リヴァプールのウルグアイ代表ストライカー、ルイス・スアレスは、10月15日にアンフィールドで行われたマンチェスター・ユナイテッド戦(結果は1−1のドロー)で、ユナイテッドのパトリス・エヴラに対し、人種差別的発言をしたという嫌疑で、調査の対象となっている。イングランドサッカー協会(FA)は14日に公聴会を開き、両選手の主張を聞いたあとで、16日には処分を決定することになっていた。ところが早くても20日まで処分の決定が遅れることになった。それは、論議の中心がある単語の文化的背景に及んでいるからだという。

リヴァプールのスアレスはこの試合で、パトリス・エヴラに対して、「少なくとも10回」は人種差別的な言葉を投げつけたと言われている。しかし、リヴァプールは聴聞会に言語専門家を呼んでスアレスの無実の証明に懸命になっている。というのも、有罪判決が出ればスアレスに長期間の出場停止処分が下るのは確実で、そうなるとトップ4への返り咲きを目指すリヴァプールはキープレーヤーを失うことになるからだ。

さて、リヴァプールが言語専門家を呼ぶほどの問題になっているのは、スアレスがエヴラに対して使った「negro」という言葉である。スアレスはこの言葉の使用を認めたものの、この言葉はウルグアイでは人種差別的な意味合いを含んで使われるものではないと主張したのだ。専門家はこの裏付けと、さらにスペイン語と英語のニュアンスの違い、そして文化的背景を証言したと見られる。

リヴァプールの主張では、「negro」という単語はスペイン語圏では否定的な意味合いを持つものではなく、いわゆる英語の"pal"、"mate"といった親しいもの同士の呼びかけに使われるという。一方、エヴラ側は、この単語は明らかに相手を見下したような調子で使われ、許し難い行為だと主張する。

また、この試合の主審を務めたアンドレ・マリナーの発言も興味深い。試合でリヴァプールのコーナーの際に押し合った両者を呼び寄せたところ、スアレスがエヴラの頭を軽くたたこうとし、これに対してエヴラが身を引いて、「俺に触るな、南米人」と言ったところ、スアレスが「なんでさ、negro?」と答えたと報告しているという。その後、別の件でイエローカードを提示された際に、エヴラはマリナー主審に対し、「俺が黒人だから警告を出すんだろう」と発言したとも言われている。

英語では「negro」は差別的表現と考えられているが、実際に南米で暮らした友人に話を聞いても、「negro」は黒、黒人という意味で、黒人をそれ以外に呼ぶ言葉はなく、まったく差別的な意味を含まないとのことだ。

なお、リヴァプールのダルグリーシュ監督は18日、2−0で勝利したアウェイのアストン・ヴィラ戦後に処分の決定が遅れていることについて問われると、「何もコメントすることはないね。コメントしたくないわけではないが、それで偏見をもたれたくないからね。我々は相手を尊重してここまでやって来た。それがここに来て、尊重していないと非難されても困るからね。だが、ルイスはえらなかったよ。この3日間ホテルの部屋に留まり、練習は火曜日と金曜日だけ。だけど、この試合のようなパフォーマンスができるんだ」と話した。余談だが、この日の試合でゴールを決めたのはベラミーとシュクルテル。スアレスはポストを二度叩き、惜しくもゴールはならなかったが、これでリヴァプールが今季ポストを叩いたのは17回目。ダルグリーシュは、「たった5センチほどポストを削れれば問題は解決だ」と冗談めかした。

【野間けい子】