■長野とHondaの上位対決

前回の原稿が前振りだったわけでもないのだが、南長野に行ってきた。JFL第24節「AC長野パルセイロ対HondaFC」の取材である。7月23日にJリーグ準加盟が承認され、クラブはどのような変化を見せているのか。当然ながら、その空気を感じ取るには試合を見て、話を聞くことが一番手っ取り早い。承認後の2試合は1引き分け1敗。或いは微妙な緊張感が漂っているのかも知れない。

この一戦は、長野の動向ももちろんだが、JFL上位チーム対決という意味でも見逃せない試合だった。長野はここまで首位を走っているとはいえ、Hondaも5位で追走している。勝ち点差は9離れているだけに、ここで何としても差を詰めておきたいHondaにとっては負けられない一戦だ。

■頻発した相手のミスから一気に長野の流れに

結果を先に書くと、5-0で長野の圧勝。開始15分までの展開から繰り出した「1点勝負になるかも知れない」という予想は見事に外れてしまった。眼力がないと言われればそれまでだが、試合後の記者会見でHonda・前田仁崇監督が「ミスはサッカーにつきものだが頻発してしまった」と述べたように、細かなミスにより少しずつずれていった歯車が時を経るごとに大きくずれていったというところだろうか。

開始直後はHondaの2トップが持ち味を発揮していた。JFL得点ランキングに顔を出す伊賀貴一がボールを収め、齋藤達也はトリッキーなドリブルで守備陣を翻弄する。しかし得点の匂いは漂いながらも長野ディフェンス陣の踏ん張りもあり、押し込むまでには至らない。「立ち上がりに失点しそうな場面もあったが、ここを乗り切る事が出来た」(長野・薩川了洋監督)ことで、流れはホームチームへと傾く。

ゲームが動いたのは、前半15分。ボールを受けた宇野澤祐次が左サイドへ流れながらドリブルで持ち込むと、中央に詰めていた向慎一へ折り返す。そのままHondaセンターバック2枚の間をぶち破り、GKとの1対1を確実に決めた。アウェーチームの守備が緩慢だった部分はあるが、受け手と出し手が呼吸を合わせた一連の流れはまさに長野の真骨頂と言えるだろう。37分にもゴール前での攻防でマークのずれた宇野澤がほぼフリーの形から追加点。2点リードのまま前半を折り返す。

■終わってみれば5-0の圧勝

『2-0は危険なスコア』と言うが、この日の長野にはその言葉は当てはまらなかった。前期でのこのカードはHondaが4-0で大勝しただけに、「0-4で負けた借りを返そう」(向)と雪辱を果たすという思いがチーム内に充満していた。ただパスを繋げるだけではない、得点に直結するポゼッションでHondaディフェンスのスペースを狙い続け、後半は3ゴール。終わってみれば5-0の大差でJFLの雄を完膚なきまでにねじ伏せ、勝点はもちろん得失点差でもトップに躍り出た長野がその強さを改めて示した形になった。ちなみに筆者が取材に訪れた2試合は、どちらも長野が5-0で対戦相手を一蹴していることは、とりあえず記しておきたい。

試合後の記者会見、さすがに両監督は対照的な姿を見せた。言葉少なく悔しさをかみ殺す前田監督に対し、会見上の第一声が「勝った」だった薩川監督はナイスゲームであることを認めつつ、Jリーグ準加盟後初勝利となったチームの現状について「準加盟したからと言って、すぐにスタジアムが出来るわけじゃない」と現場レベルでは大きな変化がないことを強調していたものの、「これから生き残りは厳しくなるよ、と。トレーニングから意識高くやろうと選手には話している」とクラブ同様に一歩前進することを選手たちに求めていた。

■勝利してもJリーグへの道のりは長い

ピッチ上の選手たちもこの試合への思いは高かった。「準加盟後、初のホームゲーム。ここで勝たないとチームの知名度も上がらない」(諏訪雄大)、「勝ってくれと社長にプレッシャーをかけられた(笑)。街の機運も盛り上がるし、勝って南長野を一杯にしたい」(向)と自分たちの活躍が長野市の盛り上がり、引いては悲願であるJリーグ昇格の道に繋がっていることを痛いほど自覚していた。この日、スタジアムに集まった観客数は2505名。来シーズンのJリーグ昇格はないという現状を見れば、決して悪い数字ではない。