ステラ・ドネリーは28日(日)、フジロック3日目のRED MARQUEEに出演した。(Photo by Kazushi Toyota)

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昨晩の豪雨を耐えたフジロッカーへのご褒美のような晴天が広がった最終日。真っ昼間のRED MARQUEEには、オーストラリア最西端の州都パースからやってきた麗しのシンガーソングライター、ステラ・ドネリーの日本初ステージをひと目見ようと、超満員のオーディエンスが駆け付けていた。

アバの「Dancing Queen」が大音量で響き渡る場内に、弾けるような笑顔を浮かべたステラと、バンド・メンバーのジョージ(Gt)が登場。『ストリートファイター』の春麗を思わせるお団子ヘアで、ビッグサイズのカットソーに身を包んだ彼女が「コンニチワ、ステラ・ドネリーです!」と挨拶すると、周囲からは「カワイイ〜」と歓声が上がる。幼少期のステラの愛くるしい写真(2017年のデビューEP「Thrush Metal」と同様に、やはり何かを食べている)が映されたスクリーンをバックに、キーボード担当のジョージと2人っきりで歌われたのは「Grey」だ。どこかセンチメンタルなギターのアルペジオや、楽曲の繊細さを伝えるビブラートに、この人の才能はホンモノだと確信する。


Photo by Kazushi Toyota

「アリガトウ! えーっと、アリガトウ…ゴザイマス??」と発音を確かめるように日本語でお礼を述べると、「この曲は昔のボス(上司)についての歌よ」と言って3月にリリースされたデビュー・アルバム『Beware of the Dogs』より「U Owe Me」をしっとりと歌い上げ、タイトル・トラックの「Beware of the Dogs」、「Mosquito」へと続く。曲によってはジョージもステージ袖に消え、ハミングを交えながらたった1人でオーディエンスを虜にするステラだが、シェルピンクのフェンダー・ストラトキャスターがここまで似合うミュージシャンは他にいないかも。オーストラリアの自宅でYouTubeの配信を見ているという父親に、「みんなで呼びかけましょう! ハーイ、ダッド!」と手を振ったシーンはこの日最初のハイライト。一体どんな愛情の注ぎ方をしたら、あんなに良い娘さんに育つのでしょうか……。


Photo by Kazushi Toyota

中盤からは、アルバムにも参加したジェニファー(Ba)やタルヤ(Dr)ら残りのバンド・メンバーも勢揃い。重心の低いフォーク調のサウンドに乗せて歌われたのは、妻子がいながら若い女性に手を出す男性に対して《今度彼女に触ったら、奥さんと子供にバラしてやるから》と脅しをかける「Old Man」だ(#MeTooムーブメントに対して「魔女狩りだ」と発言したウディ・アレンにインスパイアされたという)。続いて、呪術的なビートと共に自身の中絶経験について振り返る「Watching Telly」では、コーラスの《Get it right!》というフレーズをメンバーと共にシャウト。シリアスなテーマも鮮やかなポップスへと昇華してしまうステラだが、米ローリングストーンのインタビューで「失恋や惨めさに呑み込まれることはないわ、人生は楽しいものでもあるから」と語っていた真意が、ライブで味わうとより説得力を伴って痛感させられる。

軽快でキャッチーなギター・ポップ「Seasons Greetings」や、昨年このRED MARQUEEのステージに立ったマック・デマルコの脱力サイケデリアを連想させる「Bistro」を経て、「すごくアップリフティングな曲だから、一緒に踊ろう!」と告げて始まった「Die」では、キーボードのジャックと共にエビカニクスも顔負けのダンスを披露。「死にたくない!」と連呼しながらステージを右に左にムーブする彼女は「キャハハッ!」と吹き出してしまっていたが、芯の強いSSWというだけでなく、れっきとしたエンターテイナーでもあるんだなあと感心してしまった。


Photo by Kazushi Toyota

ツアーに出かける前に感じるホームシックを歌った「Lunch」を女性メンバーと共に威勢よく合唱すると、いよいよステラの名を知らしめた名曲「Boys Will Be Boys」をソロで演奏。親友からレイプ被害を告白された体験を元に書かれたこの楽曲は、図らずも#MeToo時代を象徴するアンセムとなったが、寄り添うようなギターの音色と《男の子なんだからしょうがない》という諦念にも似たコーラスの悲痛な叫びに、会場中が水を打ったように静まり返っていたのが印象的だった。おそらく、ステラの書く歌詞やその背景を知らなかったオーディエンスにとっても、心に響く何かがあったのだろう。

「靴下のままでゴメンね。ブーツが重すぎたから……(笑)」と照れ笑いを浮かべると、ラストは再びバンドと共に「Tricks」へ。ジョージが弾くペイヴメントばりに調子っぱずれなスライド・ギター(合間にしれっとディープ・パープル「Smoke on the Water」のリフを挟んでいたので思わずニヤリ)と、「もう少し女の子らしく振る舞ったほうがいいぞ」と諭す外野に対して《Leave It Alone(ほっといてよ!)》と繰り返すステラの人懐っこいボーカルが魅力のナンバーだが、例のミュージック・ビデオからそのまま飛び出してきたようなキュートさ&コメディエンヌっぷりには、次世代のスター誕生の現場に立ち会ったような興奮を覚えた。初日のキング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードといい、前日のコートニー・バーネットやシーアといい、そしてステラの出番後にGREEN STAGEへ出演したハイエイタス・カイヨーテといい、音楽シーンにおける「オーストラリア無双状態」はとんでもないことになっている。




Photo by Kazushi Toyota

ちなみに、筆者は翌日に渋谷の神南坂 JOURNAL STANDARD(ステラのジャケを模したコラボTシャツ、苗場でも本当に良く見かけました)で開催されたインストアライブにも足を運んだ。そこでは「Thrush Metal」のジャケ写を撮影した張本人でもあるジョージとの愉快なエピソードも交えながら、フジロックでは演奏されなかった「Mechanical Bull」を含む全8曲を披露。バックに自身のMVが流れる中で歌うのは初めての経験だったそうだが、音数を絞れば絞るほど、彼女のケイト・ブッシュにも似た「狂気」のようなものを感じる瞬間があり、まだまだポテンシャルを隠し持っていることは間違いない。12月には早くも東京・大阪で単独公演が決定しているが、きっとまた、我々に新たな表情と最高の笑顔を見せてくれるのだろう。

※関連記事:フジロック現地取材 ステラ・ドネリーが語る「自分らしさ」の話

<来日公演情報>



Stella Donnelly JAPAN TOUR 2019

12月11日(水)渋谷クラブクアトロ
OPEN 19:00/START 20:00
TICKET:¥6,000(前売・1ドリンク代別)

12月12日(木)梅⽥SHANGRI-LA
OPEN 19:00/START 20:00
TICKET:¥6,000(前売・1ドリンク代別)

公演詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=3209