「べっぴんさん」77話「飲んで 食って 歌へ」名言出た

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連続テレビ小説「べっぴんさん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第14週「新春、想(おも)いあらたに」第77回 1月5日(木)放送より。 
脚本:渡辺千穂 演出:新田真三

てんやわんやあった元旦から開けて、1月2日の朝。


77話はこんな話


兄弟(長太郎と五十八)及び親子(長太郎と肇)の確執にキレて臥せってしまったトク子(中村玉緒)は、亡くなった夫(長太郎たちの父)のお告げを聞く。夫の残した書によって坂東家は笑顔に包まれる。

すばらしい呪文の言葉はコレ


飲んで
食って
歌へ

「幸せな人生とは 飲んで食って歌う事」「深いなあ」と亡き夫の言葉に感心するトク子。長太郎と五十八の父親は彼らが未だ若い時分に亡くなり、長太郎は亡くなった父のしごとを引き継いでいる設定。亡くなって何十年も経っているにもかかわらずトク子の言葉には、夫への愛情と尊敬がある。ずっと忘れずに大事に思っていたのだろう。
このドラマに全く出てこなかった人物の言葉が、長い時を経て、子孫たちに影響を及ぼすエピソードは「人の命というのはこうやって受け継がれていくもんやねえ」というトク子の言葉で命を吹き込まれる。
ひとり寝ている部屋にも家族の笑い声(この声がじつに楽しそう)が聞こえてきて、それを幸せに感じるトク子の姿に、お正月に家族で集まらなかったことを後悔した人もいるのではないか。

「飲んで 食って 笑へ」ではなく「飲んで 食って 歌へ」であるところに捻りが効いている。
飲んで 食って 歌っていれば、笑顔になるし、幸せにもなる。シンプルだけど考え抜かれた台詞だ。このドラマで登場人物が歌ってるシーンはそれほどなかったけど、なんて野暮なことは書かない(書いてるけど)。
長太郎の息子に代替わり宣言のあと「飲んで食って歌って たまに旅行に行けるぐらいの金をくれ」とさらに追加してくるところなんて、本田博太郎が言うから余計に梅昆布茶のような滋味だ。
「飲んで 食って 笑へ」は中村玉緒の夫で、名優・勝新太郎が歌手でもあり、遊興三昧であったことともつながっているのかなとも思ったりして。

兄弟の歌、潔(高良健吾)と紀夫(永山絢斗)の二人羽織と余興三昧で明るい展開。ただ、ギャグやコント展開でゲラゲラ笑ってめでたしめでたしではなくて、笑いのなかにしっとり叙情があるのが「べっぴんさん」ならでは。
76話があまりに不穏で77話を見なかったひとがいたらもったいないが、なんだかんだ言いながら朝ドラは視聴習慣が確立されている自信があるからこそできるとも思える。

こちらも深い!


「母親の年齢は子供の年齢と同じなんやて そら失敗はしょうがない」(トク子)
これは子育てに悩むお母さんたちへの最強のエールになる。
脚本家の渡辺千穂は、昨年、出産していて、子育てしながら脚本を書いているだろうから、子育ての関する描写が繊細だ。ちなみに「あさが来た」の大森美香もそうで、実体験が役立ったと発言している。
「べっぴんさん」の後半戦は、成長したさくらとの母娘の確執が描かれていくので、作家の母親の実感が大いに生かされるだろう。
この76、77話で描かれた、父子関係や、さくら(粟野咲莉)のわがままとすみれの怒りなどは、これから待ち受けるさくらとすみれの母娘の闘いの序章であって、さくらが素直に「ごめんなさい」とぜんざい問題に関して謝り、かわいく「明けましておめでとうございます」と挨拶したといっても、まだまだホッとはできない。

前半戦、言葉数少なめで、俳優の動作や照明の効果など繊細な叙情性で踏ん張った渡辺千穂と演出家たち。後半戦の3ヶ月間、どんな物語をつくりだすか期待している。
(木俣冬)