吉井理人×石井貴 対談(2)

 今季からヤンキースに移籍した田中将大をはじめ、上原浩治(レッドソックス)、ダルビッシュ有(レンジャーズ)など、日本人メジャー投手が順調な活躍を見せている。しかし、その一方でメジャー移籍後、思うように活躍できず苦しんでいる投手もいる。そのひとりが松坂大輔(メッツ)だ。かつてメジャーのマウンドを経験した吉井理人氏、西武時代に松坂とチームメイトだった石井貴氏のふたりは、今の松坂のピッチングをどうみているのだろうか。

―― 今回は日本人メジャー投手についてお話をうかがいたいと思います。まず、ニューヨーク・ヤンキースに移籍した田中将大。現在はヒジを痛めて故障者リスト入りしましたが、前半戦だけで12勝(4敗)をマークしました。活躍できた大きな要因は何だと思いますか。

吉井:どのコースにどの球種を投げれば打ち取れるかをわかっていますよね。

石井:それを実践できるだけの制球力、ボールのキレを持っています。適応力の高さを感じます。

吉井:ダルビッシュ有(レンジャーズ)ですら、メジャー1年目は苦労しましたからね。特にシーズン前半戦はボールを動かそうとしすぎて、ツーシームを多投していました。その結果、体が開き気味になってしまい、フォームを崩してしまった。

石井:メジャーの打者相手に日本と同じスタイルを貫くのは難しいんですかね。

吉井:最初は日本と同じスタイルでやってもいいと思います。それでダメだったら、次の手を考えればいいわけですから。ダルビッシュも1年目の後半あたりから、フォーシームの重要性に気づいたと思います。

石井:今はフォーシームとスライダー中心ですごくシンプルですよね。

吉井:メジャーだからといって、変に意識する必要はないと思います。岩隈久志(マリナーズ)も基本的には変わっていないですよね。しっかり自分自身のピッチングができています。

―― そんな中、かつて石井さんのチームメイトであった松坂大輔(メッツ)投手が苦しんでいます。

石井:日本でやっていた時とは別人ですよね。フォームが全然違います。日本にいる時は下半身をうまく使って投げていたのですが、メジャーに行ってからは横ぶりになり、上半身で投げています。あそこまで変わってしまうんだと、正直驚きました。松坂の場合は、マウンドが合わなかったんですかね。私はメジャーを経験していないので詳しいことはわからないのですが、そのへんはどうなんですか?

吉井:メジャーのマウンドは本当に硬いです。松坂のように下半身を粘らせて投げる投手は、足に相当な負担がかかると思います。だからメジャーでは歩幅を狭めて投げる投手が多いですよね。その方が簡単に投げられますし、上半身も回転しやすい。上原浩治(レッドソックス)もそういう投げ方をしています。ただ、このフォームは上半身に遠心力がかかってしまうため、肩やヒジを痛める可能性があります。

石井:メジャーのマウンドって難しいんですね。

吉井:それぞれ個人差がありますし、どの投げ方がいいという正解はないと思うのですが、日本のマウンドとは明らかに違います。適応するにはそれなりの時間が必要になってきますよね。

石井:もちろん、(松坂)大輔もいろいろと試行錯誤を繰り返しながら、今のフォームにたどり着いたと思うんです。彼は昔から自分で考えることができる人間ですから。それでも、今のフォームはちょっと横ぶりになりすぎている気がします。あの投げ方だとボールをコントロールするのは難しいですよね。

吉井:それに、松坂に限らずメジャーに来てから肩やヒジを故障する投手が多いですが、マウンドの影響はあると思います。マウンドが硬いということは、土台の安定につながります。たとえば、砂浜とコンクリートでは、コンクリートの方が投げやすいですよね。土台が安定すると腕は振りやすくなり、いつも以上にパワーが出てしまう。ただ、その分、肩やヒジへの負担は大きくなる。理想のフォームを探すのは本当に難しい作業だと思います。

石井:たしかに、今、大輔は苦しんでいますが、僕はそれもプラスにとらえて欲しいなと思っています。将来はコーチや監督になる人材ですから、いろんなことを経験してほしい。それにしても、大輔ももう33歳ですか......。つい最近まで西武のユニフォームを着て投げていたと思っていたのに。大輔よりひと回り以上も年下の大谷(翔平)や藤浪(晋太郎)が投げているんですからね。時の流れを感じますね。

吉井:同級生の和田毅(カブス)がようやくメジャー初勝利を挙げましたし、藤川球児(カブス)も1年ぶりにメジャーに復帰しました。同級生の頑張りというのは励みになると思いますし、松坂ももうひと花咲かしてくれると思います。

石井:このまま終わるような奴じゃないですよ。

―― 松坂投手は今シーズン、先発、中継ぎ、抑えと、いろいろなポジションをこなしています。なかなか役割がはっきりしない難しさもあると思うのですが......。

吉井:もちろん、役割が決まっているのに越したことはありません。ただ、今の松坂の状況を考えれば、希望を言える立場でないのも事実です。とにかく与えられたポジションで結果を出していくしかありません。

石井:先発とリリーフでは調整法も違いますし、ピッチングも変わってきます。大輔は先発しかやってこなかった投手ですから、リリーフで投げるのは相当難しかったと思います。

吉井:同じピッチャーでも、先発とリリーフはまったく仕事が違いますからね。WBCを見てもわかりますが、リリーフ投手は一日にして成らず。実際、これまで日本は2回優勝していますが、先発投手がリリーフに回ってそれほどいい結果は出ていないと思うんですよ。

石井:ダルビッシュも田中も苦労していましたからね。

吉井:実力のある先発投手をリリーフで使ってみたいという気持ちもわかりますが、重要なのはリリーフをどう選ぶかじゃないですか。さらに言うと、ランナーのいない場面で行くのと、ランナーを背負った場面で行くのとではまた違ってきます。それぞれ適性があると思いますので、それをどう見極めるかですね。

石井:そういう意味では、大輔は先発投手ですよね。

吉井:それは間違いない。何とか先発に戻って、頑張ってほしい。

石井:これからの大輔に注目ですね。

【プロフィール】
吉井理人(よしい・まさと):1965年4月20日、和歌山県出身。箕島高から84年にドラフト2位で近鉄に入団。近鉄時代は主にクローザーとして活躍し、88年に24セーブを挙げ最優秀救援投手に輝く。95年にヤクルトに移籍し、先発投手として3年連続2ケタをマーク。98年からメジャーに移籍し、メッツなど5年間メジャーでプレイし32勝を挙げた。その後、日本球界に復帰し、07年に現役を引退。日米通算成績は121勝129敗62セーブ、防御率4.14。08年から5年間、日本ハムの投手コーチを務めた。昨年からロッテ、ソフトバンク、オリックスの主催ゲーム全試合を完全生中継するFOX SPORTS「BASEBALL CENTER」のメインアナリストを務めている。

石井貴(いしい・たかし):1971年8月25日、神奈川県出身。藤嶺藤沢高から三菱重工横浜を経て、93年ドラフト1位で西武に入団。気合いあふれるピッチングで先発、中継ぎ、抑えとフル回転の活躍を見せる。04年にはシーズン1勝ながら、中日との日本シリーズで2勝を挙げMVPを獲得。07年に現役を引退。プロ14年間の通算成績は321試合に登板し、68勝58敗13セーブ、防御率3.78。現役引退後は08年から4年間、西武の二軍投手コーチを務め、12年から2年間は一軍の投手コーチを務めた。今年からFOX SPORTSをはじめ、解説者として活躍。

島村誠也●文 text by Shimamura Seiya