契約金問題はうやむやにさせるべきではないと思う。しかし、私は巨人や西武、ダイエー、ソフトバンクなどの球団が過去に行っていた裏契約や不正行為を明るみだして、当事者を指弾すべきだとは思っていない。こうした状況を作った責任は、当事者たる球団、選手だけでなく、それを容認した野球界、マスコミにもあると思うからだ。

今、契約金問題をしっかり明るみに出してほしいと思うのは、それにかかわった人々を処罰してほしいからではなく(明るみに出ることで、すでに社会的制裁を受ける)、今後はそういう慣行を廃絶させてほしいからだ。

これを機に、NPB、各球団、アマチュア球界が話し合って、これまでのような裏契約が横行しないような制度を作ってほしいのだ。本音を言えば、新人選手に非常識な金額を支払うことを望んでいる球団経営者は一人もいないはずだ。?でのべたように、新人獲得にかかる巨費は経営を圧迫しているのだから。

意外に簡単に、裏契約の土壌は一掃できるのではないかと思っている。

部外者だが、私は以下の3点の提案を行いたい。

1)「上限」「目安」を撤廃する代わりに、新人獲得にかかわる金銭授受、契約内容をすべてオープンにすること

海外では宝くじの高額当選者は公表されるが、日本では宝くじの当選者名を発表することはない。また、高額納税者の公表もされなくなった。これは、建前上は高額当選者や納税者本人や家族が誘拐されるなどの恐れがあるため、とされているが、それ以上に「所得を知られたくない」という意識が当事者に強いからだ。また、世間もそれを容認する意識がある。

しかし、そうした意識があらゆる局面で「裏金」「裏契約」を生んでいる。

NPB球団は選手の年俸を公表していない。しかしマスコミが選手に聞き合わせるなどして、ほぼ間違いのない金額を(推定)という但し書き付きで発表している。球団もこれを黙認している。いかにも日本らしいあいまいなやり方ではあるが、実質的にNPBの全選手の年俸は公表されているのである。

これを一歩進めて、NPB球団(あるいはNPB選手会)が選手年俸をすべて公表するとともに、新人選手との契約における金銭授受、契約内容をすべて公表すればよいと思う。

契約金、出来高、分割払いでの契約、学校、指導者などへの謝礼金。

現在の規約では、プロ側からアマチュア関係者に金品が渡るのは禁止されている。しかし実態としては、金や便宜が供与されている。こうした不健全な慣行もこの際改め、ドラフトでの契約選手に限り、指導者への金銭、便宜の授受も公認すればよいのである。

その代わりに、守られていない「上限」「目安」は撤廃すればよい。

すべてが公然となることで、同程度の選手の契約金額に大きな差が出れば、球界、世間で異論が出よう。そういう形で「相場」が形成されるはずだ。主力選手の年俸よりも極端に高い契約金も姿を消すと思われる。

公表された以外の金品授受が発覚した場合には、球団は新人選手との交渉権を失う。また、入団後に発覚した場合は、選手の保有権を失うこととすればよい。

さらに、ややこしい仲介者、ブローカーの横行を防ぐためにも、ドラフト指名された選手が代理人を立てることを認めればよいと思う。球団は代理人と交渉をする。そして代理人を通じてすべての契約内容を公表すればよい。
代理人はNPBが公認し、見識、知識、倫理意識を持った人であるべきなのは、言うまでもない。

2)完全ウェーバー制の導入

ドラフト制は現在のくじ引きであったとしても、1)を導入すれば裏契約は一掃されると思う。これに完全ウェーバー制を導入することで、より公正さは保たれると思う。

前年の日本シリーズでの敗者のリーグの最下位チームから、優先的に選手を獲得するこの制度。MLBでは当たり前の制度として導入されている。これによって、戦力均衡は進むはずだ。

今年、東海大学の菅野智之は、意中の巨人に入りたかったために、くじ引きで交渉権を得た日本ハムの指名を拒絶し、浪人した。しかし完全ウェーバー制になれば、翌年最下位にならない限り、巨人が菅野を確実に指名できる可能性はなくなる。ドラフト忌避は減ると思われる。

ただし、よく言われる通り、完全ウェーバー制の導入は、FA権取得年限の短縮とセットではあろう。国内8年(大卒、社会人7年)の年限はMLBなみに6年に短縮すべきだろう。

3) 第三者機関「プロ野球新人選択管理委員会(仮称)」の設立

一昨年のドラフトで、早稲田大の斎藤佑樹、大石達也に指名が集中する中で、巨人は中央大の澤村拓一を単独指名した。実力的には斎藤佑樹よりも上、との評価が定着する中で、他球団が指名を見送ったのは、澤村が「巨人以外に指名された場合はメジャー行きと」とマスコミに洩らしていたからだ。こういう実質的な「逆指名」は、どんな制度を取ろうとも起こりうる。

制度ではなく、それを順守すべき球団、選手のモラルの問題は、今後もついてまわる。

そのことを考えれば、新人選手契約を監視し、監督する第三者機関「プロ野球新人選択管理委員会(仮称)」を立ち上げるべきだと思う。文部科学省の管理下に、プロ球団とアマチュア球界、そしてマスコミ、ファン代表などが集まって、不穏当な動き、不自然な契約をチェックし、警告を発する。場合によっては選手の被選択権や球団の選択権をはく奪することもできる。

プロ球界とアマチュア球界の接点に存在する「利権」は、明るみに出ようとしているのだ。大相撲の「八百長」と同様、これまで「必要悪」として業界に容認されてきたものであっても、現代社会ではひとたび露見してしまえば、容認することはできなくなる。

NPBもアマ球界も、これまでの悪慣行を見直す以外に、進歩の道はないと思う。