「コク」の正体とは?

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「コクがある/ない」の「コク」とは何なのか。このような疑問について先日、SNS上で話題になりました。

 料理の味を表現する言葉として、よく耳にする「コク」。何となく分かっているつもりでも、具体的に何かと聞かれると、答えられない人が多いようです。SNS上では「よく分かんない」「おいしいものにはコクがあるイメージ」「どうやったら生み出せるの?」など、さまざまな声が上がっています。

「コク」の正体とは、どのようなものでしょうか。日本味覚協会の水野考貴さんに聞きました。

うま味とコクは異なるもの

Q.コクとは何でしょうか。

水野さん「『コク』とは一言で言うと、『複雑な味わい』のことです。濃厚感(厚み)や持続性、広がりがある時に感じられる味わいのことで、味や風味、食感などのさまざまな要素が複合的に重なって生じる味わいであると考えられています」

Q.「うま味」との違いについて教えてください。

水野さん「『うま味』は、あくまでも基本5味(甘味・塩味・酸味・苦味・うま味)の一つで、昆布だしなどに含まれる味のことを指すため、コクとは別の表現です。例えば、うま味だけしか味がしないものを食べても『コクがある』とは言えないと思います」

Q.コクのある食べ物の方がおいしいのでしょうか。

水野さん「『おいしい』という感覚は人ぞれぞれではありますが、一般的には複雑な味が重なっている方がおいしいと感じやすいため、『コクがある食べ物はおいしいと感じやすい』と言えるでしょう。

しかし、あっさりした味、さっぱりとした味が特徴の食べ物については、コクを付加するとおいしいと感じない(あっさりとしなくなってしまう)可能性があります」

Q.味の濃さとコクには、どのような関係がありますか。

水野さん「『濃さ』は味が強いことを指しますが、単一の味が濃い場合、コクを感じることはありません。例えば、非常に多量の砂糖を入れた水を飲んでも甘ったるいだけで、コクは感じません。濃い味を複合的に重ねた場合にはコクが生まれることがあり得るかと思います」

Q.コクがあるメニューや食材として、代表的なものを教えてください。

水野さん「『コクがある』と感じやすいのは、多種の材料や長時間の製造プロセスを経て作られるものです。コクがあるものとして代表的な料理には、以下が挙げられます」

・多種の食材を使用し、長時間煮込んで料理したもの(カレー、シチューなど)
・長時間熟成したもの(チーズ、生ハムなど)
・油脂が多く含まれているもの(とんこつラーメンなど)

Q.野菜や果物などの生鮮食品にも、コクは含まれているのでしょうか。

水野さん「基本的に、野菜や果物を食べてコクを感じることは少ないでしょう。ただし先述の通り、長時間熟成した料理はコクを感じやすい傾向にあるため、同じ果物でも『完熟したものは完熟していないものよりはコクがある』と言える場合があると思います」

Q.コクはどのように作り出す(引き出す)ことができますか。

水野さん「基本的には、味をより複雑にすることでコクを生み出すことが可能です。例えば、カレーで言うと、通常の材料に加え、タマネギ、しょう油、バター、ガストリック(酢と砂糖を混ぜたもの)を付加することで、よりコクのあるカレーを作り出すことができます。

また、コクを引き出すことができる『コク味物質』と呼ばれるものも存在します。これは『グルタミルバリルグリシン』と呼ばれているもので、この物質自体が単体で調味料のように市販されているものではありませんが、現在多くの加工食品に含まれています」