2018年も残すところあとわずかとなり、この時期の風物詩である忘年会と思しき風景を見る機会も増えてきた。師走特有の忙しさに追われつつ、職場やお世話になった取引先などとの忘年会に明け暮れるビジネスパーソンも多いはずだ。年を越したら越したで新年会が控えており、つい飲酒量が増えがちなこの時期に気をつけたいものといえば、二日酔いだろう。

二日酔いになった日が休日ならまだしも、平日に来ようものならば最悪。頭痛や吐き気、だるさなどの諸症状に苛まれていたら、たとえ敏腕営業マンでも成約させることは難しいはず。ビジネスパーソンにとって二日酔いは「天敵」ではあるが、クライアントとの会合などを含め、お酒の席は避けて通れないのも事実だ。

そこで今回、消化器科 消化器外科 外科医の小林奈々医師に二日酔いが起きるメカニズムや対策法などについてうかがった。

忘年会や新年会に伴う二日酔いには注意しよう(写真:マイナビニュース)


二日酔いを引き起こす主な原因3つ

二日酔いによる症状は頭痛や吐き気、胸やけ、胃もたれ、倦怠感などが一般的だ。小林医師は、二日酔いが起きる主要因として「アセトアルデヒド」「脱水」「胃粘膜障害」があると解説する。

■アセトアルデヒド

アセトアルデヒドは、アルコールが体の中で代謝される際に生じる物質を指す。通常、体内に入ったアルコールは肝臓で代謝される。アルコールが肝臓の処理能力を下回る量ならば、筋肉や脂肪組織に運ばれた後に二酸化炭素と水に分解され、尿などによって体外へと排出される。

だが、アルコール量が多すぎるとこの分解が間に合わずにアセトアルデヒドが産生・蓄積され、体に害を及ぼすようになる。

「アセトアルデヒドは人体に対して有害であり、頭痛や嘔吐、発汗、顔面紅潮を生じさせます。つまり、代謝産物のアセトアルデヒドが多いほど二日酔いの症状が強くなります」

■アルコール摂取に伴う脱水

お酒を飲んでいると、トイレが近くなるという現象を経験をした人は多いはず。その理由は、アルコール自体に尿を促す利尿効果があるためだ。体内から水分が排出されると当然、脱水状態に陥りやすくなる。そして、この脱水状態も頭痛や倦怠感の原因になるという。

■胃粘膜障害

「アルコールは胃粘膜を荒らし、胃を直接刺激することで胃もたれや吐き気、胃痛、食欲低下などを引き起こします」と小林医師。大量のアルコールは、胃の内側全体を守る粘液を分泌している胃粘膜の働きを弱めてしまうが、この胃粘膜のダメージが胃腸のトラブルにつながるとのこと。

二日酔いになりやすい人の特徴

二日酔いを避けるにはアルコールをうまく代謝することがポイントとなるが、その際に重要なのが「アセトアルデヒド脱水素酵素」と呼ばれる酵素だ。ただ、日本人はこの酵素の働きが弱い人が多いと考えられており、アセトアルデヒドが体内に残りやすいという。すなわち、日本人の多くは元来、「酔いやすい体質」であるというわけだ。

「アルコールは肝臓で代謝されます。そのため、加齢や脱水、肝臓の機能低下などで肝臓の代謝機能が悪くなるとアルコールやアセトアルデヒドが体内に残りやすくなります。つまり、二日酔いになりやすくなります。『昔はお酒に強かったのに、最近は飲めなくなった』『飲み会続きで身体がだるい』などと感じる方もいらっしゃるでしょうが、前者は加齢、後者は一時的な肝臓の機能低下が理由と言えるでしょう」

二日酔いへの対処法や予防策は?

望んで二日酔いになりたい人はいないため、日ごろから飲む機会が多くなりがちな人が知りたいのは「いかにして二日酔いを防ぐか」だろう。以下に二日酔い予防のポイントをまとめたので参考にしてほしい。

(1)毎日の食事におけるアミノ酸&ビタミン摂取

「もともとの肝臓の状態をよくしておくため、週2〜3日は休肝日を設けて肝細胞の修復および機能改善に努めましょう。併せてアミノ酸やビタミンを毎日の食事から適量かつ積極的に摂ることが大切です」

(2)飲みの場では積極的に水分補給

二日酔いには脱水も関与してきます。肝血流や肝代謝をよくするために水分は重要ですので、しっかりと水分摂取をしておきましょう。飲酒時にも水分摂取を積極的に行うようにしましょう」

(3)飲酒前の固形物摂取

「胃粘膜障害を予防するために胃薬を事前に飲むという手段もあります。また、空腹時にアルコール摂取すると胃粘膜障害を起こしやすいため、飲酒前に胃の中に何か入れておくのもいいですね。ただし、塩分や油分が豊富ですと胃粘膜や胃の活動に負担をかけるのであまりおすすめしないです」

もちろん、この(1)〜(3)の予防策は「適切なアルコール量」を飲んでいることを前提として記している。人によってアルコール分解能力は異なるが、飲酒量が増えるほど二日酔いのリスクが高まるのは自明の理。「アルコール摂取量のコントロール」こそが最大の二日酔い予防法だと心にとめておこう。

二日酔い時におすすめの飲食物とは

会社員ならば上司や会社への不満とともについ深酒をしてしまう日もあるだろう。また、元々アルコールに極端に弱い体質の人も付き合いでお酒を飲む機会もあるかもしれない。これらのケースでは、上記の(1)〜(3)の予防をしっかりとしていたとしても、二日酔いになってしまうことも十分に考えられる。

そのような際は、どれだけ早く二日酔いに伴う諸症状を緩和できるかが重要になってくる。小林医師は、まず着手してほしい対処法として「水分補給」をあげた。

二日酔いになってしまった際には、まずは脱水の改善を図ることがメインになります。水だけでなく、電解質の補正となる経口補水液やスポーツドリンクが有効ですね。ただし、スポーツドリンクは糖分が多い製品もあり、糖尿病などの基礎疾患がある人は注意が必要です。しかしながら、アルコール摂取後には糖分も欠乏しているため、糖分の摂取も重要になってきます。ご自身の身体の状態に合わせて対応してください」

水分を体に取りこんだら、次は食事で栄養面をカバーしよう。二日酔い時は胃腸の消化機能が低下している可能性があるため、ゼリーやおかゆなどの消化しやすいものがおすすめだという。そのうえで、これらの一品ものの食事では欠乏しがちなビタミンと、肝臓保護の観点からアミノ酸を摂取するとよいとのこと。

「アミノ酸についてはアルギニンやアラニン、グルタミン、オルニチンが肝臓の機能を良くすると言われています。特にアラニンとグルタミンの2つはアルコール代謝時に特に重要なので、それが含まれているサプリメントやドリンクを摂取するのもいいですね」

アルギニンが多く含まれているのは湯葉やかつお節、豆腐、大豆、ごま、えびなどで、アラニンは肉(豚肉、鶏胸肉)や魚(いわし、さば、かつおなど)に多く含まれているという。グルタミンは肉や魚、卵、大豆などに含まれているが熱に弱いため、生での摂取が好ましい。オルニチンはしじみやひらめ、まぐろ、チーズ、えのきに多く含有されている。

「アラニンとオルニチンを一緒に摂取できるのは牡蠣やあさり、しじみなどです。二日酔い時にどんなものを身体が欲するかということですが、しじみ汁は昔から有名ではありますね」

そしてビタミンについては、ビタミンB1およびビタミンCがアルコール代謝には大切とされている。ビタミンB1は豚肉やうなぎ、玄米に、ビタミンCは果物と野菜に多く含まれている。お酒を飲んだ日の翌日には、これらの食材を意識的に食べるとよいだろう。

可能ならば連日の飲酒は避けるように

年末年始はどうしても飲み会が増えがちだが、小林医師は「肝機能改善を進めるため、肝血流が多くなるように休養を取ることも大切です。無理はせず、連日のアルコール摂取は控えた方がいいでしょう」とアドバイスを送る。

忘年会が連日続くようなケースも出てくだろうが、そのような際は「一回あたりの飲酒量をセーブする」「二次会には参加しない」などの工夫を凝らし、肝臓にかける負担を極力抑えながらお酒と付き合うことが重要。そして、何も予定がない日は「宅飲み」や「チョイ飲み」をすることなく、しっかりと休肝を心がけるようにしよう。

※写真と本文は関係ありません

○取材協力: 小林奈々(コバヤシ・ナナ)

消化器科、消化器外科、外科医

クリニックでは専門である消化器疾患、痔を含め全般的な内科疾患の診療に従事。週2回の病院勤務では消化器疾患の手術を行いながら、消化器疾患中心の外来診療に携わっております。

このほか予防医学、早期発見早期治療の重要さを伝えるべく講演や新聞、雑誌などへのコラム掲載を行っております。患者さんを第一に考え、患者さんの目線にたちながら、常に笑顔で、女性外科医だから行える気くばりと柔らかさのある診療を行うべく日夜励んでおります。

En女医会所属。さくら総合病院、自由が丘メディカルプラザ勤務。

En女医会とは

En女医会は150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。