強制わいせつ、ゴミ・騒音、密輸に盗撮!増える民泊トラブル「大多数が無許可」
民家や空き部屋などを旅行者に提供する民泊。楽天が先ごろ、同仲介サービスに参入することを表明し、みずほ銀行は米サンフランシスコの世界最大手「エアビーアンドビー」との業務提携を発表するなど、民泊ビジネス業界が活気づいている。
訪日外国人の数を2016年の約2400万人から2020年までに、4000万人にしたいともくろむ政府。既存や新築の宿泊施設だけで対応することは不可能で、解決策のひとつとして期待されているのが民泊だ。
お手上げ状態
6月9日、民泊のルールを定める住宅宿泊事業法(民泊新法)が成立し来春にも施行される運びだ。厚生労働省が昨年、民泊仲介サイトで紹介されている国内の物件約1万5千件を調査したところ、約3割が無許可営業で約5割が物件の特定ができなかった。
無許可で営業をしている“裏民泊”“闇民泊”がトラブルの根っこになっている。7月16日、韓国籍の女性(31)は、宿泊先としてインターネットで予約した福岡市中央区のアパートの一室で、貸主の男性から被害に遭った。
自称自営業のA容疑者に手首をわしづかみにされベッドに押しつけられるなどの暴行を受けた。楽しいはずの旅行が、悪夢に。
強制性交等致傷の疑いで逮捕されたA容疑者は「触ったことは認めるが性交はしていない」と一部、容疑を否認。
福岡市は条例で民泊を許可制にしているが、
「(容疑者は)無許可で営業していたようです。把握するまでに至ってませんでした」
と、お手上げ状態。
「当然、指導などを徹底していきますが、なかなか家主と会うことができないんです。私どもが訪問しても、家主がそこに住んでいない。頭を悩ませているところです」
観光庁の観光産業革新検討会の座長を務める大妻女子大学の玉井和博特任教授は、
「現在認められている民泊は、修学旅行生などが農村や漁村に宿泊する体験型民泊、国が指定した国家戦略特区の自治体が行う特区民泊、昨年4月から規制が緩和された簡易宿所、特定のイベント時などに自治体が規制を緩和するイベント民泊の4つです」
と説明。そのどれもが自治体の認可が必要だが、
「現在、運営されている民泊の大多数が無許可のもの」
と玉井特任教授。
「民泊」とはうまい言葉だが、これまでプロの領域だった宿泊事業に、個人や素人が参入できるようになったにすぎない。プロとしての意識がないためか、事件は続々と発生している。
今年6月中旬、新潟県阿賀町の無職の男(73)は、農業体験ツアーで民泊として自宅に泊まっていた10代の女性の身体を触ったとして、強制わいせつの疑いで7月13日に逮捕された。町観光協会が企画した民泊でも受け入れ先の人間性までは保証できなかった。
民泊を悪用した覚せい剤密輸事件も、6月に明るみに出たばかり。
東京都目黒区内の民泊マンションに米国から覚せい剤を郵送し、不在票を回収した容疑者が自宅へ転送する手続きを取り密輸を図ろうとした。
ほかにもゴミの不法投棄、騒音トラブルと、民泊をめぐる問題は後を絶たない。
旅館業法や特区民泊の許可手続きなどを行う民泊実務集団『TEAM NanatsuBa』の冬木洋二朗代表は、
「よく問題になるのは騒音、ゴミ、セキュリティーの3点。日本のように細かくゴミを分別する文化はヨーロッパではあまりない。キャリーバッグを引く音も夜はかなり響く」
と、問題点を指摘する。
「結局のところ、しっかり管理されていないことでトラブルが起きる。規制緩和された簡易宿所営業でも、自治体によってはフロントの設置や24時間管理者を常駐させなければならない。そのため旅館業法の基準を満たそうとすれば多額の費用がかかる」と冬木氏。
日本を代表する世界的観光地、京都。ここでも民泊の苦情が後を絶たない。
窓口を設置した昨年7月13日からの約1年間で、1442件の通報・苦情が届いたという。
京都市産業観光局観光MICE推進室は、
「苦情の内容は騒音、ポイ捨て、京町屋では長屋で建物が似ており間違った家に入ってきたりする……。外国人が路上でバーベキューを始めたことがあり、近隣住民が注意しても言葉がわからない。管理者も行政から逃げるために所在を明かさないんです」
と現状を報告。
「現時点では、具体的な基準を定めた政令がないため、条例を定められないんです。国には各自治体の実情に即した政令を定めてほしいですね」
と話し、京都の街や文化を大切にしてほしいと続ける。
「旅館などのフロントってとても大切なんです。なによりゲストに対しておもてなしができる。ただ寝起きするだけでなく、ちょっと高いけど、古民家でもフロントがあっておもてなしを受け、いろいろな意味で京都の風情や文化を感じられるような民泊は大歓迎です。当然、許可を取っていただいて」
犯罪の温床になる
しかし表では温かな民泊事業主を演じるその一方、女性宿泊客を餌食にする裏の顔を持つ卑劣な事業者も。民泊で盗撮被害に遭った女性がいるとの一部報道もあった。
女性の勤務先の社長が、自宅の空き部屋を宿泊場所に提供していた。その浴室に設置されていたのが、盗撮カメラだ。約2年間、被害を確認できたゲストは100人以上で、女性自身も何度か浴室を利用したことがあったという。
“民泊先進国”欧米の事情を知る玉井特任教授は、
「欧米では民泊が非常に浸透しているが、さまざまな問題が起きています。売春、監禁、性的暴行、盗難、薬物、盗撮などです。男性の同性愛ホストが男性のゲストを招き監禁した事例もあります。今後、日本でも同じように犯罪の温床に十分になりうる可能性を秘めています」
と、日本が二の舞いになることを危惧し続ける。
「フランスのパリでは民泊用の部屋が増え、賃貸物件が減少。これにより家賃相場が上昇しました」
来春、民泊新法の施行で、民泊の規制緩和が進む。民泊の流れは止められないが、既存住人の安全な生活を脅かさない民泊ルールを根づかせることができるのか。
「マンションなどの空き室を利用した投資型民泊には私は反対ですが、日本の文化や生活を体験できるホームステイ型には賛成です。訪日外国人を受け入れることを、受け入れた地域の住民がマイナスに感じてはいけない。地域社会が民泊を抑制するのか、活用するのか、考えることが必要」
と玉井特任教授は見据え、
「政府は新法で、無許可営業の罰則金の上限を3万円から100万円へ大幅に上げましたが、もっと高い罰金刑や重い刑罰を与えるべきです。一罰百戒ですね。そうすれば違法行為も減るのでは」と話す。
近隣住民と共存できる民泊が今後広がるのだろうか。