小笠原空港の滑走路が1000メートル以下になる可能性が出てきましたが、この長さで運用できる飛行機はあるのでしょうか。

小笠原空港問題、滑走路これまでの案より短く?

 2018年6月30日、東京都の小池百合子知事は小笠原諸島の父島で開かれたアメリカからの小笠原諸島返還50年を祝う記念式典で、同諸島における航空路整備について、世界自然遺産に含まれない父島の洲崎地区で空港を整備する案で検討を進めると述べ、1000メートル以下の滑走路で運航可能な機材について調査と分析を指示したと報じられました。

 これまでの1200メートルの案よりも短い1000メートルの滑走路で離着陸可能な航空機の導入も検討とのことです。その滑走路で、東京〜小笠原間の約1000kmを飛べる飛行機とはどのようなものになるのでしょうか。


JACのATR42-600。小笠原路線では短距離離着陸タイプの600Sが有力候補(2017年1月、恵 知仁撮影)。

 最も有力視されているのが、フランスに本社を置くATR社のATR42-600Sです。これは、JAC(日本エアコミューター)や天草エアラインが導入しているATR42-600の短距離離着陸(STOL)モデルで、800mの滑走路でも離着陸が可能となっており、座席数は40〜50席、航続距離は1560kmと要求を満たすスペックです。すでに日本で導入実績もあり、小笠原の村議会でも度々この機種の名前が出てきていることから一番可能性が高いと言えます。

 では、そのほかの飛行機はどうでしょうか。

 調布飛行場(東京都調布市)と伊豆諸島を結ぶコミューター路線を運航する新中央航空が運用しているドルニエ228は、座席数19席で、航続距離1037kmとなっています。仮に調布と小笠原を飛ぶとなると航続距離から見て、現在就航している三宅島や八丈島で給油を行い、島伝いに目指すルートとなるでしょう。

ほかに考えうる飛行機にはどんなものがある?

 RAC(琉球エエアコミューター)などコミューター路線で活躍していたブリテン・ノーマンBN-2B「アイランダー」は座席数が8〜9席、後続距離は1400kmとなっており、短い滑走路での運用が可能でしたが、すでに旧式化した機材ですので、新たに使われる可能性は低いでしょう。

 南西航空(現:日本トランスオーシャン)や日本近距離航空(後にANAと合併)などで使用されたコミューター機のデ・ハビランド・カナダDHC-6「ツインオッター」は座席数19席、航続距離1434kmで800mの滑走路にて運用が可能でしたが、老朽化などを理由に退役しました。そして第一航空が新たに新型のDHC-6-400を導入し2015年に那覇〜粟国(沖縄県粟国村)間で定期便を就航させましたが、現在は運休となっています。


新日本航空のBN-2B「アイランダー」。同社は2018年7月現在、鹿児島〜薩摩硫黄島路線便を定期的(毎週月、水曜)に運航している(画像:新日本航空)。

鹿児島県の薩摩硫黄島飛行場。滑走路の長さは600m(国土地理院の地図と空中写真を加工)。

東京都調布市の調布飛行場。滑走路の長さは800m(画像:国土交通省)。

 同じような長さの滑走路を持つ空港では、現状はどうなっているのでしょうか。

 運休中も含めて、コミューター路線が就航している1000m以下の空港は、東京都の調布飛行場、新島空港、神津島空港、北海道の礼文島空港、沖縄県の粟国空港、慶良間空港、波照間空港が、それぞれ800mとなっており、ほか新潟県の佐渡空港が890m、鹿児島県の薩摩硫黄島飛行場が600mなどとなっています。

 かつて、新潟〜佐渡や那覇〜粟国、石垣〜波照間などでコミューター路線が運航されていましたが、現在はいずれも機体整備の問題や赤字化などで運休となっています。佐渡空港はその滑走路を、ボーイング737などジェットが運航できる2000mに拡張することを計画しており、工事が完成すれば東京や大阪からの直行便が就航する可能性も出てきます。

一方、都知事は飛行艇を利用した

 それでは水陸両用の飛行艇はどうでしょうか。

 小池知事は、今回の式典参加に際し、海上自衛隊の救難飛行艇US-2に乗り小笠原を訪問しました。現在、空港のない小笠原への交通手段はフェリーしかなく、東京から24時間を要します。このような状況から小笠原では、患者の救急搬送でUS-2が使われる事がしばしばあります。

 小笠原への空路を飛行艇で結ぶプランも度々聞かれ、その度にUS-2の民間転用の話が持ち上がります。かつて小笠原がアメリカ軍の占領下だった時代には、水陸両用飛行艇UH-16「アルバトルス」がグアム〜父島間を5時間で結んでいたこともあり、小笠原空港とは別に飛行艇による路線開設も可能性がゼロではないと言えるのではないでしょうか。


海上自衛隊のUS-2飛行艇。メーカーの新明和工業は同社webサイトにて、同機の民間活用案を展開している(画像:海上自衛隊)。

 では、US-2の民間転用について製造元の新明和工業はどのようにとらえているのでしょうか。

 この問いに対しては「民間活用の可能性はございます」(新明和工業)ということで、US-2の大規模な改造で民間型式証明を取得すれば、座席数38席の旅客輸送飛行艇として運用ができ、小笠原路線であれば、羽田空港から父島まで約1000kmの距離を約2時間半で飛行する事が可能になるといいます。船舶輸送に比べて時間にして1/10と短縮が可能となり、最小限の揚陸用施設があれば運用が可能だということで、環境に最大限の配慮した離島航空路を設置することができるとしています。

 飛行艇は波に弱く、定期的な運用は難しいイメージがありますが、US-2は高い耐波性を持っており3mクラスの波高でも離着水が可能だということです。

 環境への配慮が焦点となる小笠原空港。飛行艇による航路開設は興味深いところですが、環境に最大限配慮できるという点は世界自然遺産の小笠原にとってメリットがあるかもしれません。

 滑走路の長さと、就航する航空機に注視したいところです。

【写真】父島洲崎地区の飛行場跡


写真は2014年撮影。赤枠のあたりが洲崎飛行場跡地(国土地理院の地図と航空写真を加工)。