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●翻訳の精度は?
マイクロソフトは4月7日、同社のメッセージング/通話ソフト「Skype」のリアルタイム音声翻訳機能が日本語にも対応したことを発表した。アプリを最新版にアップデートすることで即日利用可能。サービス利用料は無料だが、この翻訳機能で同社はどのようなビジネス展開を考えているのだろうか。

○想像以上にスムーズな翻訳結果

Skypeの翻訳機能は、Skype for Windows、またはSkype Preview for Windows 10(Windows 10にプリインストール済み)、またはWeb版Skypeで利用できる。翻訳機能をオンにしてから音声会話、またはビデオ会話ボタンを開始すると、しゃべった内容がこちらの指定した言語に変換されて相手に伝わる(もとの日本語も小さく相手に聞こえている)。処理は基本的にすべてクラウド内で行われている。

Skypeには固定電話や携帯電話相手に通話する「Skypeアウト」機能もあるが、今回の翻訳機能はこうした電話への通話にも適用されるため、たとえば海外のホテルに予約を入れる際に役に立つ。もちろん、ビジネスシーンで海外の取引先と連絡を取るためにも利用できるが、マイクロソフトとしては公式な契約などを結ぶ場合には、情報精度などで保証できないとしている。なお、内部的には通話を申し込んだ側がサーバーでの処理を管理するため、かかってきた通話相手には翻訳することができない。

翻訳可能な言語は英語、ドイツ語、スペイン語、アラビア語、イタリア語、フランス語、ポルトガル語、ロシア語、標準中国語の9カ国語と日本語。それぞれの間で言語を相互に翻訳可能。テキスト翻訳については日本を含む約60カ国企業向けのオンライン会議ソフトであるSkype for Business(旧称Lync)については、翻訳機能は提供されない。翻訳機能の利用料金は無料だ。

会場でドイツ語、英語などと実際に対話しながら通話してみるデモも体験してみたが、こちらが日本語で文章を読み上げると約1秒前後あけてから、相手側に相手の言語で読み上げる。テンポは悪いのと、一部翻訳できない単語もあるようだったが、後者については今後学習によりどんどん精度が高くなるという。当面のところ、実用的にはこれで問題ないと言っていいだろう。

●どこで稼ぐか
○バックボーンの翻訳エンジンが一新

実はこのSkype翻訳の変更は、マイクロソフトが持つクラウドサービス向けの翻訳エンジンそのものの更新によるものだ。これまでは統計学的手法をとった機械学習ベースのエンジンだったものが、ディープニューラルネットワークによるものに変更されている。この変更により、Skype翻訳に加えて、WindowsおよびiOS、Android向けのアプリ「Microsoft Translator」のライブ翻訳と、Microsoft Azureを利用している企業向けの「Microsoft Translator Speech API」サービス、それに、主にMicrosoft Officeに搭載された「翻訳」機能を利用できるアプリ/サービス群が対象となる。

このうち有料サービスになるのはSpeech APIだけで、その他のアプリやサービスは追加料金等は発生せず、そのまま利用できる。Speech APIは有料サービスになるが、Skype翻訳で利用していないような機能も利用できるようになるなど、対価に見合ったサービスが利用できるようだ(参考までに、翻訳エンジンそのものは、ドストエフスキーの「罪と罰」全巻を1秒以内に翻訳できるだけのパフォーマンスを持つという)。

Skypeは2004年に誕生した、メッセージング/通話アプリとしては老舗で、全世界で約3億人が利用しているという人気アプリだ。中でも固定電話への通話機能として有料の「Skype Out」サービスを持ち、国際電話を少しでも安くしようという人々の間で広く使われている。日本ではLINEが優勢となっているため、存在感はそこまで大きくないが、今回のリアルタイム翻訳機能の強化は、シェアの変動にまでは繋がらないにせよ、旅行や出張などで海外との通話機会の多いユーザーはもちろん、Skypeを多用している一部のホビーユーザーの間で人気を博する可能性が高い。またビジネスユースでも、海外との取引がある場合、知っておくと他人に差をつけられるテクニックのひとつとして数えられるかもしれない。

また収益の基本となるSpeech APIサービスだが、Webサービスやスマートフォン用アプリの品質を高める上で興味深い存在だ。グーグルなども同様のサービスを提供しているが、音声によるリアルタイム翻訳という点で一歩先んじていることもあり、マイクロソフトにとっては商機拡大のチャンスとなるだろう。

(海老原昭)