解明!節約で貯金が増やせない理由

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なかなか貯金が殖えない……これは多くの人が抱える悩みだろう。家を買う頭金を貯めたい、教育費の増加に備えたい、など理由は様々だが、貯金を殖やしたいという希望は誰にでも共通している。その一方で貯金を殖やせない悩みもまた多くの人に共通している。

先に答えを書いてしまうと、「そもそも家計は貯金を殖やしにくい構造になっているから」ということになる。このような構造的な問題を理解しないまま、節約レシピや電気をこまめに消すといった細かな節約をやっても全く意味が無い。

まずは構造的な問題を丁寧に説明するところから初めてみたい。

■家計を「変動費と固定費」で考える。

経理の仕事に携わる人、あるいは簿記の資格を勉強した人ならば、企業の費用を2つに分類する方法を知っていると思う。それが変動費と固定費だ。家計を理解するうえでこの考え方は非常に重要な考え方となる。

例えばラーメン屋ならば家賃や人件費が固定費、材料費が変動費となる。固定費は売り上げがゼロでも発生する費用、変動費は売上に比例する費用となる。

そして固定費が高いほど利益が出にくい。シンプルに計算するために、ラーメン屋の費用を家賃と材料費だけで計算してみよう。

例えば家賃が月額30万円、1杯800円のラーメンの材料費が400円だとする。この場合、損益分岐点、つまり赤字でも黒字でも無い売上高はいくらになるか。計算方法は非常に簡単で、固定費を利益率で割れば良い。

30万円÷50%=60万円

60万円の売り上げはラーメン750杯分となる。つまり1カ月あたり750杯のラーメンを売らないと赤字になることが分かる。

もしこのお店が繁盛して2号店を出すとして、もっと良い場所にお店を出せばお客さんも増えると考えて家賃60万円のお店を借りた場合、損益分岐点は売上120万円となる。良い場所ならば売り上げは増えるかもしれないが、その分だけ家賃が増えれば利益を出す事は難しくなる。

■家計の固定費は意外と高い

一体何の話だと思った人もいるかもしれないが、このラーメン屋の話は家計とほぼ同じだ。生活をしていくには最低限必要なコストがかかる。人によって最低限の生活費がどれくらいかは異なるが、例えば年間の生活費が500万円かかる夫婦がいたとする。

この夫婦の世帯年収が600万円の場合、貯金可能額は100万円となる(収入は手取りとして計算)。この夫婦が先に書いたような食費の削減、つまり「節約」で貯金を殖やそうと考えていたなら、止めた方が良いですよとアドバイスをする。手間や時間がかかってストレスばかりたまる割に効果は薄いからだ。

家計の支出で何が固定費にあたるかと考えた場合、家賃はラーメン屋と同じく固定費となる。では食費や光熱費はどうだろうか。減らそうと思えば減らせる、という意味では変動費のように見えるが、1カ月の食費が5万円ならば、1割削るだけでもかなり大変だがそれでもたったの5000円しか支出カットは出来ない。光熱費に至ってはこまめに電気を消したり水の出しっぱなしに気をつけたところで誤差の範囲だろう。

このように考えると食費も光熱費も半ば固定費のような支出であると分かる。他にも通信費(携帯料金・インターネット)、保育料(教育費)、生命保険料、細々とした出費である雑費(ティッシュや洗剤)など、日常的な生活費のほとんどが削りにくい支出であることが分かる。つまり家計支出の大半が「固定費」と「半固定費」であり、貯金が出来ない理由は固定費の多い企業が利益を出しにくい理由と同じで、元々削りようのない支出の割合が大きいから、ということになる。

■売上と利益の不思議な関係とは

一方で、固定費の割合が多いことは収入が増えた際は劇的に貯金額が増えることも意味する。

先ほどの世帯年収600万円の家庭が夫婦とも年収300万円とする。妻が出世して年収400万になっても支出額が変わらなければ貯金額は100万円から200万円に増える。夫も出世して年収400万円、夫婦合わせて世帯年収が800万円で支出額が500万円のままならば貯金額は年間300万円まで増える。

企業の業績を伝える報道で売り上げが10%増加で利益は2倍に、といった記事を見たことはないだろうか。売上がちょっと増えただけで利益が2倍というのは一見するとおかしく見えるが、変動費と固定費の仕組みを理解していれば簡単にその意味も分かるだろう。

貯金が100万円から急激に増えた事例もこういった企業の決算報告と全く同じだ。年収を売上と考えれば、600万円から700万円と16%程度しか増えていないのに利益=貯金額は2倍に増えている。600万円から800万円への増加は、33%程度しか売上は増えていないのに貯金額は3倍の300万円へと増えている。

固定費の割合が多い企業はわずかな売上増加が利益の急増につながる。家計の構造はそういった企業と酷似している。

■削減できる固定費は保険料と通信費

このような説明では、収入を増やす以外に貯金を殖やす方法は無いのか? と文句を言われてしまいそうだが、自著『一生お金に困らない人 死ぬまでお金に困る人』では節約が可能な「固定費」として、通信費と保険料を挙げた。

すでにおなじみとなった格安携帯や格安SIMは携帯料金を劇的に減らすことが可能となる。保険料も平均で月額4万円と言われるが、家計支出の中でもかなり大きな額を占める。

格安携帯で節約、といった話はFPがわざわざ解説するような内容ではないと考えていたのだが、確実にそして簡単に支出を削減できる事を考えれば決して馬鹿にできる額では無いと気付いてその効果を見直すようになった。

保険料については多数の家庭の保険加入状況を見てきたが、問題は概ね3つに分類される。

(1)保険に入り過ぎの過剰型
(2)中途半端に入っている不適切型
(3)全く加入していない危険型

(1)のケースは保険会社や保険代理店の提案に問題があり、たくさん入って多額の保険料を払っている割には万が一の死亡時の保障が少ない、という問題を抱えている(大半の家庭が過剰型に分類される)。(2)は独身時代に少し加入したまま見直しをせずに放置しているケースだ。結婚して子どもが生まれてこれから家を買う(あるいは家を買った)というライフステージと全くマッチしていないため、当然のことながら見直しが必要だ。(3)は幸か不幸かこれまで保険に勧誘されたことが全く無いために未加入のままという状況だ。

(1)は節約の余地は大きく、月額で数万円単位の支出削減が可能となる。(2)は保障内容を組み替えれば保険料はそのままで保障を手厚くすることが可能なケースも多い。(3)のケースは新規の加入が必要で支出は増えてしまうが、30代の若い夫婦ならば2人合わせて1万円もあれば十分過ぎる保障を構築可能だ。これ位の額であれば生活のコストとしては許容範囲ではないかと思う。

■家計のリストラはココ!

家計の支出は固定費が大半を占めると説明したが、変動費ももちろんある。それが趣味の支出、お小遣い的な支出だ。例えば収入が月額50万円、固定費(=基本的な生活費)が30万円、趣味やお小遣いの支出が10万円、残りの10万円を貯金している家庭があるとする(グラフ参照)。これに12をかけると先ほどの世帯年収600万、年間の貯金が100万円という家庭と近い状況になる。

30万円の固定費=基本的な生活費を削る事は非常に難しい。これをやるには根本的な生活スタイルの変更が必要となる。これは小手先の節約ではなく、企業でいうところの「リストラ」だ。基本的な生活費を大胆に削るリストラは生活スタイルを変える必要があるため、給料が大幅に減るなど何かしらの問題が起きたでもなければ簡単には実行できない。これは赤字に陥って誰もが仕方ないとあきらめざるを得ない状況にならなければリストラに着手できない企業と同じだろう。すでに説明したように削減しやすい固定費は携帯代や保険料などに限られる。

つまり基本的な生活費とは固定費であり、「自由に使えないお金」だ。

では簡単に削れる箇所はどこかというと、変動費である趣味やお小遣い的な支出ということになる(自著では「高額出費」と表記)。ここと貯金額が「自由に使えるお金」となる。

節約レシピで日々の食費を削るくらいならば、飲み会を一回減らす、洋服を一枚我慢する、といった方がよっぽどラクではないか、ということだ。

基本的な生活費と趣味的な支出の分類は丁寧に考える必要がある。

普段の食費やファミリーレストランでの食事は基本的な生活費だが、飲み会やちょっと高めのレストランで食事をした際には趣味的な支出と考える必要がある。洋服代でも、ユニクロで1枚1000円のTシャツを買った場合は雑費として基本的な生活費で構わないが(衣食住というように、洋服も生活費となる)、1着10万円のコートを買った場合は趣味的な支出と考えた方が良いだろう。

■用途ではなく金額で分類する方が分かりやすい

家計簿的な分類では支出の用途で分けるが、同じ食事、同じ洋服でも価格によって家計に与えるインパクトは全く異なる。つまり用途ではなく金額で分類する方が正しい。目安としては1回もしくは1個で1万円が基本的な生活費か趣味的な支出かの分かれ目と考えれば良いのではないかと思う(ただし、家賃・保育料・生命保険などはあくまで基本的な生活費としてカウントする)。

円グラフのように考えればすっきりと分類されて、細々と支出の種類別に分類するよりよっぽど分かりやすいのではないかと思う。企業会計でも利益の計算は5段階に分けて行う。一見すると面倒くさく見えるが、何が原因で利益が増減したのか分かりやすくするためだ。

支出を2つに分ける理由も、基本的な生活費は(結婚や出産などのライフステージの変化を除いて)大きな変化が起こることはさほど無く、一方でお小遣い的な支出は洋服や趣味、ちょっと高価なレストラン等によって乱高下する事は多々あり、貯金額に影響を大きく与えてしまうからだ。

最近ではマネーフォワードやZAIMなど、便利な家計簿アプリがある。ここで書いたような分類は残念ながらしてくれないが、支出を金額の大きい順に並べ変え、家賃や保育料などの基本的な生活費を除けば「今月家計にインパクトを与えた買い物」が簡単に把握できる。

支出を削減していくには、こういった趣味的な支出の中で優先順位をつけ、本当に欲しいものにお金を使うために優先順位の低いものを買わない、という形でメリハリをつければ良い。夫婦ならば優先順位が高いものは何か、話し合いが必要になるだろう。

今回説明した家計管理の方法は貯金を殖やしたい場合に限らず、何となく買ってるこの洋服代を削れば子どもを習い事へ通わせる費用にあてられる、あるいは住宅費用にまわせば購入予算を増やす事が出来る、といったように家計管理全般に応用が出来る。

貯金もそれ自体が目的では無く、家計の構造をメリハリのある形へ変える事で、本当に欲しいものや必要なことにお金を使えるように備えておくことが本来の目的だ。

家計の管理は大雑把で構わない。目的は細かく管理することではなく楽しく生活をする事であり、そのためには基本的な生活費と趣味的な支出を切り分ける、大きな支出をしっかり把握する、そして支出に優先順位をつけてメリハリのある家計へと変えていく……この3つのルールを守ることさえできれば十分だ。

(ファイナンシャルプランナー 中嶋よしふみ=文)