満島ひかりの島唄が響き渡る『海辺の生と死』、特攻隊員との切ない恋を描く
実際に会うと、折れそうなくらい華奢なのに、ステージやスクリーンの中にいる彼女は独特のオーラとエネルギーを放出しており、ついつい魅入ってしまう。唯一無二の存在である女優・満島ひかり。元Folder5のメンバーで歌手活動をしていたのも知っているけど、大沢伸一のソロプロジェクト「MONDO GROSSO」のボーカルとしてリリースした「ラビリンス」での歌唱力と、音楽が鳴った瞬間に聴衆を自分の世界に引き込む妖艶でカッコいいパフォーマンスに惚れぼれ。天は彼女に、二物も三物も与えたようです。
そんな満島の歌声をじっくり堪能できるのが『海辺の生と死』。しかも沖縄出身で奄美大島にルーツを持つ彼女が島唄を披露するのだから、これはもうお宝です。
物語のベースは、作家・島尾ミホと、夫で同じく作家の島尾敏雄との出会いを綴った同名短編集に収録されている『その夜』を中心に、2人の戦争体験を綴った小説などを基にしたもの。終戦直前の奄美のカゲロウ島(モデルは加計呂麻島)で、国民学校教員として働くトエ(満島)と、同島に新しく駐屯してきた海軍特攻艇隊の隊長・朔中尉(永山絢斗)の恋物語です。島尾夫妻といえば映画にもなった『死の棘』での、夫の浮気が発覚し、妻が精神を患って狂気に走ったことでも知られます。2人のその後を知っている人にとっては、本作はピュアで愛らしすぎて、ちょっと物足りなく感じてしまうかもしれません。
それを補って余りあるのが、物語の随所に織り込まれる満島の島唄です。正直、歌詞は島の言葉で、字幕を見ないと全く意味がわかりません。ですが島民以外の人を愛してしまい、しかもこれから空に飛び立つという彼を思っての、心の叫びであることは十分伝わってきます。島の歴史や風習を丸ごと映画に記録したいとする満島の思いがそうさせるのでしょう。そんな満島の気迫は別のシーンでも……。いろんな意味でもお宝になること間違いナシ!
文/中山治美(映画ジャーナリスト)