「打って得点を奪う」というテーマをようやく実践できた至学館初回から盛り上がる至学館ベンチ

 前日の準々決勝、試合としては何とか勝利したものの、内容としては必ずしも満足いくものではなかったという至学館。「この春のセンバツに東海代表として出場したチームとしては恥ずかしい内容だった」という思いは強かったという。そうした意識を形で示そうと昨日、試合後のミーティングで藤原連太郎君が最初に声をあげて、全員頭を丸刈りにしてきてこの日の試合に挑んだ。それには、麻王義之監督は「ボクも知らなかったので、ビックリしました」と言うが、そういう形で自分たちの意識を示していくのもまた至学館というチームだということである。

 そんな意識が初回から表れていた。県内屈指の好投手の一人と言われている栄徳の釜谷竜哉君に対して、この日はオーダーも大きく替えてきた至学館打線は1番の定塚智輝君が右前打で出ると、バント2つで三塁まで進み、4番鎌倉裕人君が中前打で先制。続く打撃好調の新美 涼介君も右越三塁打して2点目。さらに、この日は6番に下がっている井口 敦太君も意地を示して右前打で3点目を叩き出した。こうして、立ち上がりから、丸刈りにして意識を統一してきた至学館がその力を示した。

 センバツで敗退して以来、テーマとして掲げてきたのは「しっかり、打って点を取っていこう」という姿勢だった。言うならば機動力や、相手のミスを誘発していくように幻惑作戦などではない、正攻法の得点を挙げていくということだったのだが、それを実践していって見せた。麻王監督も「この大会でもここへ来て、ようやくテーマとしてきたことがやれた」と、選手たちが意識を上げてテーマを実践していったことを喜んでいた。

 栄徳の釜谷君としては、自分が思い描いていた至学館のイメージとは少し異なっていたのかもしれない。それが、いささか投球にも戸惑いとなったのだが、イニングの中で修正しきれないままだったところでしっかりと捉えられた。それでも。2回以降は、持ち味のチェンジアップなど、大きな縦の変化球が決まり出して、2〜5回までは3人ずつで抑えていたのは、やはり投手としてのポテンシャルが高いことの証明でもあろう。

 しかしこの日の至学館打線は、さらに力強かった。6回にも、鎌倉君以下、新美君、井口君の3連打で、間でけん制で刺されながらも、四死球で押し出しの追加点をもぎ取る。さらに、9番の主将・木村公紀君も左前へタイムリー安打を放って、この回2点を追加。

 栄徳の中野幸治監督は、7回からは釜谷君を下げて2人目に深尾晟羽君を投入したが、その深尾君に対しても至学館は8回、新美君の二塁打と7番三浦信平君の右越三塁打、代打で登場してそのまま1番に入っていた大谷 康稀君の右越二塁打などで、3点を追加して7点差。コールドゲームとした。

 前日の試合内容を反省して、すっかり違う形で戦うことができた至学館。麻王監督が公言している「相手によって、どんな形にでも対応していかれるような“アメーバ野球”」が、見事にその真価を示したともいえるものだった。

 栄徳としては、釜谷君が早い回に掴まっては、やはり戦いとしては苦しくなるのは否めなかった。

(文・写真=手束 仁)

注目記事・2017年度 春季高校野球大会特集