タワマンも駅ビルも見当たらない 福山市の「駅前再生ビジョン」が、ユルいけどガチ
駅前再生、再開発というと、駅に併設される巨大な商業施設や駅近を売りにした高層マンション。完成予想図として描かれるのは、ビルがそびえ立つピカピカの街並み――。というイメージがある。
もちろん、そうした都市開発も意味がないわけではないし、綺麗な都会っぽい街並みにも魅力はあるのだが、やや没個性的。言ってしまえばよく見かけるパターンであることも事実だ。
だが、広島県福山市が2018年3月28日に発表した「福山駅前再生ビジョン」は、イメージイラストからしてちょっと違う。絵本のような柔らかいゆるいタッチで、「駅前をバリバリ開発します!」というテイストではない。
完成予想図感はあまりないイメージイラスト
魅力的な駅前を実現するにはどうすべきか
記者の祖父母は福山市出身で(といっても中心部からは外れた新市という場所だが)、記者自身も何度か福山駅前を訪れたことがある。駅の北側には日本100名城にも選ばれている福山城があり、南側は大通りを中心に市役所や百貨店などが位置する、駅前が市の中心部を構成する形だ。
駅の北側にある福山城の敷地はかなり広大(663highlandさん撮影, Wikimedia Commonsより)
ただ記者個人の感想だが、新幹線も止まる駅前にしては、少しさびしい感もある。都市の規模もあるし、実際に住んでいるわけではない記者が「寂れている」などと断じることはできないのだが、市民の声はどうだろうか。
福山市が公開している、市民1000人を対象に行ったインターネット調査の結果でも、「福山駅を訪れる目的は何ですか」という問いに対し、「ほとんど訪れない」という回答が2割近く。「福山駅前を魅力的な場所だと思いますか」には、約6割が「あまり思わない」「全く思わない」と、厳しい回答が並ぶ。
福山駅前のバスターミナル周辺(Alvin Leongさん撮影, Flickrより)
こうした状況に福山市が強い危機感を抱き、「福山駅前再生ビジョン」につながったものと思われるのだが、このビジョンの内容がなかなかユニークなのだ。
よくある商圏開発、駅前再開発という内容ではなく、福山市でできる(したい)暮らしやライフスタイルを提案し、その実現のためにはどのような駅前の在り方が望ましいと考えられるのか、を丁寧に説明しているのだ。
駅前再生のイメージイラストも、前述のとおり「ハコモノ完成予想図」ではなく、ユルくやわらかい内容になっている。このようなビジョンの策定に至った理由はなんなのか。Jタウンネットは4月3日、福山市福山駅前再生推進室に取材を行った。
「『福山駅前再生ビジョン』が目指すのは単なる都市の再開発ではありません。イラストも、そうした意味を込めて、『働く・住む・にぎわいが一体となった福山駅前』をイメージし、サイト上にも掲載されているような、柔らかなものになっています」
福山市の整備計画や活性化のための都市計画などは2008年ごろから策定されてきたが、駅前再生が本格的に検討され始めたのは、枝廣直幹市長が就任した2016年から。駅前再生推進室が設置され、2017年3月から識者が参加する「福山駅前再生協議会」によるビジョン検討が始まったという。
「福山駅は備後圏域の玄関口です。福山市だけでなく、周辺地域も活性化を図るという意味でも駅前再生は重要な課題でした」
もともと、駅の近くに位置する伏見町というエリアを中心とした駅前「再開発」計画は存在していたものの、検討会議が解散してしまい計画は中断。駅前再生にあたって、この再開発計画を再開することもできたが、そうはしなかった。
「いくら再開発をしても、人の動きがなく地価も低下しつつある現状ではリスクが高く、効果がありません。まずは駅前・周辺の賑わいを呼び戻す必要があると考えました。そのためには、ただ商圏としてアピールするだけではなく、福山市での魅力あるライフスタイルと、それを実現する駅前の在り方を考えなければいけません。『福山駅前再生ビジョン』にはそうした意図が込められています」
ちなみにイメージイラストでは、現在バスターミナルがある場所が芝生の広場のように描かれているのだが、具体的な都市デザインもすでに決まっているのだろうか。
「イラストはあくまでもイメージですので、ビジョンに則ったデザインの検討は今年度から取り組み始め、バスターミナルの場所など都市計画の策定も行います。20年先を見据えたビジョンであり、具体的な動きはこれからですが、遊休不動産の活用を模索する『リノベーションスクール』などもすでに始まっていますよ」
福山市が住みたい都市1位に、という日が20数年後には実現しているかもしれない。