ニューカッスル・ユナイテッドのFW武藤嘉紀が苦しい心境を吐露した。

 10月27日に行なわれたプレミアリーグ第10節のウルバーハンプトン・ワンダラーズ戦。武藤は3試合ぶりにベンチに入ったが、最後まで出番は訪れなかった。前節まで2試合連続でメンバー外。これで3試合連続、出場機会がなかった。


武藤嘉紀が現在の苦しい状況について口を開いた

 先発はプレミアリーグ第10節までわずか1試合。先発フル出場は、リーグカップでの1試合しかない。出場機会が激減している武藤は試合後、苦悩の表情を浮かべながら静かに語り始めた。

「ここ2試合ベンチ外でしたし、非常に厳しい。(自分の)状態はよく、別に悪いプレーをしたわけでもない。なんで出られなくなったのかもわからない。それは本当に厳しいですね。

 やっぱり信頼されていないというのはある。(試合に)出ないと、本当に始まらないから。もったいない時間を過ごしているなと非常に思います。練習だけしていても、成長しないですから。

 もちろんトレーニングでコンディションは維持しているけど、やっぱり試合に出て、試合に長く出ることによっていろいろわかってきたり、成長すると思うので。有意義な時間を過ごしているとは言えないですね」

 スティーブ・ブルース監督は現在、守備的な5−4−1のシステムを採用している。開幕当初は3−5−2の2トップを併用し、武藤も2トップの一角として出場する試合もあった。

 しかし、プレミアリーグ第3節以降はシステムを1トップに固定。この1トップには、今夏の移籍期間に加わった長身FWのジョエリントンが継続起用されている。

 その1トップの競争が激化している。

 同じく夏の移籍期間で、2006年から2011年までニューカッスルに在籍したFWアンディ・キャロルがチームに復帰した。193cmの大型FWで、最前線でボールを収める動きを求めるブルース監督の好みにも合致している。ニューカッスルの下部組織出身で、サポーターの人気も絶大だ。

 もうひとり、ニューカッスルに戻ってきたのがFWドワイト・ゲイルである。2016年からクラブに在籍しているが、素行が悪いともっぱらの評判で、昨シーズンはラファエル・ベニテス前監督が英2部のWBAにレンタルで放出していた。

 ところが、新指揮官のブルースはスピードが売りのゲイルを非常に気に入っている。ブルース監督が英2部のハル・シティやアストン・ビラを率いていた際、ゲイルの獲得を何度も試みたほどである。要するに、”指揮官好み”のFWが3人、今季からチームに加わった格好だ。

 開幕当初は、キャロルとゲイルがケガで戦列を離れていた。だが、このふたりが故障から復帰すると、武藤が登録メンバーから外れるようになった。練習でもCFの位置に入っているのは、ジョエリントンとキャロル、ゲイルの3人。武藤は守備タスクの多いサイドMFに回されていると言う。

「チームは今、基本1トップ。1トップ以外やらない選手が3人いますから。(自分のことは)1トップとは考えられていないですね。練習でも、サイドの右か左をやっています」

 サイドMFには、今夏に加わったアラン・サン=マクシマンと、冬の移籍期間にやってきたミゲル・アルミロンのふたりがレギュラーの座に君臨している。サイドMFを本職としない武藤は、ここでもスタメンから遠のいている。

 武藤としては「ケガもしてないし、状態もいい。練習でもいい」との強い自負があり、監督の起用法にどうしても納得がいかない様子だった。そこで、記者から「1月に移籍期間になるが、決断を下すこともあるか」と質問が飛ぶと、言葉を慎重に選びながら次のように答えた。

「もちろん(可能性はある)。なんて言うのかな…うーん……(言葉を選ぶのが)難しいな……。このプレミアリーグで試合に出て、やるのが一番ですけど、そうじゃなくても他にリーグはいっぱいある。

 もちろん、このリーグが最高峰ではあるけれど、自分が試合に出ないと間違いなく自信も失っていきます。悪いプレーをして、『こいつ通用しない』と思われて弾かれるなら、それは自分のせいだと思うけど。こればかりはもう……どうしようもない。

 昨季に関しては、自分のせいでした。ケガのタイミングも悪かったし、アジアカップに行ってしまい、その時にチームの先発メンバーが固まってしまったので。

 ただ今季に関しては(リーグカップでゴールを決めて)結果も出した。だけど、何も変わらない。やっと回ってきたチャンスのレスター戦(9月29日)では犠牲になった(※チームメイトが前半に退場となって武藤が交代)。

 悲観的になってはいけないけど、サッカー選手というのは、試合に出ていなかったら絶対にハッピーじゃないし。もし冬に残って、また半年間出られなかったら、それこそ本当に無駄な時間を過ごすというか……」

 英国人のブルース監督は、とてもじゃないが優れた策士とは言えない。チームに細かい戦術を落とし込んでいるようには見えず、むしろ「戦う姿勢」や「ハート」を全面に押し出すタイプの指揮だ。自陣で守備を固め、ロングボールやロングカウンターの”一発”に活路を見出すしか策がない。

 その点で言うと、武藤がマインツで指導を受けたマルティン・シュミットやサンドロ・シュヴァルツといった戦術家たちとは対極にある。武藤が置かれている状況から言えば、自身を正しく評価し、特性を生かしてくれる場所に移ったほうがよいかもしれない。

 ただ、武藤にとって難しいのは、ブルース監督の去就が定かではないこと。チームは2勝3分5敗の17位に沈んでおり、監督が交代するシナリオもあり得る。武藤も「それもわからないから(決断は)難しい」と話していた。

 果たして、武藤は冬の市場でどんな決断を下すか──。27歳FWの動向に注目したい。