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成人式に出席する女性の晴れ着にソースをかけたとして1月14日、20代の男性が「暴行」の疑いで逮捕された。

報道によると、事件が起きたのは東京都杉並区。被害にあった女性は、美容室で着付けを終えたばかりで、自宅に戻り、母親の指摘で帯などの汚れに気がついたという。

幸いにして、女性は別の晴れ着に着替えて、式に出席したという。とはいえ、黒いシミを見たときの気持ちはいかばかりだったか…。

現場周辺では、同様の事件が他にも3件起きているそうだ。ネットでは「成人式の日になんてことを」「女性を狙っているのが許せない」「振り袖がいくらするか知っているのか」といった怒りの声などがあがっている。

●性犯罪では「器物損壊」の場合もあるが…

ちなみに、女性は殴られるなどはしていないようだが、直接身体に接触していなくても身体に対し不法な有形力(物理的な力)の行使が加えられれば「暴行罪」は成立しうる。過去には、食塩を振りかけたことが暴行罪に当たると認定されたこともある(福岡高裁昭和46年10月11日判決)。

一方、同じように衣服を汚す事件だと、体液をかけるなどの性犯罪などでは「器物損壊罪」に問われることもある。洗えば元通りと言えても、放尿された食器のように心理的に使えなくなることも「損壊」に当たる(明治42年4月26日大審院判決)。

ソースなどの液体を付着させられたとき、「暴行」と「器物損壊」は、どのように使い分けられるのだろうか。

澤井康生弁護士によると、「暴行罪は、客観的に見て、不法な有形力の行使が被害者に向けられたといえるかどうかで判断されます」とのこと。

本人が実際に気付いたかどうかに関係なく、どこに付着したか、体との近さも判断要素の1つになるそうだ。直接肌にかかれば暴行だし、身体から一定の距離のある持ち物にかけられたときは、器物損壊になる可能性が高い。

また、液体を身体に向けてかけることで同時に衣服も汚損した場合には暴行罪と器物損壊罪の両方が成立するケースもある。

今回の場合は、晴れ着にかけられたのが、心理的に抵抗感の強い「体液」ではなく、「ソース」であることも関係していそうだ。

「体液であれば器物損壊罪も適用されていた可能性がありますが、食用ソースであれば晴れ着が心理的に使えなくなるとまでは断定できなかったのではないでしょうか」(澤井弁護士)

なお、法定刑は、暴行罪が「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」(刑法208条)、器物損壊罪が「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」(同261条)。

これはあくまで刑事責任の話で、今回のような事件の場合、汚した晴れ着の損害賠償や慰謝料も発生しうる。

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士の資格も有し企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。東京、大阪に拠点を有する弁護士法人海星事務所のパートナー。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:弁護士法人海星事務所東京事務所
事務所URL:http://www.kaisei-gr.jp/partners.html