ポーランドの古都クラクフから簡単に行ける世界遺産がヴィエリチカ岩塩抗。同じくクラクフ近郊にある世界遺産、アウシュビッツ博物館に比べるとやや知名度は低いですが、実際に行ってみると驚きの連続でとっても楽しい場所。クラクフに行ったら訪れない手はありません。

ヴィエリチカ岩塩抗はヨーロッパ最古の採掘場の一つで、その歴史を13世紀にさかのぼります。ここで産出される岩塩は、長きにわたってポーランドの重要な収入源となっていました。

700年以上にわたって採掘が行われた結果、坑道の総延長は約300キロメートル、採掘によってできた空洞の数は2000以上という、壮大な採掘場となりました。昔ほどの規模ではありませんが、現在でも塩の生産は続いており、観光地であるだけでなく、現役の採掘場としての一面も持っています。

ヴィエリチカ岩塩抗があるヴィエリチカは、クラクフの南東およそ15キロメートルのところにある小さな街。クラクフ本駅から電車で20分程度で行くことができます。

岩塩抗は巨大で迷路のように複雑なため、個人で回るのは不可能。ガイドツアーでのみ内部を見学することができます。夏の観光シーズンに訪れる場合は、事前にホームページからガイドツアーの予約をしておいたほうが安心です。

観光客が立ち入ることができるのは、地下64〜327メートルにわたって複雑に入り組んだ採掘場の一部、およそ2.5キロメートルの範囲です。見学ルートはツーリスト・ルートとマイナーズ・ルートの2種類。

ツーリスト・ルートは特に興味深く美しいポイントを見て回る誰でも参加しやすいルートで、マイナーズ・ルートは抗員の服に着替え、採掘や運搬の疑似体験をするやや体力を要するルートです。

今回は人気の高いツーリスト・ルートをご紹介しましょう。ヴィエリチカの駅にほど近い、ここがツーリスト・ルートの入り口です。この地下に巨大な坑道が広がっているだなんて、あまり実感がわきませんね。

ガイドツアーは地下64メートルの地点からスタート。一体どんな世界が広がっているのか、ワクワクします。

薄暗くひんやりとした坑道を歩くと、あちこちで岩塩が露出しているのを目にします。

岩塩抗なのだから当たり前、かもしれませんが、岩塩の自然な姿なんてなかなか見られるものではありません。ガイドさんに「なめてみて」と言われて試しになめてみると、しょっぱい!正真正銘の塩なのです。

興味深いのは、場所によって岩塩の様子がまったく異なること。灰色の岩のようなものもあれば、白い泡が固まったかのようなものもあります。鉱物や塩の含有量、坑道の湿度といった条件によって色や形状が変わるそう。まさに自然の神秘ですね。

1642年以前につくられたという「ヤノヴィツェの間」にある塩の彫像が表しているのは、ヴィエリチカ岩塩抗に伝わる聖キンガの伝説です。


13世紀、ハンガリー王家に生まれたキンガ姫はポーランド王から結婚指輪を贈られていました。しかし結婚を望んでいなかった姫はその指輪を投げ捨ててしまいます。

しかし政略結婚ゆえ、仕方なくポーランドに嫁いできたキンガ姫は、ヴィエリチカのある場所に強く惹かれ、そこに井戸を掘るよう部下に命じました。そうして出てきたのが、捨てたはずの指輪と、当時とても貴重であった塩だったのです。

ポーランド王妃となった後も貧者や病人を助け、王の死後は修道院で余生を過ごしたキンガ姫は聖者としてあがめられることとなりました。

当時の採掘作業の様子などが展示された部屋を回りながらさらに地下深くへと進んでいきます。

塩は柔らかいので、塩の採掘自体はそれほど大変ではなかったそう。むしろ採掘した塩を地上に運ぶのが困難を極め、馬や人力を駆使して運搬が行われていました。

重労働とはいえ、当時ヴィエリチカでの採掘の仕事は名誉ある仕事で、しばしば父親から息子へと受け継がれていたのだとか。

階段を下りながら地下90メートルの地点までやってきました。

ここで早速出迎えてくれるのが小人たち。恥ずかしがり屋の小人たちは、日中は姿を見せず、夜になると採掘の仕事を手伝ってくれるという伝説があったのだとか。

ヴィエリチカがいくつもの伝説に彩られているのは、厳しい鉱山での仕事のなかにも楽しみを見出そうとした抗夫たちの思いの表れかもしれませんね。

ツアーのハイライトとなるのが聖キンガ礼拝堂。鉱山での仕事は危険がつきものだったため、作業の安全を願っていくつかの礼拝堂がつくられました。

この聖キンガ礼拝堂はヴィエリチカ岩塩抗で最も大きく、かつ最も美しいもの。

驚くべきことに、この空間すべてが塩でできています。ガラスのような天井のシャンデリアも、石のような床も、彫像や壁面を彩るレリーフの数々も、すべてが抗夫たちの手によって塩でつくられたものなのです。

塩だけでこの空間をつくったとはにわかには信じがたく、その神秘的な光景に圧倒されます。とりわけ目を奪われるのが、「イエスの誕生」や「最後の晩餐」など、新約聖書の場面を表現したレリーフや彫刻の数々。

その精巧さ、立体感には目を見張るばかり…まさに塩の芸術。芸術家ではない抗夫たちがこのような「作品」を生み出したとは驚きです。

約2時間のガイドツアーは驚きの連続で、あっという間に終了。

地下130メートル地点、売店のあるホールで解散となりますが、そこからすぐに外に出られるわけではなく、順番にスタッフに案内されながらレトロなエレベーターで地上へと戻ります。


混雑している場合は待ち時間が発生する場合もあるので、岩塩抗全体の見学には3時間程度を見ておいたほうがいいでしょう。

自然の神秘と歴史、そして抗夫たちが造り上げた芸術に触れられるヴィエリチカ岩塩抗。きっとあなたを他にはない特別な体験へといざなってくれるはずです。
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