常盤大高 ワラス開智「本塁打ゼロの選手から茨城県屈指のスラッガーへ化ける!」

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 昨秋、ベスト4に勝ち進んだ常磐大高。今年は悲願の甲子園出場がかかっている。その常磐大高を引っ張るのがワラス 開智選手だ。現在、開催されている茨城県大会で2試合連続本塁打を放ち、高校通算31本塁打まで積み上げている。

 実は高校入学当初、小柄な二塁手でさく越えも打ったことがない選手だったワラス。なぜそんな選手が茨城県屈指のスラッガーへ成長したのか。覚醒のきっかけに迫る。

1本の本塁打をきっかけに取り組みがガラッと変わった

インタビューに応えるワラス開智選手(常磐大高)

 デトロイト・タイガースの3Aでプレーした経験を持つアメリカ人のマークさんを父に持つワラス。小学校4年生の時に野球を始め、中学では、水戸シニアでプレー。現在、常磐大高の主将である益子 佳大などと同期だが、中学時代は決して目立つ選手ではなく、現在の持ち味である本塁打も打ったことがない。率いる海老澤監督が入学当時のことを振り返る。

「当時は体が小さくて、今も身長は170センチほどとそれほど高くないですけど、パワーが全然違いました。二塁を守っていて、内野の間を抜くゴロを打つ選手だったと記憶しています」

 1年生の時は公式戦での出場がなく、それほど目立つ選手ではなかった。

 それでもレギュラー獲得に向け、日々のトレーニングに打ち込んだ。授業や練習の合間に補食を摂り、トレーニングではウエイトトレーニングと学校内のプールで水泳トレーニングを行い、パワーを身に付けた。打撃練習では木製バットでロングティーを黙々と行った。

 常盤大高の1年間を経て、入学から体重が9キロも増加。同時に長打力を身に付けていた。

 2年春、ワラスはある練習試合で本塁打を打った。取り組む姿勢が変わったのはそこからである。

「今までから一生懸命やってきましたけど、そこから打撃については技術的なことや、内容について貪欲にこだわるようになり、打撃に取り組む姿勢に真剣味が増しました」とワラスの成長に目を細める海老澤監督。

 2年生から公式戦の試合出場も増え、2年夏には5番サードで出場。初戦(2回戦)のつくば秀英戦では、プロ入りした長井 良太から5打数2安打を記録した。しかし、4回戦と準々決勝の2試合では無安打に終わり、計15打数4安打と満足いくパフォーマンスができなかった。

力任せにならず、遠くへ飛ばせる打撃技術の高さ

ロングティーで遠くへ打球を飛ばすワラス開智選手(常磐大高)

 関東大会を目指した秋の大会で、ワラスはスラッガーとして覚醒を遂げる。県大会2回戦では、夏に敗れた常総学院と対戦し、8回表にダメ押しの2ラン。そして県大会準決勝の明秀学園日立戦では1回表に満塁本塁打。「打ったのは高めで、たまたま風に乗っただけですよ」と謙遜するが、茨城県を代表する強豪校である常総学院、明秀学園日立相手に本塁打を打ったことには変わりない。秋の県大会では4試合に出場して、2本塁打11打点と中心選手としてチームをけん引し、ベスト4入りの立役者となった。

 秋大会後、長打を打てる確率をさらに高めるため、打撃フォームを意識しながら、日々の練習に取り組んでいる。最もこだわっているのは「打つポイント」だ。

「強く振るといっても力任せに振っていてはしっかりととらえられないので、打つポイントと、打撃フォーム全体の形を意識しながら日々の打撃練習に取り組んでいます」

 いかにして、打球を飛ばすことができるポイントで打つことができるか。そこに強くこだわっている。取材日の打撃練習から強くこだわりを見せており、ロングティーで圧巻の打撃を見せる。三塁線の位置に立ってから打つワラスは、学校グラウンドのセンターフェンスを軽々と超えるさく越えを連発していた。

 ワラスの凄いところは飛距離だけではなく、自身が語るように、力任せにならずに自分のポイントを打てているということだ。周りの選手は、「うりゃ!」と思わず声を上げるほどのフルスイングで、ロングティーに取り組んでいるのに対して、ワラスは声を上げることなく、黙々と振っている。一見、軽く振っているように見えるが、周りの選手より飛ばしている。

「ワラスは自分のポイントで打つのはもちろんですが、バットの角度を見ると、一番飛ぶ角度で捉えることができる選手なので、力任せに打たなくても飛ばせる選手なんです。そこはすごいと思います」と海老澤監督は教え子の打撃技術を絶賛していた。

最終学年で活躍するには「心の成長」がカギ

ワラス開智選手(常磐大高)

 この春、夏の大会へ向けて、「チームを勝たせられるために、打撃でも、守備でも、柱となれる選手になりたい」と意気込みを語ったワラス。

 この春から本塁打量産体制に入っており、すでに10本以上。4月30日に行われた太田一戦では、特大のバックスクリーン弾を放ち、高校通算31本塁打に達した。ワラスは「最終学年までに30本は打てればいいかなと思っています」という目標に対し、「いや50本は打とうよ!」と海老澤監督から上方修正が入り、50本を目指している。この数字は無理やり目指しているものではなく、ワラスのポテンシャルの高さを評価しての本塁打数だ。この春、当初、目指していた30本はあっさりとクリア。このペースでいけば、50本も可能な数字である。

 海老澤監督は最終学年で活躍するためのカギとして、「イライラしない」ことを挙げた。

「勝負をしてくれるから。だけど、ワラスの力を知っていると、どうしても勝負を避けたくなるもの。ボール先行になってしまうと、イライラしてしまうんですよね。だからフォームを崩したままボールを打って凡打になることが多かったんです。だけど、それじゃいけないから、自分のポイントまで呼びこむ打撃をしようねとアドバイスをしたら、打席内で落ち着きが出てきて、秋大会後の練習試合では四球がかなり多くなっていました。この春も、気持ちがぶれることなく、打席に入ることがカギだとみています」

 海老澤監督がカギと見ていた精神的な成長が現在の飛躍につながっている。そしてワラスは打撃だけの選手ではない。足は「中学時代、遅いと聞いていたけど、走らせてみたら、かなり速い選手」と評し、また常磐大高の2年間で、身体能力も大きく向上し、リリーフとしてマウンドに上がることも。最速135キロを投げるほどの強肩の持ち主だという。

 170センチ70キロだが、走攻守すべてにおいて魅力たっぷりのワラス。チームが目標とする関東大会出場まであと1勝。5月3日の土浦湖北戦では3試合連続本塁打を打つことができるか、注目していきたい。

(インタビュー/文・河嶋 宗一)

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