Jクラブに足りない情報開示の姿勢 小澤一郎氏にサッカー移籍ビジネスを聞く

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 代理人は悪玉なのか? 小澤一郎氏にサッカー移籍ビジネスを聞く(1/4)
 
――本書「サッカー選手の正しい売り方」の出版に際しての問題意識、背景にあった思いというのは、移籍制度の問題点だけでなく問題にまつわる言論の貧しさでもあったと?
 
小澤 面と向かって言い合う議論って、日本の国民的な気質として難しい部分がありますよね。だけど、「だからこそ考えるきっかけになれば」という思いはありました。
 
――小澤さん個人として、「この本を出さなければ」という危機感はどういったものがありましたか?
 
小澤 私自身はJクラブの番記者ではなく、Jリーグに特化してはいません。海外のクラブやリーグ、ビジネスの現場を観ていると、日本のサッカービジネスについてはもっとできる部分があるのではないか、と思います。
 
 例えばJ1優勝を毎年目指すよりも、選手を売ってしまったほうが大きな収益を得られるのかもしれない。移籍制度について、これから未来を見る時には抜きにして考えられないものだと思うのです。
 
 日本ではまだネガティブに捉えられるというか、移籍金が撤廃されたことで「移籍ビジネスができなくなった」と言っています。だけど、これは世界的な統一ルールなんですよね。「うまくルールを使えない」と嘆いても、現状は良くならないと思います。
 
 危機感というほどではないにしても、「日本サッカーはまだまだ良くなる」という思いがありました。普段Jリーグにどっぷり浸かっていないライターだからこそ、気を使わずに言いたいことを言おうと思って書いたつもりです。
 
――岡崎慎司(清水⇒シュツットガルト)選手の0円移籍について(参照)清水エスパルス・早川巌会長のインタビューのすぐ後に、代理人・田邊伸明氏のインタビューが掲載されており、代理人との認識齟齬やディスコミュニケーションがあったことが浮き彫りになるような内容となっていますね。
 
小澤 清水のケースに関しては、ルールが変わっていたにも関わらず早めに主力選手の契約をまとめられなかったという部分があり、どちらかといえばエージェント側や岡崎選手の言い分にスジが通っている気がします。もう少し早く手を打つべきだったし、時間はあったわけですから。
 
 ただ、清水の早川会長が言うように「『今年の冬は移籍しない』という選手の言葉を信じた」という日本的な「人を信じる」価値観も尊重したいと思います。難しい問題です。しかしこの時期だからこそ、検証して考えないといけないでしょう。
 
 清水は0円で主力を引き抜かれ、岡崎選手もイヤな思いをしたはずです。ああいうことがあったからこそ、同じ事を繰り返さないようしっかり考える必要があると思います。そういう経緯で、早川会長に取材に協力いただいたということですね。
 
――サンフレッチェ広島の織田秀和強化部長の話も掲載されており、「複数年契約を提示しても選手が乗ってこない現状がある」という内容が紹介されていました。この現状に対して、クラブはどう打開していけばよいでしょうか?
 
小澤 より情報をオープンにすることですね。例えばスペインでは、選手名鑑に契約年数やどこで満了になるか全選手載っています。「このタイミングでクラブはオファーを出しましたが、残念ながら断られました」という情報を、半年前をリミットにしてどんどんオープンにすることです。
 
 隠れた中でやられるからわからないのであって、オープンにすれば議論も出てくると思います。複数年契約を飲んでくれない、だけでなく、圧力を掛けるのではなくオープンにして「この選手は半年後に出ていきます」というアナウンスをしても良いと思いますね。
 
 例えば、原口元気(浦和)が契約延長した時には年数がしっかり明記された情報が公式HPで公開されています。「何年延長したのか」という情報が、(公式HPでも)オープンにならないと。
 
――地方紙に推定で掲載されることはあっても、公式HPできっちりオープンにはまだなっていないかもしれませんね。
 
 サポーターにはもっとドライな見方も必要 小澤一郎氏にサッカー移籍ビジネスを聞く(3/4)
 
 
 
小澤一郎(おざわ・いちろう)
 1977年生まれ。京都府出身。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒。2004年にスペインに渡り、バレンシアを拠点に活動を始める。スペインでは少年サッカーのコーチも務め、その指導者的視点からの取材活動で様々なメディアに寄稿。2010年3月、5年のスペイン生活を終え帰国。スポーツナビ、footballista、中学サッカー小僧、サッカー批評、サッカークリニックなど数多くの媒体で執筆中。
 著書に『スペインサッカーの神髄』(サッカー小僧新書)『FCバルセロナ 史上最強の理由』共著(洋泉社)『モウリーニョVSグアルディオラ』翻訳(ベースボールマガジン社)『サッカー選手の正しい売り方』(カンゼン)。有料メルマガ「小澤一郎の「メルマガでしか書けないサッカーの話」」も好評配信中。