公共事業としての存在意義が問われている(デザイン:新藤 真実、撮影:尾形 文繁)

「既存業務全体の見直しを徹底的に進め、受信料額の適正な水準を含めた受信料のあり方について、引き続き検討を行うことが必要」

11月8日、高市早苗・総務相は閣議後の記者会見でそう語った。NHKが提出したテレビ番組をインターネットで常時同時配信するための実施基準案について、監督官庁の総務省はこの日、再検討を要請。並行して3つの分野について改革を進めるべきだと強調した。

その1つが冒頭の発言にある受信料だ。総務省は「国民・視聴者にとって納得感のあるものとしていく必要があり、受信料の公平負担を徹底するほか、業務の合理化・効率化を進め、その利益を国民・視聴者に適切に還元していくといった取り組みが強く求められる」としている。

受信料収入は5年連続過去最高に

『週刊東洋経済』は11月18日発売号で「NHKの正体」を特集。肥大化が進む公共放送を総点検している。


NHKの業務全体を肥大化させない」と高市氏は言う。総務省のトップがクギを刺さなければならないほど、NHKの規模は拡大している。受信料収入は5年連続で過去最高を更新し、2018年度は初めて7000億円を超えた。

規模拡大を支えるのは受信料の支払率の上昇だ。2018年度末の推計支払率は81.2%と、この10年で10ポイント伸びた。「公平な負担」を掲げて受信料の徴収を積極的に進めており、テレビの設置者が契約を拒めば、法的手段も辞さない。2006年から民事手続きによる支払督促の申し立てを実施。2011年からは未契約世帯に対して民事訴訟にも踏み切っている。

さらに追い風も吹く。2017年12月、テレビ設置者にNHKとの受信契約を義務づける放送法の規定について、最高裁判所は合憲と判断。その後、一般世帯や事業所から自主的な契約の申し出が相次いだ。

NHKの振る舞いに対する不満は大きい。それが顕在化したのが、元NHK職員の立花孝志党首率いる「NHKから国民を守る党(N国党)」の躍進だ。「NHKをぶっ壊す!」と連呼して脚光を浴び、今年7月の参議院選挙では比例代表で90万票以上を獲得、1議席を確保した。選挙区でも得票率2%を達成し、政治資金規正法、政党助成法が定める政党要件を満たした。

受信料に対する不満は、これまでもNHKについて回っていた。2004年に紅白歌合戦の担当プロデューサーによる制作費の不正支出が発覚。受信料の不払いが広がり、受信料収入は1年で400億円近く減少し、支払率も70%を切った。これを機にNHKのあり方を見直す議論が始まった。

2012年度に初の値下げ

長期間の議論を経て、2012年度にNHKとして初めての値下げが実施された。衛星放送を含まない地上契約の場合、2カ月払いの月額換算で口座振替の場合は1345円から1225円に120円引き下げられた。

値下げと同時に進められたのが、経費の削減だ。受信料徴収のために年間800億円以上をつぎ込む営業経費を抑制すべく、2008年には訪問集金を廃止し、引き落としや振り込みに統一した。2009年には公開競争入札による受信料契約・収納業務の法人委託を開始。個人委託の訪問員である地域スタッフを削減し、効率化した。

2012年度には職員の給与削減の方針を発表。2013年度からの5年間で基本賃金を約10%削減。会長や役員の報酬も一部カットされた。

値下げによって、NHKの収入はいったん落ち込んだものの、再び拡大に転じた。冒頭で説明したように、支払率を引き上げてきたからだ。

NHKはこれを受け、今年10月に消費増税分を上乗せせず、実質2%値下げした。そして来年10月にはさらに2.5%値下げする。そのほか負担軽減策も実施し、NHKの経営計画によれば、2019年度の受信料収入は2018年度に比べ、30億円減収、2020年度はさらに78億円減収となる見込みだ。

収入に上限があれば、視聴者にもメリット

NHKの受信料収入は、5000億円くらいをメドに上限を設けるべきだ」

そう話すのは、元総務相政務官で放送改革やネット同時配信の議論に携わってきた自民党の小林史明・衆議院議員だ。上限を決めれば、支払率が上がれば上がるほど、1人当たりの負担は下がる。一方で現状は、受信料を払う人が増えても、すでに払っている視聴者にはメリットがない。「NHK側にもある程度は理解してもらったと思っている。直近の値下げはこの考え方に基づいている」(小林氏)。

ガバナンス面でも課題は山積している。今年9月には、かんぽ生命保険の不適切販売を取り上げた報道をめぐり、日本郵政が抗議し、NHKが続編の放送を見合わせたことが明らかになった。さらに抗議を受けた経営委員会が上田良一会長を厳重注意し、会長名で事実上謝罪する文書を郵政側に届ける事態に発展。NHKの報道の独立性を揺るがす事実が浮かび上がった。

今回、『週刊東洋経済』は一連の課題や今後の方針について話を聞くべく、上田会長への取材を申し込んだが、実現しなかった。その上田会長の任期は来年1月まで。次期会長人事にも注目が集まる。肥大化やガバナンス不全の指摘にどう応えていくのか。国民のまなざしは厳しくなる一方だ。

『週刊東洋経済』11月23日号(11月18日発売号)の特集は「NHKの正体」です。