東北楽天ゴールデンイーグルス 藤田一也選手「天然芝だからこそ自分の守備技術を見直すことができた」【前編】

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「1年前、この部屋でグラブの話をしましたよね。よく覚えてます」濃色のシックなスーツ姿で取材陣の待つ一室に登場した東北楽天ゴールデンイーグルス・藤田一也選手。自身のグラブへのこだわりをテーマに展開した1年前のインタビューのことをはっきりと覚えてくれていたことに嬉しくなる。前回のインタビューから年齢をひとつ重ね、34歳となった守備の達人。爽やかなオーラと落ち着いた柔らかい笑顔が相変わらず印象的だ。

「今年も守備をテーマにお話をいろいろとお聞かせください」「わかりました!」

 2013年から2年連続でゴールデングラブ賞を獲得し、さらに昨年も三度目のゴールデングラブ賞を受賞。二塁手としての通算守備率9割9分2厘を誇る球界屈指の名手。いったいどんな話が聞けるだろうか。

内野手の原点に戻れた2016年

藤田一也選手(東北楽天)

――昨年のインタビューでは「使い慣れた愛着のあるグラブは1年でも長く使いたい。2013年から3シーズン使ったグラブがまだ使えそうなので、4年目も引き続き使う可能性が高い」というコメントで結んでいます。最終的には4年目を迎えたグラブとともに2016年シーズンを過ごす決断をされたのですか?

藤田:結論から言うと使わなかったです。使おうと思えばまだ使えたのですが、最終的には前年まで練習でならしていたグラブを2016年シーズンの試合用グラブに昇格させました。最大の理由は目標にしていたゴールデングラブ賞を2015年に獲れなかったことですね。流れを変えたい気持ちが強かったので、思い切ってグラブも新しく変えてしまおうという決断に至りました。

――そうだったんですか。本拠地である楽天Koboスタジアム宮城は内野部分にも芝生が敷かれた全面天然芝球場として生まれ変わりました。1シーズン、プレーしてみていかがでしたか?

藤田:前年までは全面人工芝だったので、大きな変化を感じましたね。一番変化を感じたのは、イージーバウンドが減ること。やはり人工芝でのプレーは優しいバウンドが多かったんだなということを痛感しました。人工芝から土のグラウンドになっただけでもイージーバウンドが減るのに、内野に芝生が張られていることで不規則なバウンドになる要因がさらに増える。加えて、春先や秋口の仙台は寒く、芝生の表面に霜が降りることが多いのですがその影響で打球がスリップするんです。霜の付き方や量でスリップの仕方も変わってくる点も厄介で非常に神経を使いました。グラブに入る最後の最後まで油断ができないゴロが多くなったので、試合を終えた後の精神的な疲れが人工芝の頃とは全然違いましたね。

――やはりプレー環境の変化は大きかったんですね。

藤田:ぼく自身、高校に入ってから初めて硬球を握ったのですが、中学までの軟式野球から硬式野球に変わった時のように神経を使い、不安な気持ちで過ごした1年間でした。

――その例え、わかりやすいです。

藤田:でも天然芝になると知って、硬式野球を始めたときのような新鮮な気持ちにもなれたんですよね。自主トレでも基本練習にかなり時間を割きましたし。高校の時にスリッパを手にはめてゴロ捕球の基本動作を習得したことを思い出し、ミズノさんに捕球面がまっ平らな板のようなトレーニング用のグラブも作ってもらい、地味な基礎練習に励みました。振り返れば、ぼくも高校時代は土のグラウンドで毎日プレーしていたわけですからね。内野手としての原点に戻れたような気持ちになれました。

――もしも本拠地が人工芝のままだったら、そんな気持ちにはなれなかった?

藤田:なれていないでしょうね。初心に帰り、自分の技術をあらためて見直すことができた。転機の年になった気がします。

藤田一也のポジショニング論

藤田一也選手(東北楽天)

――本拠地の天然芝化によって、ポジショニングに変化は生じましたか?

藤田:人工芝の時はかなり定位置から下がった位置で深めに守ることが珍しくなかったのですが、天然芝になった昨シーズンは、深く守る機会はほとんどなかったですね。

――その理由は?

藤田:天然芝の球場で深いポジショニングをとってしまうと、最初から芝生の上に立って構えることになるんですよ。そうなると、バウンドが変わりやすい、土と芝生の切れ目が2ヶ所、視界に入るのですごく気になってしまうんです。あらかじめ土の部分で構えると土と芝生の切れ目をゴロが通過する回数を1回に減らせることもあり、必然的に深い守備位置をとる機会がなくなっていきました。でも深く守らなくなったことで、守備範囲は間違いなく狭くなりました。人工芝に比べると球足が遅くなったことで、追いつけた打球もあるんだろうけど、「深く守っていたら捕れていたな」と感じることは少なくなかったですね。

――なるほど…

藤田:中途半端な位置で守ることもなくなりました。人工芝だった頃は、ゲッツー狙いで、一、二塁間の走路で守るようなこともあったのですが、土のグラウンドだと、走路が荒れていますし、土と芝の切れ目でゴロを捕球する形になってしまう。昨シーズンは、ごく普通の定位置で守るか、最初から芝生の上に立つ前進守備をとるか。本拠地での試合に関しては、その2種類のポジショニングしかとらなかったといっても過言ではないです。

「なぜあそこで守ってたんだ?」と聞かれて、自分なりの根拠を言えない限りは定位置を守ったほうがいい

――ポジショニング力に定評のある藤田選手をも悩ませた天然芝化だったんですね。昨今、ポジショニングに強い関心を抱き、その精度を向上させたいと願う高校球児の声をよく耳にするのですが、そんな選手たちに藤田選手からアドバイスをいただけませんか?

藤田:データが豊富なプロと違い、高校野球は相手のデータがほとんどない状態で戦うことのほうが多いでしょうからポジショ二ングが難しいですよね。バッターの仕草、スイング、ファウルの打ち方などで判断していくしかないわけですから。「ここだ!」と決断するのは難しいと思います。

――そうですよね。

藤田:ぼくは「なぜあそこで守ってたんだ?」と聞かれて、自分なりの根拠を言えない限りは定位置を守ったほうがいいという考えです。ぼく自身も人に聞かれた時にきちんと説明できるくらいの根拠と自信のある時以外は定位置を変えませんので。

――迷いがあるのなら定位置を守ったほうがいい。

藤田:ぼくはそう思います。それに定位置で守ってヒットコースを抜かれるよりも、迷った末に定位置から離れ、そこを打球が抜けていった時のほうがチームに与えるダメージってきついんですよ。そういったことを考えても高校生はむやみに守る位置を変えず、定位置で守ることを大切にしたほうがいいような気がします。

 次は藤田選手に現在の高校生内野手のレベルについて訊いてみた。プロの目で見るからこそ、厳しい意見が飛び出すのかと思えば、レベルの高さを絶賛するコメントを残してくれた。その内容は後編にて公開!

(インタビュー/文・服部 健太郎)

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