他局の選挙特番は、“池上無双”ならぬ“池上模倣”になっている(撮影:風間仁一郎)

近年、民放の選挙(開票)特番は、テレビ東京の「池上ライブ」が視聴率、内容とも他をリードし、いわゆる“池上無双”状態が続いている。はたして今回の特番はどうだったか。GALACの名物ウォッチャーが斬る!

さかのぼること7年。2010年7月11日の第22回参院選の選挙特番で、テレビ東京がフリージャーナリストの池上彰をメインに起用し、「池上彰の選挙スペシャル」を放送した。キャスターは違えども中身はどこも横並び的なそれまでの開票速報とは、ひと味もふた味も違う“池上選挙特番”の誕生。すべてはそこから始まった。

この「池上彰の選挙スペシャル」の視聴率は日本テレビに続き民放第2位をマークし、テレ東の大躍進はその他の局をさぞや焦らせたことだろう。

そして7年経った今、各局の選挙特番がみな、どこかしら池上特番ふうになってしまった。そんな“池上無双”ならぬ“池上模倣”な選挙特番をウォッチした。

池上ライブの“伏兵”、小島瑠璃子の存在感


当記事は『GALAC』2月号(1月6日発売)の特集からの転載です(上の雑誌表紙画像をクリックするとブックウォーカーのページにジャンプします)

まずは本家本元、テレビ東京「第48回衆院選『池上彰総選挙ライブ』」。2010年当時はアシスタントだったが、今や池上と肩を並べる総合司会の大江麻理子キャスター。その落ち着きは銀座のクラブのママのよう。さりげない気配り、絶妙なタイミングで池上をフォローする。ゲストは峰竜太、宮崎美子、東貴博、坂下千里子、宮澤エマ、そして今回忘れてはならないのが、意外な伏兵、小島瑠璃子(こじるり)のリポーターぶりだ。

池上からの宿題で、「明暗分かれるかもしれない2つの政党の様子を伝えて」と言われたこじるり。“明”の立憲民主党の開票センターでは、福山哲郎幹事長について「お父さんが食卓に座って朝ごはんを待っているようなリラックスした表情」と表現し、池上も「絶妙な描写ですよ」と絶賛。さらに、“暗”の希望の党では小声でしゃべり、「あまり大きな声を出せたもんじゃありません」と伝え、笑いをとっていた。またひとり、「池上ライブ」に心強い仲間が加わった。

テレ東といえば、“おカネがない”で有名だが、選挙特番に関してはさにあらず。もしかしてこの特番のために、ほかの番組の予算を削ってるのかと思うほど。その1つが池上考案の「山の模型」だ。政界を山に見立てて、総理のイスを頂上とし、各政治家が今どのあたりにいるかを見せるものだ。投票締め切りの20時までは顏を見せないよう、各人形にサングラスをかけるという芸の細かさ。あと、文春砲が出てきて、山尾志桜里を撃ったのは笑った。

そして今回、新たに登場したのがこれまた池上考案「政界 悪魔の辞典」だ。『悪魔の辞典』の著者アンブローズ・ビアスに負けず劣らず、“ブラック池上”の風刺が効いた言葉の数々。「総選挙=政権選択選挙。AKB48のほうが有名」「公約=選挙前は多くの人に知ってほしい。選挙後は早く忘れてほしい」「当選=月額129万4000円 期末手当約635万円 文書通信費月額100万円もらえます」というように、画面の左下にはし休めのように出てきたが、それだけでなく、わざわざ巨大辞典を作らせているからすごい(ネットでも公開)。

そして、「池上ライブ」名物といえば、番組独自の一風変わった候補者プロフィールだ。たとえば細野豪志の場合。【“希望の党”創設メンバー。記者から“モナ王”をもらい動揺「俺もこれで一世風靡した……」】とあった。それに比べて、【インスタにスイーツ多数】(日テレ)や【1年で囲碁の初段に合格。好きな食べもの!たこやき】(TBS)、【妻と能にはまる】(フジ)などと比べると、その出来映えは歴然。さすが本家だ。こういう細かなところまで労力を惜しまないのが、「池上ライブ」の魅力であり、それが堂々民放1位の視聴率(9.8%、関東地区)につながる。

特筆すべきは、安倍首相との中継途中に会場の音声が突如大音量になり、やり取りがうまくいかなかったこと。その前、二階俊博自民党幹事長も質疑応答にニコリともせず、不機嫌全開。自民党はよほど池上さんがお嫌いのようで。

今回もダントツに面白かったが、難を言えば、最近恒例になりつつある、峰竜太が小選挙区は誰に、比例はどの政党に入れたかと発表するのは不要かと。出演者全員、もしくは池上が発表するならともかく……。

日テレのキャスター陣、おなじみ感はあるけれど…

民放第2位(9.3%)は、日本テレビ「ZERO×選挙2017」。こちらは、村尾信尚、小正裕佳子、櫻井翔、桐谷美玲の「NEWS ZERO」に、「news every.」の小山慶一郎、そしてなぜか芥川賞芸人・又吉直樹が参加。「ZERO×選挙」は今年で8回目、おなじみ感はあるが、嵐の櫻井にNEWSの小山、女優の桐谷美玲か、と色眼鏡で見てしまうのはこちらの度量の問題なのか。「櫻井キャスター」「小山キャスター」「桐谷キャスター」と呼び合う姿にニヤニヤしてしまう。

目玉は、その櫻井キャスターが小泉進次郎を単独取材した「櫻井×進次郎“同学年ホンネ対談”」。同学年の2人による3度目の対談だ。「いつまでも雑巾がけしてるわけにはいかないけど気持ちは雑巾がけ」「経験を積むとセンサーが広がって、好きなことばかりやってちゃいけないと思う」などと進次郎。さらに「よく客寄せパンダって言われますけど、客が呼べないパンダより客が呼べるパンダのほうがいいかな」と自嘲ぎみに。番組ではやたら“ホンネ”を強調していたが、池上彰にも「パンダだったら客呼べないより呼んだほうがいいですから。しっかりとシャンシャンに負けず役割を果たします」と答えていた。

この「人寄せパンダ」と「トランプ、プーチン、習近平、金正恩、どう考えたってきれい事だけで通用しませんでしょ」、そして「新聞が軽減税率なのはおかしい。何度も言ってるのにテレビも新聞も報じてくれない」というのは進次郎発言3点セット。いつも同じ話になる“鶴瓶噺”のようだが、さも「あなただけに」とばかりに語るのはさすが。それをどこもありがたく報じているのがなんともおまぬけ。進次郎のほうが1枚も2枚も上手だ。

進次郎つながりで、TBS「激突!与野党大決戦 選挙スタジアム2017」。井上貴博アナとホラン千秋の「Nスタ」コンビと、「NEWS23」の星浩がメイン。ご自慢は「SMV(スーパーマルチビジョン)」で、各地の選挙区で起こる緊迫した様子を12カ所同時に映し出すというが、さほど活用していた印象はなく……。

こちらの候補者プロフィールは、岡田克也【趣味はカエルの置物集め 朝食はダイエットジュース】など。頑張って調べたのだろうが、なんせ文字が小さくて読みにくい。テレ東のアイデアをまねたという後ろ暗い気持ちが文字を小さくさせるのか。だったらやらないほうがまし。

そうそう、進次郎。「小泉進次郎氏に完全密着 走破!1万3000キロ応援旅」と題し、応援演説の合い間の休憩時間にホラン千秋が独占密着するもので、これがまあ、なんというか……。どこかで見たことあったぞと思ったら、「NEWS ZERO」で、当時キャスターだった小林麻央が市川海老蔵にインタビューした映像だ。「いつ誰とご結婚なさるのかなと」とホランが聞き、「その人が小泉進次郎の相手だっていうだけで、どれだけ嫌な思いをするんだろうかって思っちゃう」と進次郎。ホランに選挙特番イチの笑顔を見せていた。

公開ハニートラップ!?かどうかはわからないが、当選後の生中継でも、ホラン「その人気ぶりは私もこの目でしっかり見てました」、進次郎「いやホランさんのほうが人気あると思いますよ」、ホラン「いつもこうやってかわされるんですよ」。何やってんだか。

これを見た日テレ、次からは櫻井ではなく桐谷美玲を差し向ける予感。邪推はこれくらいにして、TBSの視聴率は5.5%と最下位。“報道のTBS”は遠くなりにけり、だ。

そんな親方TBSには頼ってられないと、系列局のMBS(毎日放送)の開票特番は、冒頭のタイトルこそTBSと同じだったが、その後同局が誇る2大番組のタイトルを冠したローカル特番「ちちんぷいぷい×VOICE」を放送。今回はなんと「めざせ当選!国会学園」と題し、国会を「学園」に例えて、アニメを駆使したカードバトルふうに当落を伝えるというぶっ飛んだ演出が話題になり、視聴率も横並びトップだった。

番組を全部見た感想は、見せ方こそ斬新だが、中身はきわめてオーソドックス。キー局が取り上げない地元の候補者にも光を当てる作りには好感が持てた。ゲストのなるみが、「子どもを寝かせなあかんから」と途中で帰ったり、政治は庶民のものという目線で作られているところがいい。池上の後塵を拝した“池上もどき番組”より、こっちのほうが支持されたのもわからなくない。後がないTBS、いっそMBSに逆乗りしてみてはどうか。

そもそも選挙特番に面白みは必要なのか!?

テレビ朝日「選挙ステーション2017」は、「報道ステーション」の富川悠太アナ、小川彩佳アナと後藤謙次、「サタデーステーション」の高島彩、「サンデーステーション」の長野智子という“オールステーション”でお送りしますとのことだったが、画面にずっと5人分のワイプがあり、卒業アルバムの撮影日に欠席した生徒みたいになっていた。なぜ全員の顔を映す必要がある!? なんともいえない呉越同舟臭。「なぜ私にメインをやらせない!?」という長野智子の心の声が聞こえた(ような気がする)。

“オールステーション”なら、いっそ「ミュージックステーション」のタモリも呼べばよかったのに。番組終盤、第2部の司会を務める田原総一朗が出てきて、「自民党勝ちすぎだよ、これおかしいよ」とまくしたてたところがいちばん印象に残った程度。草食系の富川アナに足りないのはこの“圧”。視聴率は8.8%。

“圧”と言えば、ほぼそれだけで乗り切ったのが宮根誠司率いるフジテレビ「FNN選挙特番 ニッポンの決断!2017」だ。視聴率7.2%は、村田諒太の世界タイトル戦のおかげ。創価学会の“F票”(フレンドのF)についてめずらしく斬り込んでいたが、池上さんのテレ東とまんまネタかぶり。ついてないというか運がないというか。宮根がしゃべりすぎなのか、毎回「お話の途中ですが、ここでお時間となります」と切られ、もやもやが残った。宮根の最後のメッセージは「もう偏向放送だっていうのヤメませんか」って、まさかの視聴者批判。

唯一、豊田真由子の「このハゲ〜!」音声を使わなかった(「違うだろ〜」は使用)のが、NHK「2017衆院選 開票速報」。台風情報と開票速報を淡々と、程よいバランスで報じた。面白味はないが、そもそも選挙特番に面白味って必要か!? “池上無双”の呪縛から逃れられない民放各局の選挙特番、なんだかなあ。