台風や土砂降りほどではなく普通の雨でも、鉄道はダイヤが乱れることがあります。運転に注意を要することもありますが、乗客側の影響も大きいというのが実情です。

より丁寧に加速、早めにブレーキ

 雨の日の通勤は気分も憂鬱です。台風や土砂降りの大雨であれば仕方ないとしても、普通の雨で鉄道のダイヤが乱れることがあるのはなぜでしょうか。


雨天時の列車は、加速やブレーキなどに特に注意を払って運転している。写真はイメージ(画像:photolibrary)。

 運転免許を持っている人ならご存じのように、雨の日は視界が悪いだけでなく、路面がぬれて滑りやすくなり、ブレーキをかけてから自動車が停止するまでの距離が伸びることがあります。急発進、急ハンドル、急ブレーキなど「急」の付く操作は厳禁です。鉄道であればなおさらで、運転士は普段よりも丁寧に加速して、ブレーキも早めにゆっくりとかけるように心掛けているそうです。

 自動車はゴムタイヤでアスファルトの道路上を走りますが、鉄道は車輪とレールの両方が鉄のため摩擦ははるかに小さくなります。少ないエネルギーで多くの人を運ぶことができるため、鉄道は「環境にやさしい乗りもの」と言われますが、悪天候の場合はそれがそのままデメリットにもなるのです。

 鉄道の信号機は、列車がその地点よりも先に進んでいいか否かを示しています。もし車輪がロックしてレール上を滑ってしまい、決められた地点で止まることができなくなってしまうと、鉄道は安全に走ることができません。雪が降ると速度を落として運転するのは、ブレーキの利きが悪くなることで信号冒進(赤信号を越えて進んでしまうこと)や列車追突事故が発生する恐れがあるからです。近年は高度なブレーキ制御やABS(アンチロック・ブレーキ・システム)の導入など、滑走防止対策が進んでおり、、ため運転への影響は小さくなっていますが、それでも慎重を期しているのです。

 ちなみに、雨が強いほど滑りやすいとは限りません。雨の降り始めはレールに付着した油が浮き出て滑りやすく、雨が強くなると逆に油分が洗い流されるため滑りにくくなることもあります。運転士は刻一刻と変わるレールの状況を見ながら、細心の注意を払って運転をしています。

 最近の鉄道車両はきめ細やかな出力調整ができるようになったため、雨が降っても空転を起こしにくく、また空転が発生してもすぐに収まるようになりました。旧型の車両は発車時にモーターが空転するばかりで、一向に電車が前に進まないことがありました。一度空転してしまうといくら回転を上げても前に進まず、最悪の場合はレールが溶けてしまうので、モーターをオフにして再度、加速しなおします。その際にガコンガコンと大きな音がして車両が前後に揺れたりしました。

雨天時の遅れ、実は乗客の「動き」が影響大

 しかし雨の日の遅れは運転操作によって生じるものではありません。もちろん影響はゼロとは言えませんし、強風や大雪で速度規制があれば所要時間が余計にかかることはありますが、通常の雨で列車が遅延するのは、実は乗客側の影響の方がはるかに大きいのが実情です。

 一番顕著なのは地上を走る路線で、駅のホームの一部にしか屋根が設置されていない場合です。乗客からすれば雨のなか、傘を差してホームで電車を待ちたくはないですから、乗降が屋根のある部分に集中します。このような駅が複数続くと屋根のある所に停車する車両が混雑し、その車両は通常よりも乗降に時間がかかってしまいます。近年では「遅延対策」として、ホーム屋根の延長に取り組んでいる鉄道会社もあるようです。

 また、一般的に雨の日の方が雨具など荷物は多くなります。乗客はぬれた傘や服と密着したくないため、他の乗客と距離を取ろうとして車内の奥まで詰めなくなります。普段は自転車やバイクで通勤・通学している人が、雨の日だけ電車を利用するケースもあり、その分、満員電車に不慣れな人が増えているとも考えられます。これらはすべて混雑を悪化させ、乗降時間が延びるように影響するため、雨の日の電車は遅れやすくなるというわけです。

 利用者としては、あえて屋根の無いところで傘を差して待っていれば、いつもより空いた車両に乗れるチャンスもあるかもしれません。今度の雨の日はそんなところにも注目しながら電車に乗ってみてはいかがでしょうか。

【写真】雨の日の駅ホーム


雨の降る駅のプラットホーム。写真はイメージ(画像:写真AC)。