ネイマール抜きでコパ・アメリカに挑むブラジル代表。14日の開幕戦ではボリビアと対戦する。(C)Getty Images

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 普通に考えれば、ブラジル代表にとって、エースを欠場は大きなマイナスだ。しかし、時と場合によってはプラス、それもかなりのプラスとなりうる。そのことを、コパ・アメリカ前の2つの強化試合(6月5日のカタール戦、9日のホンジュラス戦)を見て感じた。

 カタール戦では、ネイマール(パリ・サンジェルマンルマン)が先発した。この10番は、4月下旬のフランスカップ決勝の後、相手チームのファンを小突いてフランス・サッカー連盟からペナルティーを受けた。

 この行為をセレソン(ブラジル代表)のチッチ監督も問題視し、キャプテンをネイマールから右SBダニエウ・アウベス(パリSG)へ交替させた。ネイマールに主将を務める資格がないと判断したのである。

 そして6月1日、ネイマールの頭上に爆弾が落ちた。サンパウロ在住のブラジル人女性が、警察に「5月中旬、パリ市内のホテルでネイマールに性行為を強要された」と被害届を出したのだ。
 
 ネイマールはこの女性との関係を持ったことを認めたものの、「合意の上だった」と主張。彼の父親は女性の弁護士から被害届を出さない代わりに金銭を要求されたことを明らかにし、ネイマールは過去のこの女性とのSNS上のやり取りと女性から送られてきた裸体を含む写真を自身のインスタグラムで公表した。

 警察は、これが違法行為に該当する可能性があるとして取り調べを始め、ネイマールの身辺は大騒ぎになった。ネイマールコパ・アメリカへの準備のために5月下旬からリオ郊外で行なわれていた代表合宿に参加しており、この爆弾はネイマール個人のみならずセレソン全体に壊滅的な損害を与えた。自国開催のコパ・アメリカ制覇を狙うべきチームが、いまにも空中分解しそうに思えた。

 しかし、カタール戦におけるエースの故障が、図らずも問題を解決してくれた。この試合で、セレソンは16分に先制したが、その直後にネイマールが右足首の痛みを訴えてピッチを去ったのだ。その8分後にも追加点を奪ったが、後半は運動量が落ちてスペースへ飛び出す動きが少なく、逆にカタールに攻め込まれる場面が多かった。

 2-0で勝ったとはいえ決して褒められた内容ではない――。最近のセレソンではよくある試合だった。

 そしてカタール戦の翌日、ブラジル・サッカー連盟はネイマールが右足首の靭帯を断裂し、コパ・アメリカ出場が不可能となったことを発表した(その後、ネイマールの代わりに、チェルシーのMFウィリアンが招集された)。
 
 6月9日、エースを欠くセレソンは、国内南部のポルトアレグレでホンジュラス大会前最後の強化試合を行なった。

 いつもならネイマールが入る左ウイングには、ダビド・ネーレスが起用された、この今シーズンにアヤックスで大活躍した22歳に加えて、右ウイングのリシャルリソン(エバートン/22歳)、CFガブリエウ・ジェズス(マンチェスター・シティ/22歳)という若きアタッカートリオが、敵最終ラインの裏やDFの間のスペースを狙い、少ないタッチでパスをつないで決定機を作り出す。

 ガブリエル・ジェズスらの得点で、前半だけで3-0とリード。こういう状況になると、いつもならネイマールが“遊び”のプレーを交えたり、走るのをやめたりするのを合図に緩んだ空気が流れ、チーム全体がペースを落とすことが少なくない。しかし、この日は違った。後半もすべての選手がひたむきにゴールを目指し、さらに4点を追加。7-0と大勝した。試合内容はカタール戦よりはるかに良く、まるで重しが取れたようだった。

 私は、この「重し」がネイマールだったと考える。問題を次から次へと起こすお騒がせ男がいなくなり、チームから重苦しい空気が一掃された。