どうやって最初のアルバムの契約を結んだのだろう? こういったことは学校では教えてくれません」

バナヤン氏は図書館にこもり、成功者の自伝を片っ端から読み込んだ。だが答えは見つからない。そこで、誰も書いていないなら自分が成功者に聞いて本を書いてみようと思い立ち、『サードドア』の旅が始まった。ところが、インタビューを申し込んでも次々と断られる。ビル・ゲイツに会うまでに2年を要したという。

夢の実現を邪魔するのは「失敗することへの恐れ」

「本を書く、起業する、ミュージシャンになる。いろんな夢がありますが、それを実現するには2種類の障害があると私は考えています。


アレックス・バナヤン/作家、スピーカー。1992年8月10日、カリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。大学1年生の期末試験の前日、アメリカの有名なテレビ番組『プライス・イズ・ライト』に出場し、世界で屈指の成功者たちから「自分らしい人生の始め方」を学ぼうと旅に出る。19歳のとき、シリコンバレー史上最年少のベンチャーキャピタルとなる。また、アメリカの大手出版社クラウン・パブリッシャーズ史上、同社と契約した最年少の作家となる。『フォーブス』誌「30歳未満の最も優れた30人」、『ビジネス・インサイダー』誌「30歳未満の最もパワフルな人物」に選出(撮影:Hoi Shan Wu)

1つは外面的な障害。私にはたくさんありました。まず、ビル・ゲイツのアシスタントたちです。当時は無名の大学生で、経験もお金もない。一切の信頼、信用を築いていませんから。

そして、外面的な障害がどれほど困難でも、それを上回るのが内面的な障害です。これは、自分が否定されること、拒絶されること、失敗することへの恐れです。私にとって最大の障害は、家族から見放されるのではないかという恐怖でした。

多くの人が夢に踏み出せないのは、『自分の周りの大切な人たちにそっぽを向かれるんじゃないか』と考えるからではないでしょうか。とくに私は、家族からの無言のメッセージを受け取っていました。『もし成功しないなら、もしいい子でないなら、あなたはこの家族の一員ではない』と。

大学を中退して本を書き始めると、ますますプレッシャーは高まりました。もしかすると『大学も出ていない、失敗した人』になってしまうかもしれない。首を締められるような苦しさでした」

バナヤン氏は、顧客獲得、資金調達、データ解析など外面的な障害に打ち勝つための指南書は社会にあふれているが、やはり人間にとっての最大の課題は、内面的な障害、つまり「恐れ」だと語る。

「私は当初、偉大な成功者たちは恐れを知らない人々なのではないかと考えていました。ところが、実際に彼らに話を聞くと、誰もが当初から恐れを感じており、しかも、人生を通して、つねに恐れを抱き続けていたということがわかったのです」

「最初はこの意味が理解できませんでした。でも気がついたことは、成功者は恐れを知らないのではなく、勇気を持っていたのだということです。恐れを知らないというのは、何も考えずに窓から飛び降りるようなものです。一方で、勇気を持つというのは、自分の恐れを認識しつつ、どんな結果になるかを分析し、それでもやろうと決断して踏み出すことなのです」

『サードドア』では、けんもほろろになりながら、数々の成功者たちにインタビューを交渉していくが、その過程で、バナヤン氏を支援するメンターやインサイドマンも登場する。だが、それは出会った中のほんの一部の人々だという。

勇気を出して自分自身を見せれば、ドアは開く

「ノーと拒絶されたすべての経験を書いたら、『サードドア』は1000ページほどの大作になったでしょう。その中で、なぜ彼らはイエスと言ってくれたのか。本当のところはわかりません。ただ唯一言えるのは、私が信じていることを、彼らもまた信じてくれたということです。

人生で重要なことは、自分の夢や目標、ミッションについて、自分自身に正直であるならば、たとえ99人にノーと言われても、本当に必要なのは、たった1人のイエスと言ってくれる人だということです。

なにかを恐れたとき、人間はどうしても正直にすべての真実を語ることができなくなります。そして、どうにかして目の前の人にうまく動いてもらえないかと考えてしまう。すると、間違った方向へ引き込まれてしまうのです。

本の中にダンという人物とのエピソードが登場しますが、まさにその例です。私が自分に正直であれば、そもそも彼とは友人にはならなかったでしょう。

やはり、勇気を出して自分自身であること、自分自身を見せるということが支援を得ることにつながります。本当の自分を見せてしまって、はたして誰か助けてくれるのだろうかと恐れると、つい自分の言いたいことではなく、相手が言ってほしそうなことを考えてしまうのです。

でも、相手が聞きたがることを言っても、それは虚像にすぎません。耳に心地のいいことを言うから好かれるだけです。本当の自分自身が好かれなければ、いい関係には発展していきませんよね」

恐れと闘いながらも、勇気を持って自分自身を正直に見せつづけ、『サードドア』を書き上げた原動力について、バナヤン氏は「自分よりももっと大きな動機を持つことだ」と語る。

「恥ずかしい話ですが、私には女の子にモテないという悩みがありました。同じように、お金持ちになりたい、有名になりたいといった欲望が人間にはあると思います。こういったことを動機にすることは恥とされ、悪いもののように言われます。でも人間、誰だって欲望を持つものですし、それもあってこそ、完全な自分であると思います」

「ただ、成功者から学んだのは、お金持ちになりたい、有名になりたいということを1番の動機にしていた人は、困難な状況に陥ると、たちまち逃げ出してしまうということです。

一方で、自分の欲望よりももっと大きな、『これを絶対に達成したい』というミッションを描いている人は、たとえ何度パンチを食らっても立ち上がり、そのゴールを目指していきます。

 あくまでも、自分自身にとってそれがためになっているという動機を持つことが重要です。自分自身と対話したとき、自分のやっていることに意味があるのか、誇りに思えるのかということです」

自分自身にとって何が最善なのか?

『サードドア』では、大学生として勉強するという規定路線と、成功者に突撃インタビューを申し込んで本を書くという自分の目標との間で揺れ動くバナヤン氏が描かれる。読書会に参加した大学生からは、「大学に行く意味はありますか?」という質問が飛んだ。

「アメリカでも、よく学生さんから『大学って行く価値ありますか?』と聞かれます。アメリカでは、子どもが大学に進学することは、その家族全体を一段レベルアップするための最善の道だと考えられがちなんです。

大学の価値についての議論は盛んに行われていますが、問題は、みんながこの議論に対する『唯一の答え』に着地しようと必死になっていることだと私は思います。この問いには、答えはありません。まず、問いが間違っていますから。

そもそも、一人ひとりの学生、その状況は異なるものです。大学で4年間過ごすことが人生の中でベストな選択だという風に考える人もいますし、4年間の後、さらに2年間修士を取るために通う、この6年間がベストだと考える人もいます。私の場合は2年間ですね。大学に2年行って、早めに終えて出てきたわけです。

私が思うに、1番の課題は、それぞれの人が『自分自身にとって何が最善なのか?』ということを、自分の胸に問いかけることができていないというところです。これでは、信頼する人に『全員にとってのベストアンサーは何ですか?』と聞いたほうが簡単だということになってしまいますよね。

私が7年間やったことが、まさにそれだったんです。ビル・ゲイツを訪ねて、『成功するための、全員に当てはまるような正しい答えは何ですか?』と聞いていました。でも本当に重要なのは、その問いを自分自身に投げかけるということなのです」

成功者たちに「全員に当てはまる答え」を求めつづけた結果、バナヤン氏はついに『サードドア』という自分自身の道を見いだす。

翌11月29日、沖縄に飛んだバナヤン氏は、スタートアップ応援イベント、「『サードドア』に学ぶ!成功への抜け道を見つけ出す方法」in 沖縄(共催・howlive、Forkwell、東洋経済新報社)に登壇。そこで、本を書いたことによって立ち表れた、自身の新たなミッションについて語った。


バナヤン氏は、読書会の翌日、沖縄のスタートアップ応援イベントに登壇し、自身の新たなミッションを語った(撮影:Hoi Shan Wu)

「9年前、私は今とはまったく違う目標を持っていました。最初は、できるだけ多くの人にインタビューをして、その人たちの知恵を300ページくらいの本に詰め込もうと考えていました。

しかし、この本の魂はそこじゃないと気がついたんです。今になってわかってきたことは、この本の魂は『可能性』ということです。成功者たちへのインタビューから学んだことをもとに、私が誰かにツールや知識を与えたとしても、その人はまだ『自分の人生は行きづまっている』と感じるのではないかと思います。

でも、その人自身がやろうとしていることについて、『自分にはこれができる、可能性があるんだ』ということを信じる力を与えてあげることができたら、変化が起きる。それが、私のこれからのミッションです」

価値観は成長し、変化させていくもの

本を書くことによって自らを成長させ、新たなミッションへの道を発見したバナヤン氏は、人生において人間として成長し、価値観を変化させていく必要性を語る。

「価値観というものは、時とともに変化していくものだと思います。子どもの頃からなにも価値観が変わらないということなら、その人自身がなにか間違っているんじゃないかと私は考えます。おとぎ話のように、生まれつき持った価値観をずっと維持し続けるなんて、目をつむったまま人生を生きるようなものですよ。

本当に目を開いて物事を見ていれば、世の中にはさまざまな苦悩があり、正さなければならないことがたくさんあるということに気づかされます。人間として成長してゆけば、自然と価値観も成長し、変化していくのではないでしょうか」