2013年のWBC(World Baseball Classic)開催を巡り、日米間の交渉が平行線を辿っている。

 日本野球機構(NPB)と傘下の12球団は、日本プロ野球選手会と協力し、WBCを主催するWBCI社に対し、代表チームのスポンサー料グッズ収入の権利がNPBに帰属されるよう要求。同時に、9月30日に迫った次期大会への参加表明の回答期限を延期するよう求めている。

 一方、WBCIはこれを拒否。一部報道によると、わが国が30日まで参加を表明しない場合、WBCIはアジア4チーム(日本、韓国、台湾、中国)による1次ラウンドを台湾で開催するそうだ。

 一向に着地点が見えてこない、WBCを巡る日米交渉。わが国は過去2大会を制しているが、このままではディフェンディング・チャンピオン不在で第3回大会が開催されるのでは、とも思ってしまう。 

 しかし、これこそがWBCIの狙い。WBCIが強気な姿勢をとることで、交渉を有利に進めようとしているのは、火を見るよりも明らかだ。
 実際、WBCIにとって日本の存在は大きい。チケット・グッズ収入放映権収入スポンサー収入といったジャパン・マネーが大会の成否を決めると言っても、過言ではない。

 しかし、ジャパン・マネー欲しさに日本の要求を鵜呑みにしていては、自分たちの取り分が減る。何より、野球の母国というプライドもある。
 だからWBCIは強気な姿勢で交渉に臨んでいるし、期限が近づけば、何らかの譲歩案をわが国に示すことだろう。

 NPBにとっても、WBCへの不参加は望むところではない。国際大会がスポーツ人気を高めることは、男女のサッカー日本代表チームを例に挙げる間でもない。オリンピックでは、2008年の北京五輪を最後に野球が正式種目から外されてしまったし、サッカーのFIFAワールドカップにあたる野球の国際大会として産声をあげたのは、このWBCだ。
 WBCIが譲歩案を出したら、要求が100%通らなくても、NPBは妥協するに違いない。

 このような交渉は、松坂大輔ボストン・レッドソックス入団時を思い出させる。松坂の代理人、スコット・ボラス氏と、球団の交渉は連日、深夜まで続き、一時は交渉決裂も噂された。はたして松坂とレッドソックスが合意に達したのは、松坂がまさに帰国の途についた瞬間。今回のWBCを巡る日米交渉も、同様の結果に終わることだろう。

 だが、万が一交渉が決裂し、日本が第3回WBCへの不参加を表明した場合は、選手にとっても悲惨だ。選手会によると、わが国の選手寿命は平均9年間と言われている。WBCは4年に1度の開催なので、平均的な選手では、現役期間中、WBCは2度しか開催されない。わが国が第3回大会をボイコットすれば、選手は2度しかないチャンスの1度を失うことになる。

 もちろん、選手にとってWBCが全てではない。国内のリーグ戦、チームの優勝に尽力する選手もいれば、ポスティング・システムやFAでメジャーリーグに挑戦する選手もいる。
 だが、2度しかないチャンスの1度が失われることは、決して望む事態ではない。

 オリンピックでは1980年に開催されたモスクワ大会で、前年に起きたソ連アフガニスタン侵攻の影響で、わが国を含む西側諸国が集団で大会をボイコットした。
 ボイコットした選手の中には、柔道の山下泰裕、レスリングの高田裕司、マラソンの瀬古利彦といった、メダル獲得が期待できる選手も少なくなかった。団体競技では、1960年のローマ大会から続いていた男子体操の連覇が4で途絶え、男子バスケットボールホッケー女子ハンドボール にいたっては、これ以降、オリンピックに出場できていない。

 政治的な背景があったとは言え、モスクワ五輪のボイコットは、今にして見れば、痛恨の極みだ。

 WBCはモスクワ五輪と事情が異なるが、選手のあずかり知らぬところでチャンスの芽が摘まれそうになっていることには変わりない。
 1日でも早く、日米が歩み寄ることを期待したい。