千葉黎明高等学校(千葉)

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3年間で二度の関東大会出場 盤石な強さを身に付けた確かな強化法

 2000年以来の春季関東大会出場を決めた千葉黎明。2014年秋にも関東大会出場を果たしており、3年間で二度関東大会出場を果たしている同校をここまで強化したのは、プロ野球のスカウト経験もある荒井 信久監督である。千葉黎明がここまでのチームになったのは、確かな強化法、そして選手たちの成長にあった。

まず千葉黎明で、自分を磨き上げる志を持てるか

声を出す選手たち(千葉黎明高等学校)

 綺麗に整えられたグラウンド、キビキビとした選手たちの動き、集中力ある練習内容を見ても、確かな強さを感じる。これも就任5年目となった荒井監督によって出来上がった環境である。2011年に就任した荒井監督は野球部を、学校全体に良い影響を与えて、学校を引っ張っていく存在にしようと決意した。そこでまず一番力を入れて指導したのは選手の精神面だった。

「現在、89名の部員がおりますが、当時は40名ほどで、辞める部員も結構いたんです。みんなできっちりと練習する雰囲気もなかったので、輪を乱す部員がいれば、外で座って見ていなさいと言うと、帰ってしまうということもあったんです」

 指摘すれば、すぐにすねる、顔色を変えるという選手が多くいたというが、それはなぜなのか。「自信がない、自立をしていない生徒が多かった」というのが荒井監督の見解だ。「ご家族に大事に育てられていたというのもあるのですが、厳しいことを言われて、それでもこちらの要求に応えようとする姿勢が昔はなかったんです。今もまだそういうところはありますけど、こちらの要求することについていっていますね」

 選手の人間性が変わり、人間的な強さが出てきたのが1つの成長なのだ。荒井監督は元横浜ベイスターズのスカウト部長を経験しているが、プロの選手についての話をする時に、何を話すかといえば志の部分を話すという。

「私はプロで活躍できる、できない選手は技術以外だと志が差として出ると思います。私の経験上ですが、プロに入った事で満足してしまう選手は、やはり伸び悩みます。うちで置き換えると、千葉黎明に入った事で満足せず、千葉黎明を舞台に自分を磨くことができるか、さらに次のステージを目指せるか。やっぱり高校で終わらず、さらに高いレベルを目指す志は大事だと思いますよ」

 技術的なことなことよりも、志。野球に取り組む姿勢、チームとして1つに向かう姿勢を荒井監督は大事にしてきた。そして今のエース・川口 廉が1年秋の頃、初めて秋季関東大会出場を果たしたのである。

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荒井 信久監督(千葉黎明高等学校)

 しかし2年前の秋の関東大会では壁にぶつかった。東海大甲府に0対10の5回コールド負けを味わった。東海大甲府の選手たちを見て、体格、パワーに大きな差を感じた荒井監督は、練習中にナインに捕食をとらせて体を大きくさせることにし、野球選手としての基礎を高めてきた。そして昨秋専大松戸に敗れ、打力の差を実感した荒井監督は、。冬場は徹底的に打たせて、打撃を強化した。

 そして1年秋から活躍してきたエースの川口がなかなか一皮むけ切れていない現状を見て、「調子が悪くて抑えられないのではなく、調子関係なく抑えてチームを勝利に導くのがエースの役割だ」と言い聞かせ、川口も今のままでは駄目だと、体作り、投げ込みをして、体力、精神力を磨き上げてきた。

 野手たちは打力強化、エース川口は心身共に鍛え上げた結果、千葉黎明ナインは秋とは別人のような姿で躍動した。県大会ではまず県立船橋に苦戦しながらも6対4で破ると、3回戦では中央学院を9対1で破りコールド勝利。準々決勝の松戸国際戦では、9対2で松戸国際を破り、ベスト4進出を見せる。春から強打を見せているのは練習の成果もあるが、県外の強豪校から転校してきた4番島村 篤史(3年)がこの春から公式戦に出場できるようになったことで、打線に厚みが増した。

 そして準決勝では、成田と対戦。成田には大接戦を演じ、9回表まで2対0でリード。9回裏に1点を取られ、なおも一死満塁のピンチとなるが、川口はしっかりと腕を振って、見事に併殺に打ち取り試合終了。2000年以来の春の関東大会出場を決めたのであった。エースの川口も、荒井監督も、リードする谷 祐樹も、「精神面の成長があったから、一死満塁のピンチを切り抜けることができた」と口を揃えるように、一番の軸である川口の覚醒が関東大会出場をもたらしたといってもいい。

 千葉県決勝では、投打で圧倒的な力を見せて勝ち上がっていた東海大市原望洋に5対6と接戦を演じ、関東大会では常総学院にコールド勝ち。エースの鈴木 昭汰を攻略したことに手応えを掴んだ千葉黎明は準々決勝で横浜と対戦、7回まで1対2と接戦を演じた。試合は8回裏に6点を取られコールド負けを喫したが、荒井監督は手応えを感じている。

「この春、横浜の藤平 尚真君、東海大市原望洋の島 孝明君、常総学院の鈴木 昭汰君と関東を代表する好投手たちと戦うことができ、さらに食い下がる姿を見せたのはチームとして大きいと思います」

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 関東大会まで戦い抜いたことで各野手が成長し、島村へつなげということで、それぞれの選手の持ち味が出てきたんです、と振り返るように、今年の打線は個性的かつ嫌らしい選手が揃った。1番は、主将の藤江 康太。「自主練習の多さでは藤江の右に出るものはいない」と荒井監督が語るように、秋まで俊足、守備がウリの好二塁手だったが、食トレ、徹底した振り込みで、本塁打も打てて、要所でセーフティバントも絡められる嫌らしい1番打者に成長。夏前の練習試合では、二打席連続本塁打を打つなど、選手としてワンランクレベルアップを果たしている。

千葉県の第一グループとして語られる日もそう遠くない

島村 篤史選手(千葉黎明高等学校)

 その藤江がまずきっかけを作ると、3番には逆方向へ長打が打てる大型一塁手・大堀 智哉、そして4番島村が勝負強い一打を見せると、5番川口も、長打を披露。そして下位にはパンチ力のある右打ちの外野手・根本 昌哉、また島、藤平相手に適時打を放った木内 黎(2年)は、選球眼も鋭く、バットコントロールも良く、速球に強い好打者だ。そしてキャッチボールを重点的に行ってきたこともあり、送球ミスが殆どない守備陣にも自信を持つ。

 夏、勝ち上がるための課題として荒井監督は、「川口以外の投手陣の出来」と「1,2年生がどれだけ台頭できるか」を挙げた。川口以外の投手陣として、3年投手は左腕・高橋 勇介、右腕・十和田 圭介の2人がいる。高橋は120キロ後半の速球、キレのある変化球で勝負する技巧派左腕で、十和田は、調子が良い時は、135キロ前後の速球とキレのあるスライダーで勝負する本格派右腕。

 高橋は春季大会前に頭部死球を受けて、しばらく登板できない時期があったが、夏前にかけて練習量を増やし、身体のキレも戻り、好投を続け、心強い存在となっている。また十和田も、力のある投球ができる投手だ。荒井監督は2人へ大きな期待をかけていた。

 ここ3年で二度の関東大会出場。激戦区・千葉において、この実績は一時的なものではない確かな強さを身に付けたといっていいだろう。そこには、人間的な育成や、何が課題なのかをしっかりと見極めて、それを1つずつ潰していった結果が、今の千葉黎明を生み出したといえる。ただ甲子園に行くためではなく、どの世代でも、常に甲子園を狙えるチームを作り上げている過程にあるといえるだろう。

 千葉県には木更津総合、専大松戸、東海大市原望洋など優勝予想をすれば必ず挙がる名門校の存在がある。そのようなチームは第一勢力、第一グループとして扱われるが、千葉黎明は二度の関東大会出場を果たしているとはいえ、先ほど挙げた3校と同列で語られることは少ない。もしこの夏、学校創立の初の甲子園出場へたどり着けば...千葉県を代表する強豪校として語られる日もそう遠くないだろう。

(取材・文/河嶋 宗一)

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