「べっぴんさん」81話。市村正親が靴職人でよかった

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連続テレビ小説「べっぴんさん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第15週「さくら」第81回 1月10日(火)放送より。 
脚本:渡辺千穂 演出:梛川善郎


81話はこんな話


一度は辞退した麻田(市村正親)だったが、最後の仕事としてさくら(粟野咲莉)の靴を作り上げる。やがて桜の季節となり、さくらは麻田の靴を履いて小学校の入学式へ向かう。

いってらっしゃい


すみれ「行ってきます」
麻田「いってらっしゃい」

81話の最後、麻田が笑顔ですみれ(芳根京子)と紀夫(永山絢斗)とさくらを送る。朝ドラ見て、出かける人も多いだろうから、こんなふうに送り出してもらったら、1日元気でいられそう。

偉大なる靴職人・麻田の最後の仕事を、さくらのみならず、健太郎と龍一(良子と君枝の子供たち)も見学し、まるで「継承」の儀式を行っているようだった。

麻田が手を振ってさくらたちを見送るのは、未来に向かって歩いていく(麻田が靴屋であったことは隠喩的ですばらしい)さくらたちに対して、麻田だけはその場に残るという描写であろう。はな(菅野美穂)の語りが「麻田さんはその後、亡くなりました」とナレ死させるんじゃないかとひやひやした。

本物をつくる 想いを込めてつくる どんなことがあってもそれを貫きとおす、それだけです」

あさやの店内を見て、「全部ここからはじまったのね」としみじみするキアリスの面々。ニセ物が出てきたことで心揺れるも、麻田が本物の底力を見せることで初心に帰る。

「すべきことをするだけやと この靴をつくりました」
「本物をつくる。想いを込めてつくる。どんなことがあってもそれを貫きとおす、それだけです」

麻田の言葉を胸に、明美は玉井(土平ドンペイ)に「本物は絶対に負けへんのや」と自信をもって語る。そのときのハイスピードカメラの映像は明美の吹っ切れ感が出ていた。

リメンバー 四つ葉のクローバー


ハイスピードカメラは、さくらの撮影にも力を発揮。「すべてがなくなってしまって不安で不安でしょうがなかったときを経て、いまようやくみんな、前を向いて歩こうとしています。前へ向こうと顔をあげることができればそこに見えるんです」という麻田の台詞と重なって、さくらが麻田の靴をはき、顔をあげ、未来に想いを馳せている表情がじつにチャーミングに撮られていた。

麻田はさくらの服の襟にすみれが刺繍した四つ葉のクローバーを指して「勇気、愛情、信頼、希望」と唱える。初期、キーワードになっていた四つ葉のクローバーが最近ご無沙汰だなあと思っていたところ、ドラマの時代が変わる前にちゃんと出てきてよかった。
最終回前に最終回かと思うようなまとめ回が、朝ドラではときどきある。81回は、ドラマの主題に立ち返ったまさにある種の最終回だった。
急に先週の予告にあった「10年後の昭和30年代」としないで、ワンクッションおいたところにつくりての誠実さを感じる。

さくらというサブタイトルに託されたもの


「さくら」という朝ドラが2002年にあった。今世紀における朝ドラ史上最高平均視聴率は「あさが来た」の23.5%だが、それが出るまでずっと「さくら」の23.3%が1位をキープしていたほどの人気作。舞台化までされた。日系4世の主人公・さくらを演じた高野志穂は「ニコッと笑えばお友達」をモットーに、それをタイトルにした本も出したほどで、底抜けに明るい笑顔がとってもキュートな女優。13年に同業の俳優・北村有起哉と結婚している。
「べっぴんさん」も「あさが来た」と「さくら」に並びますように。
(木俣冬)