東淀川vs堺上
近年、部員不足に悩まされる堺上のベンチ登録人数は10人。しかも3年生はバッテリーの大前凱、中尾飛雅とセカンドの堀井涼太の3人だけ。一塁コーチは背番号10の木村友誓(1年)で固定されているが、三塁コーチはバッテリーを除いてその回最も打順の遠い者が務める。戦力的には厳しい戦いが予想されたが初回、二死満塁のチャンスを作ると6番・稲田忍(2年)がセンター前へ2点適時打を放ち先制に成功。援護を受けての先発マウンドにはアンダースローの大前が上がった。
大前は、旧チームではサードやセカンドを守る内野手だったが、新チームからピッチャーへ。人数の少ないチームでは当然だが、堺上もほぼ全員が投球練習を行っている。その中で適任者として白羽の矢が立ったのが、センスの光る大前だった。急造投手が強い相手を抑えるにはどうしたらいいか、出した答えがアンダースローだった。緩いカーブ、スライダーでタイミングを狂わせ、時にはオーバースローも混ぜる。投手歴はまだ半年強だがコントロールは悪くない。確かにハマれば地力で勝る相手を苦戦させられそうだ。
東淀川は初回の攻撃で、先頭の鳥越雅教(2年)こそタイミングを外され、内野ゴロに倒れたもののその後はうまく合わせて3連打。さらに相手の失策も絡みすぐさま逆転に成功する。しかし、先発左腕の竹添敬斗(3年)がピリッとしない。初回に続いて2回にも一死一、二塁とピンチを招くとまだ序盤も序盤、しかもリードしている状況で犬山亮監督は背番号10の大井崇寛(2年)をマウンドに送った。
犬山監督はこの4月から東淀川に赴任したばかり。脳裏には2週間前の試合のことがあった。1回戦の貝塚戦は辛くも勝利したがスコアは17対14。崩れると止まらない傾向にある竹添を引っ張り過ぎたことがもつれた要因の一つだった。まだ選手全員の特徴を把握出来ていない。それだけに「竹添を引っ張り過ぎないこと」をテーマにこの試合に臨んでいた。
「このチームは大井頼りですね。出来たら3点差ぐらいでスイッチしたかった。竹添で行けるところまでと思ってましたけど、リードしている状態でリズムを作りたかった」2年生ながら監督の信頼も厚い大井は小柄ながら強気な投球スタイルでこの回を無失点に抑える。得点直後のピンチ、投手の代わり端という流れが変わり得る場面を切り抜けた東淀川は、3回に大野祐矢(2年)が2点適時二塁打を放ちリードを広げる。このまま流れをつかむかと思われたが堺上の粘りによって試合はシーソーゲームの展開となる。
4回に1点ずつを取り合い、6回には東淀川の5番・逸見章弥(2年)が浅めに守っていたセンターの頭上を越える2点適時三塁打を放ち、5点のリードを奪う。しかしその直後、堺上は稲田の適時打で1点を返すと降板後はセカンドへ回っていた大前も適時打で続く。3点を追う8回に押し出しと犠牲フライでさらに2点を返すと、なおも二死満塁から大前が走者一掃の適時三塁打を放ち、逆転に成功した。
一挙に5点を失ったこの回の守備で、東淀川の犬山監督は満塁からの一打よりもその6人前の、無死一塁からの守備をポイントに挙げた。堺上の1番・望月祐(2年)が放った強めのゴロをファースト・大野が弾く。慌てて拾い直して二塁へ送球するがベースから逸れてオールセーフ。
この時点で東淀川は3点リード。イニングと点差を考えれば1アウトくれるなら1点やってもいいぐらい。併殺が奪えれば最高だが、タイミングが際どくなるなら二塁に投げずそのままベースを踏めば十分、走者をためることだけは絶対やってはいけないという場面だった。「能力はそれなりにあるのに野球がわかっていない」赴任直後の第一印象はそんなもどかしいものだったというが、終盤の大事な場面で不安要素が出てしまった。
待望のリードを奪った堺上の塩田健監督は大前の後をキャッチャーの中尾、ショートの稲田とつなぎ、最終回のマウンドにはサードの望月を送った。東淀川からすれば本来無かったはずの9回裏。しかも場面は2点ビハインド。厳しい状況だったが1番から始まる攻撃で無死満塁とすると4番・齋藤涼太(3年)がレフト前へ適時打を放ち、アウトカウントを増やさないまま1点差に詰め寄る。
スコア上はリードしながら追い詰められた堺上は再び大前がマウンドへ。打席には6回に大前をマウンドから引きずり降ろす一打を放っている逸見が入る。「絶対、打ってやろう。ベンチの声で打てる気になりました。前の対戦で打ってるのでもらったなと。いい球が来たら初球から絶対振りにいこうと決めてました」狙い通り、初球を捉えると、打球が右中間へ。二者が還り逆転サヨナラ勝ちを収めた。
敗れた堺上の塩田監督、投打に活躍した大前の試合後の第一声はどちらも心からの「悔しかった」だった。新チーム結成後しばらくは、まだ操り切れないアンダースローと守備の乱れもあって15点以上の大量失点の試合が多かった。キャプテンを務めるキャッチャーの中尾も新チームになってからコンバートされた1人。リードや盗塁阻止以前にまずはしっかり捕りましょう、というレベルからのスタートだったが半年でどっしり扇の要が板につくようになった。チーム全体が確かな成長を見せている。いい試合が出来た満足感よりも、目前で勝利を逃したことに悔しさを感じていることが何よりの証拠だ。
東淀川のユニフォームを着てまだ3週間の犬山監督は「まだ手探りでやってます」と言いながらこれで公式戦2連勝。「1つ勝って2週間の間に伸びたので今日、勝ち切れました」守備ではポジショニングや打球に対する細かい考え方、バッティングでは自ら見本を見せるなどし、やりたい野球は少しづつ選手に浸透していっている。次戦へ向けては「楽しんで思いきってやるだけ。失うものは無いので、ぶつかっていけたらいいなと思います」大阪桐蔭という日本一高い壁に挑む。
(文・写真=小中 翔太)
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