新しい統一球問題についての意見は、さまざまだ。今週の「ベースボールマガジン」にもいくつかの意見や記事が載っているが、石田雄太さんの意見はかなり極端なものだった。

石田さんは、統一球を導入する際に、NPBは、反発係数の許容範囲を変更することなく、下限値に近づけよとしたこと、そしてそれを下回るボールをこっそり容認したことが問題だったと指摘した。
それよりも「取り返しのつかない罪」は、世の中に「飛ぶボール」「飛ばないボール」という言葉を刷り込んでしまったこと。「ハイレベルの技術が道具の手柄だと思われてしまっては、プロは成り立たない」

ここまではわかるのだが、石田さんは

反発係数の基準値には、0.4034〜0.4234という許容範囲があるのだから、NPBは、プロ野球をより魅力的な競技にするために、基準内で“微調整”してもよい。それをいちいち報告する必要もない、とした。
NPBのビジネス戦略に基づいて「飛ぶボール」にしたり、「飛ばないボール」にしたりすればよいという。実際にMLBでは、そういうことをしている、と言う。

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ちょっとそれは、まずいんでないかい。

この前のブログにも書いたが、一連の「統一球問題」は、ボールの品質に端を発した問題だが、その本質は「NPBのマネジメントのまずさによって引き起こされた信用不安」にある。
当事者能力が低い上に、適切なガバナンスがなく、無責任な対応を繰り返した挙句、信用を失ったのだ。

ちょっと本塁打がたくさん出ると「ボールがおかしい」と選手やマスコミが口々に騒ぐのは、NPBに対する「信用不安」が根底にあるからだ。
「NPBがまた何かおかしなことをしたのではないか」と多くの人が思ったのだ。

そんな状態のままで、突然NPBが
「これからは、反発係数を公表しません。基準内のボールを提供しますから、ご安心ください」
と言ったとして、世間は納得するだろうか。
そして、ボールが飛んだり、飛ばなかったりしたら、世間は黙っているだろうか。

大切なことは、そうしたボール云々の話以前に、NPBそのものが信頼を回復するために、何をするのか、と言うことだ。

さらに言えば、一度公表したデータを非公表にするのは、非常に難しい。NPBは秘密裏に何か細工をするのではないか、と世間は思うだろう。

熊崎新コミッショナーは、統一球の反発係数のデータを開示した。
このディスクロージャーは、信頼回復のために必要だと判断したのだろう。その意欲は多としたい。
結果は裏目に出て、さらなる混乱をきたしたが、だからと言ってやめにするのではなく、どんどん情報開示すべきだ。

そして、統一球の基準を現実に即して全面的に見直すべきだ。
専門家、有識者と相談のうえ、反発係数の許容範囲を新たに設定するとともに、ボールの硬度や表面の状態、材質や保管状態、さらには測定のルールまで、きっちりと定めてほしい。
そしてコントロールできる部分、できない部分もはっきりしてほしい。
要するに、自分たちの商売道具である「ボール」についてエキスパートになってほしいということだ。

野球と言うのは不思議なスポーツだ。今でもさじ加減ひとつで投打のバランスを変えることができる。
一昨年オフ、シアトル・マリナーズの本拠、セーフコ・フィールドはフェンスを前に出した。貧打が続くマリナーズの野球を変えようとしたためだ。
MLBでは、こうした改変は普通に行われる。使用球の反発係数を変更するくらいのことはやっているかもしれない。

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しかしそれもこれも「信頼関係」があればこそである。
MLBはバド・セリグコミッショナー以下、素晴らしいビジネス感覚を持った組織であり、斯界の発展のために卓抜な手腕を発揮している。
球団もマネジメントの巧拙こそあれ、MLB全体の発展を阻害するようなおかしなことはしない、と思われている。

NPBは、基本的な部分で「しっかりした組織」とは思われていない。過去に何度も特定球団のごり押しを許したり、事件が起こった時におかしな幕引きをはかったり、不信感を抱かせるような事をしてきた。
また、コミッショナーが組織のトップとしてしっかりした判断を下したことも数えるほどしかない。
多くのコミッショナーは室町時代末期の足利将軍のように、実力者に利用され、名誉を貶められて退場しているのだ。

石田さんのお考えは「一般論」としてはありかもしれないが、今のNPBの状況ではありえない、と考える。
迂遠なように思えるかもしれないが、機構改革も含めた根本的な改革によって、信頼感を構築することが必要だ。
そしてその過程において統一球についても誠実でしっかりした対応をしてほしい。