Must C Curtains 

イチロー・スズキは、問題を抱えている。外から見ている者にとって、それは驚きかもしれない。ヤンキースのユニフォームを着た最初の月の彼は、誰もが想像したのよりも良い結果を残したからだ。

そのスピードスターの打撃は、優秀なベテランが隙間なくいるクラブハウスに溶け込むことで若返った。そしてシーズンを負け続けていたマリナーズにいたことで失われていた勝利のスマイルを取り戻した。

ならば、何が問題なのだろう?ヤンキースの一員としての生活は、イチローと彼の妻ユミコには素晴らしいものになっていて、ユミコはニューヨークをホームと呼ぶことを楽しんでいる。そして今、彼の犬だけが、その変化に戸惑っている。

「僕はOK。妻と僕は、慣れてきた」イチローは通訳を通して言った。「うちの犬、イッキュウが都会の生活に慣れるのに苦労している。彼のことはちょっと心配なんだけど、ニューヨークの街に慣れてくれると思っている」

そう、イチローの愛する柴犬だけは、7月23日にヤンキースが二人のマイナーリーグ投手と彼の主人をトレードしたことに不満があるようだ。犬にとって、セントラルパークとタクシーだらけの車道は、シアトルの郊外とは大きな違いがある。

「彼は緑に囲まれて、走り回るところがたくさんある所で育ったから、走り回ることができていたんだけど」イチローは説明した。「今は背の高いビルやたくさんの騒音の中にいるから、彼にはすごいストレスだと思う」

一方のイチローは、ヤンキースでの最初の1ヶ月でドキドキ感を味わった。
ワールドシリーズで勝つことを夢見ている38才は、再建中のマリナーズと共に歩むことを辞めて、ペナントレース争いの中に身を投じた。

トレード以来のイチローは、打率.302、3本塁打、13打点を残した。ヤンキー・スタジアムでの試合では、1試合で2本塁打を打った。セーフコフィールドの広い左翼に球を打つ技術がほとんどトレードマークになっていた選手には、ヤンキー・スタジアムのライト側観客席は、魅力的に写る。 

それは29試合を終えたイチローが、新しい環境で活躍するだろうことを示唆していて、それは現実的に思える。

「優勝争いをしていないチームであっても、モチベーションは高く保たなくてはならない」イチローは言った。「だけど優勝争いをしているチームでは、しなくてはならない全てのことを準備するのが、確かに簡単になる。自然と目標が見えてくるから、全員が共通のゴールを持つことになる。自分の準備をしていれば、目標は常にそこにある」

イチローは話しをしながら、他のこともしていた。彼はシカゴのU.Sセルラーフィールドのビジター側クラブハウスのカーペットの上で、厳密に決められたストレッチを繰り返していた。自分のロッカーの前で、いろいろな体の捻り方で自身をコントロールしていた。

これはイチローが毎日することだ。そして新しいチームメイトは、そのスピードスターの柔軟な体を目の当たりにする。彼のワイルドな服装もまた、チームメイトにとって見逃せないものとなっている。

最近の試合前、イチローは足首までロールアップしたジーンズ、黄色と黒のチェック柄のシャツに1960年代のネクタイ、赤いゴム製のベルトにトラディショナルなタイプのコンバース・スニーカーで現れた。彼の靴下は緑と白と黒のストライプ、それはオズの魔法使いの再現と思われてもおかしくなかった。

その姿に驚いた外野手のニック・スイッシャーだが、彼はマイクの方へ身を屈めてからヒソヒソ声で言った。「イチローは、僕のヒーローなんだ」

「僕が彼を見ると、いつも彼は微笑んでくれる」スイッシャーは、言った後に顔を赤らめた。「なぜだか判らない。彼はうちのロッカールームにいるスターの中でも、スターなんだ。それは彼にとって良いことだと思う。だって彼は、彼自身でいることができるし、他の何かをしようとする必要なんてないんだから。彼には彼のままでいて欲しい。彼はそれができる、本物のプロフェッショナルなんだ」

10回のオールスター、2回のアメリカンリーグMVPで、クーパーズタウンに向かう名簿に名前があるイチローは、謙虚さも見せる。

「シアトルでスターだったかなんて、僕には判らない」イチローは言った。「みんながそう言ってくれるのは嬉しいし、光栄だと思う。だけど僕がここを気に入っているって言うのは、そういったこととは違って、僕はここのスターたちに、物凄い興味があるから。ここにいるのは本当に楽しいんだ。僕は彼らが、何をどうやってするのかが本当に知りたい。そういったことは、僕にはほんとうに楽しい」

ヤンキースはトレード後、彼に期待し過ぎないようにした。メジャーでトップの打率を残した2004年にイチローを獲得したかの様な期待をしなかった。 ブレッド・ガードナーがシーズン絶望となり、ヤンキースはイチローができるのは、ガードナーとだいたい同じくらいだろうと言われていた。これまでの所、彼はそうしている。

「彼のプレーはとても良い」ジョー・ジラルディ監督は言った。「彼はスピードと守備をもたらした。大きなホームランも打った。彼はうちのクラブハウスに、とても良くフィットしていると思う。私はみんなが、彼が来たことで楽しんでいると思うし、彼もここで楽しんでいると思う」

それは本当のように見える。最近の試合前、ヤンキースのキャプテン、デレク・ジーターは彼のロッカーの前でバッグを落とした。イチローは微笑みながら、カーペットから彼に視線を移し、そして完璧な英語で言った。「ヘイ、サンダーソン、元気?」

サンダーソンはジーターのミドルネームだ。そしてそれは、滅多に耳にすることはない。イチローがそうすることができるのは、ジーターの満面の笑みが証拠で、何年もオールスターゲームのクラブハウスに一緒にいた事で、その関係を築いた。

「最初の数日を過ごしてから、みんなが大人で経験を積んできているって僕は実感した」イチローは言った。「それは僕にとってやりやすいし、ストレスも少なくなる」

ジーターは試合中にセカンドベースで交わす会話から、イチローが”楽しい男”で、彼が思っていたよりも上手く英語を話すことを知っていた。そしてそのキャプテンはまた、トレード以来のイチローは、良い影響しか与えていないと言った。

「イチは今、良く振れている」ジーターは言った。「彼がどんなに素晴らしい打者なのかは、みんなが知っている。僕はスコアボードや、成績表なんて気にしない。僕たちはイチローと何回も対戦した。彼に対して投げるのは、大変なんだ」

イチローはシーズン後にフリーエージェントになる。それはヤンキー・スタジアムで、この数週間で売られた31番のユニフォームやTシャツが、ホリデーシーズンには古いものとなる可能性を高める。

確かにイチローは、次のシーズンが始まる時にどこにいるのか判らない。しかしそれはまた、現時点ではたいした問題ではない。彼は、今いる場所を愛している。

「2013年のことは、僕は本当に考えていない」イチローは言った。「僕はヤンキースにいるチャンスを貰った。そして僕は全てをヤンキースに捧げるつもりで、全てはそこから。今の僕は、今シーズンのことに集中している」

参考記事:Change in scenery, standings give Ichiro new life By Bryan Hoch / MLB.com | 08/23/12 3:04 PM ET
http://mlb.mlb.com/news/article.jsp?ymd=20120823&content_id=37216346&vkey=news_nyy&c_id=nyy&partnerId=rss_nyy