聖光学院(福島)全国強豪への礎となった「トレーニング改革」【前編】

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 2007年から10年連続で夏の福島大会を制し、うち4回が甲子園ベスト8。今や全国区の強豪校に成長した聖光学院。では、彼らはなぜここまで飛躍的に実力を伸ばしてきたのか?今回はその要因の1つ「トレーニング改革」にスポットを当てる。前編ではトレーニング改革に至る歴史や、指導者が語る成功例、「トレーニングからの選手起用法」などを追っていきたい。

全国強豪と戦い、気づいた「身体づくり」

横山 博英部長(聖光学院)

 学法石川、日大東北といった福島県内私学勢との競争に打ち克ち、2001年夏に初の甲子園出場を果たした聖光学院。さらに2004・2005年には連続で夏の甲子園出場。着実にレベルアップを遂げてきた。

 が、指導者陣はその一方、自らの全国レベルとの差を感じていた。斎藤 智也監督と長年タッグを組んでいる横山 博英部長は当時の状況について振り返る。

「このときから同じことをやっているだけでは限界と感じることがありました。それは甲子園や東北大会に出場すると、技術的な差よりも体力差を感じる場面が多々あったからです。

 例えば我々の場合、ヒット3本を打ってなんとか1点に対し、甲子園に登場する強豪校は1人走者を出せば長打1本で1点、2人いれば、2点取ってしまうんです。そういうところを我々は目の当たりにして、体づくりの重要性を認識するようになりました」

 そこで、横山部長は古くから親交のある細谷 裕信トレーナーに依頼し「トレーニング改革」を断行する。食トレやサプリメントの摂取。ウエイトトレーニングの導入。これにより聖光学院の選手とは以前とは比べものにならないほど体が大きくなった。「今では夏の甲子園開会式で、大阪桐蔭(大阪)の選手たちにも『驚いた』と言われるほどになりました」(横山部長)

 この改革がうまくいっているのは、率いる側にも要因がある。ここは斎藤監督に語って頂こう。

「ウチでは冬前とオフ明けの年2回、体力測定をやって数値化させます。その中で跳躍力、50メートル走などはなかなか伸ばすのは難しいですが、腹筋、腕立て伏せの回数など努力すれば大きく伸ばせる数値がある。私はこれを『努力型の数値』といっていて、ここが伸びた選手がいるかどうかを見ています。

 実際、努力型の数値を大きく伸ばした選手は、実際に野球のパフォーマンスが変わった選手は多い。昨夏の甲子園でレギュラーとして活躍した選手の中にも一昨年の秋はベンチ入りしていなかったり、あまり出ていない選手も結構いますからね」

 俊足巧打の外野手として活躍した中屋 大輔(玉川大)や、一塁手としてスタメン出場した磯辺 伶也(東日本国際大)、外野手の佐藤 駿矢(新潟医療福祉大)がその代表例。特に磯辺は秋はベンチ外。そこから「打球の質が変わったし、スイングスピードも驚くほど速くなりました」と斎藤監督をも驚かせる急成長で、昨夏福島大会準決勝・日大東北戦では、試合を決める3ランを放った。

冬場で「逆転」できる聖光学院のトレーニング

高校時代の八百板 卓丸選手(東北楽天)

 さらに、このトレーニング環境によって、夢をつかんだ男もいる。2014年夏の甲子園メンバー。東北楽天に育成1位指名を受けた八百板 卓丸外野手。彼もまたオフのトレーニングで飛躍的成長を遂げた選手である。斎藤監督がその成功過程をつぶさに話してくれた。

「八百板は2年秋までレギュラーではない選手で、あの代では冬場に一番伸びた選手。努力型の数値がかなり伸びましたし、パフォーマンスを見ても劇的に変わりました。そこでは私は聞いたんです。『なんでこんなに変わったの?』と。すると八百板はこう言いました。

『別に特別なことをやったわけではないんです。ただ、暇があったらバットを欠かさず振ってきました。素振りだけはずっとこだわってやったといえます』

 そして2年秋まで公式戦に出場するときは7番ぐらいの選手が、春には1番か3番を打つようになり、チームで一番の選手になるまで成長したんです。私はこのとき確信しました。『こいつはプロへいく選手だ』と」

 このように冬のトレーニングを通じ一気に伸びる選手を指揮官が見抜き、試合で抜擢する。この連鎖が聖光学院を全国の強豪に押し上げた。

 さらに言えば聖光学院は「選手の能力を見極めるには、実戦しかない」という方針上、試合ができる環境ならば通年に渡って紅白戦を行っている。事実、冬の最中に取材した際にも1年生vs2年生の紅白戦が行われていた。ここで指導者にアピールすることができれば、逆転は十分に可能。プロ入りした八百板、昨年の中屋、磯辺、佐藤駿の例から見ても、聖光学院には「冬の間で逆転できる環境」が出来上がっている。

聖光学院トレーニングの柱「ランメニュー」ランメニューに取り組む聖光学院ナイン

 では、聖光学院が取り組む「トレーニング」とはいかなるものか?そこで選手たちの能力を引き出すに欠かせないのが「ランメニュー」である。横山部長がメニューの意義について教えてくれた。

「我々の時代で走ることといえば、長い距離を走るしんどいイメージしかありませんが、ウチのランメニューは『野球の動作につながるランメニュー』。

 細谷トレーナーが考案していただいていることによって、実際に選手のパフォーマンスは伸びていますし、きつくても、選手の意欲も変わってきています」

 実際に細谷トレーナーが聖光学院に訪れるのは月1・2回だが、その場で細谷トレーナーは選手の走るフォームや動き、体型などを見て、技術的な課題を指摘。

「我々は野球の技術を見て、選手へ指摘をしていきますが、細谷さんはランニング面のアプローチからできるのでありがたいです。全面的に信頼をしています」と横山部長・斎藤監督は全幅の信頼をおいている。

 もちろん選手たちも同様。夏の福島大会前には自分の現在の動きを見てもらうため、細谷トレーナーの前に行列ができるほどだ。

 では、そんな細谷トレーナーが考案したランメニューはどんなものなのだろうか?

「僕たちはトレーナーさんが言っていることに関してはなるほどと勉強になっていますが、メニューの理解度は間違いなく、日々やっている選手たちが高いので、選手たちにぜひ聞いてください」(斎藤監督)

 では早速、選手たちに聞いてみるとにしよう。

 前編はここまで。後編では聖光学院が取り組むランメニューを映像付きで紹介!早速明日から実践できるものばかり!ぜひ映像を見て自分の練習メニューに加えていこう!

(取材・文=河嶋 宗一)

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