日韓の「軍事情報共有」消えても日本のマイナスはほぼゼロ
北朝鮮の飛翔体(写真:KNS/KCNA/AFP/アフロ)
韓国政府は8月22日、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄すると発表した。これを受け、「日本政府に衝撃」と見出しを打った日本のテレビ局もあったが、そもそもGSOMIAとは一体なんなのか。
軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏に話を聞くと、「2016年に締結された、日韓間で共有された軍事情報を漏らさないための取り決めです」と説明する。保護協定というが、実際には軍事情報の共有ルールのことである。
GSOMIAは運用されてまだ日が浅く、実際にどんな情報が対象となっているかは明らかにされていない。黒井氏によると、具体的な内容としてあげられるのは、北朝鮮のミサイルに関する情報だという。
「韓国のレーダーを使えば、発射直後の情報や発射直前の北朝鮮軍の動きなどがわかり、それらを日本が受け取ることができます。韓国側にとっても、日本のレーダーが収集したミサイルの着弾地点や航跡などを共有して情報分析に役立てることができ、両国にとってメリットがありました」
日韓のGSOMIA締結については、アメリカが後ろ盾となった経緯がある。
「日米韓の軍事的な協力体制があるとはいえ、日米が共有した情報を韓国など第三国に流すことは、本来やってはいけないこと。国際ルールに違反します。韓国側からの情報を日本が受け取ることも同様です。このためアメリカが日韓のGSOMIA締結を働きかけてきたんです」
韓国がGSOMIAを破棄したことによるデメリットはないのだろうか?
「現状ではそんなに大きなデメリットはありません。運用してまだ3年ですし、北朝鮮のミサイル情報などがメインで、それ以外の重要な情報共有がなされていたとは思えません。ミサイルに関して言えば、強力な情報収集能力を持っているアメリカ軍からの情報提供もあるので」
しかし、「日米韓における軍事作戦の連携という意味では、将来的にデメリットが出てくるでしょう」と黒井氏は続ける。
「有事の際、軍事作戦を立てるには、まず情報分析が必要となります。取り決めがなくなれば、アメリカが渡すはずの軍事情報の共有がスムーズにいかず、作戦を立案する力も弱くなります。
またこのトライアングルが崩れることは、対北朝鮮、対中国にとって、日米韓の連携が取れていないことの象徴的なアピールになってしまいます。特に中国にとっては、喜ばしいことかもしれません」
日本が韓国を貿易上の「ホワイト国」から外したことへの対抗措置とみられるGSOMIAの破棄だが、今後、大きな影響が出ないことを祈るばかりだ。