各ジャンルで「学歴」はどんな影響を及ぼしているのか。今回、それぞれのジャンルで強い大学を徹底調査した。第7回は「警察、消防、地方公務員」について――。

※本稿は、「プレジデント」(2018年10月1日号)の特集「高校・大学 実力激変マップ」の掲載記事を再編集したものです。

■腕立て伏せテスト、どこを重視するか

手堅い就職先として人気安定の公務員。まず警察官・消防官の合格者数上位には、公務員試験の強さに定評のある日本大学をはじめ、国士舘大、帝京大、東海大といった東京のマンモス私大が目白押しだ。

AFLO=写真

「過去の合格実績もあって、日大の学生さんはある程度しっかり勉強すればできる、という自信を持っているように見えます」――公務員・教員試験が専門の予備校、東京アカデミーの伊藤憲司・全国統括執行部長は、上位の大学の共通点を指摘する。

「いずれも体育会系のクラブ活動が非常に盛んで、就職に関しても、部の先輩から後輩への繋がりや影響力が代々とても強いのが特徴の1つ。1、2年生の段階から、公務員試験への対策を、学校じたいが力を入れている点が何より大きい」(伊藤氏、以下同)

どの大学も、公務員就職をめざす専門講座を3年次から設けるのは当たり前。入学早々の1年次からリメディアル(補修)教育などに取り組んでいる。

「公務員試験は警察官なら18科目程度ありますが、そのうち3、4科目は低学年のうちに手掛けておくのです。多くは文章読解と算数計算の基礎ですが」

大学生の水準に達していない基礎学力を補うのだ。「この“基礎教育”の実施は、ここ10年くらいで増えてきた動き」。3年次の、公務員講座からのドロップアウトを防ぐための準備だ。

警察官で関西トップの龍谷大学は、対策のきめ細かさで定評がある。

「1、2年生に基礎講座、3年生に公務員講座を設置。それも行政職のための講座とは別枠で、警察や消防のための専門講座を設けています」

消防官については、上位大学のカリキュラムの特色はより明確で、「全員が救急救命士の受験資格を取得できるだけでなく、資格取得と消防官試験のための対策プログラムが併設されていることがポイントです」。

京都橘大学は、前身の京都女子手芸学校から共学化。2年前に健康科学部に救急救命学科を設置し、資格試験対策に力を入れている。千葉科学大学や中部大学も、同じく救急救命士の受験資格取得に繋がる学科を持つ。中京大学も1、2年次から公務員対策の“基礎教育”をきっちり行っているという。

警察・消防官と事務系公務員との違いは、面接・実技試験の比重の高さだ。

「実技試験では反復横跳びや腕立て伏せもあります。警察官の場合、腕立ての上限が20〜30回と決まっていて、タイムの速さや回数の多さというよりも、号令に合わせて規則的にやれるかがポイント。逆に少数精鋭で体力重視の消防官はタイムや回数を見ます。受験生もムキムキで、タンクトップを着ているような筋肉自慢の子が多いですね」

事務系公務員は一次のペーパー試験の合格者のうち、最終試験で約6〜7割が残る。一方、警察・消防官は筆記試験が比較的やさしく、ボーダーラインも低い半面、最終で残るのは約3割。実技・人物評価で落とされるという。

その警察・消防官と事務系公務員を含む地方公務員のランキングには、教育大や高偏差値の大学が顔を出す。「教員も含んだ数なので、行政職に絞ればランキングの顔ぶれは大幅に変わるでしょう」。

事務系も警察・消防と同様に学内の協力・連携体制がポイントだ。たとえば5位の新潟大学は、授業としての公務員講座が他の大学よりはるかに多いうえ、生協の主催で店内に公務員相談ブースを設置。相談員が常駐しており、学内に公務員受験の予備校があるのに等しい体制だと伊藤氏は言う。

「ランク上位の大学は、学生数が多いから合格者が多い、もしくは学生が高偏差値で、学力が高いからそれなりに多い、のどちらか。完全養殖に成功した近大マグロ(農学部・水産研究所)で知られる近畿大は学生の数も多く、民間企業への就職に強い。公務員試験でも、もっと上位に入ってもおかしくないのですが……」

次に、保育士と幼稚園教員を見てみよう。いずれも聖徳大学が全国トップ。1990年創立の私立女子大で、児童学部の学生が在校生の半数近くを占める。

「やはり伝統の強さですね。伝統校の学生の民間の保育園への就職では、先輩が退職したら、後釜には同じ大学の後輩が入る、というようなことが普通に行われていますからね」

同じ上位の東京家政大、十文字学園女子大、鎌倉女子大なども同様だ。入学者さえ確保できれば、そうした就職ルートの好回転で手堅い経営が望める半面、今後は少子化の下でそれをどう維持するかが課題となりそうだ。

■なぜ? ランク入りしない国立教育大

小学校教員のランキングでは、国立で校名が「地名プラス教育」の大学がトップ3を占める。これはある意味当然で、1〜3位の北海道教育大学、愛知教育大学、大阪教育大学は『日本三大教育大学』と呼ばれる国立大だ。次いで私大の文教大学、岐阜聖徳学園大学が4位、5位に食い込む。

「文教大は、私大では早稲田大学や上智大学に次いで早い時期に教育学部をつくった大学。しかも、教育学そのものを専攻研究するというより、教員養成を目的とした実践教育の学部の色彩が強く、就職戦線では非常に強い。岐阜聖徳も同様です」

玉川大、四天王寺大も就職数では上位入り。これも歴史ある実践教育によるものだ。京都の佛教大も通信課程の教育学部を古くから設けて、「東の玉川、西の佛教」と評された伝統校。兵庫の武庫川女子大学も上位20入りしている。

「これら上位私大の共通点は、教員になったOBらの協力体制も整っていること。先輩が無償で試験勉強のアドバイスや面接の指導を行っている」

教育大と名の付く国立大学でも、なかなかここまできめ細かくは実践できていない。

「ランクに入っていない国立教育大は、学内の連携ができていない場合も。教職支援部門の職員は合格者を増やすのに躍起なのに、教員は『教育大は教員養成ではなく、教育学を極めるための大学。なぜ採用試験の対策に時間を割かなければいけないのか』という具合に非協力的なケースもありますね」

その一方で、ランキング表の枠外にあるが、兵庫教育大はこうした連携ができている国立教育大の1つだ。

「兵庫教育大は学生数が少なく、順位は24位ながら、受験者の合格率は75%(2017年度)とトップ3より高い」

こうした教育大や上位私大のない地域の教員志望者は、近くの国立大の教育学部をめざすのが常道だ。

「となると、進路は小学校教員が大半ですが、専門性の高い中高だと、理工系の学部に行って教職を取り、理科や数学の先生という道もあります」

前出の文教大は中学教員で全国1位。日本大学は4位、高校教員では1位だ。

「高校教員は専門性が求められるので2位に早稲田大、4位に広島大など偏差値の序列に近い傾向があります。日本体育大、大阪体育大や東京理科大もトップ10に入ります」

近畿大が高校教員でランク入りしているのは、「マグロで人気の農学部で、理科の教員免許が取れるからなのかもしれませんね」と伊藤氏。

少子化時代を念頭に、手堅い就職に向けてしっかりしたカリキュラムで生徒を集めている大学はやはりある。偏差値のみに目を奪われて見落とすのは、ちょっともったいないといえよう。

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伊藤憲司
東京アカデミー全国統括執行部長
同アカデミー内や大学等で年間約60件超、通算1500件超の公務員・教員試験対策ガイダンスを実施。
 

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■▼【図表】出身大学ランキング《警察・消防・地方公務員》

■▼【図表】出身大学ランキング《幼・保教員》《小・中・高教員》

(小山 唯史 撮影=浮田輝雄 写真=AFLO)