【日刊埼玉西武ライオンズからのお知らせ】
日刊埼玉西武ライオンズ筆者・太友加寿仁が運営しますリトルロックハート・ベースボール・ラボラトリーでは現在、東日本大震災にて被災した野球少年・野球少女の支援を行っております。ぜひ皆様もご縁がありましたら、ご協力いただけると嬉しく思います。よろしくお願いいたします。
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先日、菊池雄星投手が「早く150kmを出してスッキリしたい」というコメントを残していた。確かに菊池投手は速球派で、高校時代には最速155kmをマークしている。そのような実績もあり、スピードを意識したくなる気持ちはよく分かる。しかし菊池投手自身よく分かっていることだとは思うが、決してスピードにこだわってはいけない。野球というスポーツにおける投手は、球速にこだわる必要などまったくないのだ。

制球 > 変化 > 球速
これが投手にとっての三大要素の優先順位だ。投手にとって何よりも重要なのは制球力だ。これは疑いようもない事実である。ヒットを打つことを生業としているプロの野球選手であれば、ど真ん中に入った160kmのボールをヒットにすることは決して難しいことではない。それこそ朝飯前だと言えるだろう。つまり菊池投手の言うところの150kmという球速も、この速度のボールをしっかり制御することができなければ、まったく意味を成さないのだ。だがもし菊池投手が150kmのストレートを、右打者の外角低めいっぱいのところに投げ切ることができれば、菊池投手は間違いなく来季10勝以上を挙げることができるだろう。

投手にとって最も重要な要素が制球であれば、2番目に大事なのは変化だ。変化とは球速差による緩急であったり、変化球の曲がり具合を変化させる能力のこと。この変化を操ることができれば、毎年二桁勝利を挙げることのできる投手に進化することができる。例えば投手は、一年中絶好調を維持することはできない。日によって150kmを軽く計測できる試合もあれば、145kmでとどまる試合も出てくる。普段150kmを投げる投手のストレートが145kmであれば、打者からすればまさに打ち頃。しかしここで、変化球の速度もストレートに合わせて5km遅く投げる能力があれば、145kmのストレートであっても、いつも通りの150kmのような体感スピードを打者に与えることができるのだ。

菊池投手がマウンドに立ち、バックスクリーンに150kmというガン表示が出れば、西武ドームはきっと盛り上がるだろう。しかし菊池投手が今後20年間マウンドに立ち続けるためには、それではいけない。ライオンズ投手陣のチーム防御率が良かった頃を率いた東尾修監督は、投手がバックスクリーンに表示されるガン表示を見ることを固く禁じた。その理由は数字にこだわるのではなく、自らの肌でボールの良し悪しを覚えさせるためだ。つまり同じ150kmという球速であっても、そのボールに切れがなければ意味はないというわけだ。投手がいつもガン表示ばかりに頼ってしまと、切れがないストレートを投げていても150kmと表示されることで不要に安心してしまうのだ。

そもそもガン表示は球場によって誤差がある。今は改善されたと聞くが、神宮球場はかなり速めに球速表示されることで有名だった。果たしてその神宮球場で150kmだの、155kmだのを計測することに、どれだけの意味があるだろうか。応援しているファンにとっては1つのエンタテインメントとなりうるが、しかし投手自身からすれば、160kmのストレートを投げても勝てなければクビになってしまう。

帆足和幸投手が抜けた来季、左腕・菊池投手にかかる期待は大きい。その期待に応えるためには150kmを投げることではなく、1つでも多く勝つことだけに集中してもらいたいと筆者は願っている。肩痛も癒えて一年が経った。菊池投手ならば150kmなど意識せずとも、今後はいつでも投げられるようになるはずだ。だからこそスピードガンなどに興味など持たず、ただチームの勝利にだけ集中してもらいたい。

今オフ木村文紀投手と共に2ヵ月間オーストラリアに派遣された菊池投手は、現地でカーブを覚えてきたと言う。どのようなカーブなのかは筆者にはまだ分からないが、カーブという球種は現在絶滅の危機にあると言える球種だ。本物のカーブを投げられる投手はプロ球界でも数は少ない。それを考えれば左腕からのカーブは大きな武器となるはずだ。何とか開幕までに習熟度を高め、試合でも使えるレベルまで持っていって欲しい。このカーブが本物となれば、145kmのボールを155kmに見せることも可能となるだろう。それこそが150kmを投げること以上に、菊池投手が勝つために必要なことだと筆者は確信している。菊池投手も来季はいよいよ3年目だ。2012年はぜひ飛躍の年となってもらいたい。