90+4分、長谷部が戻したボールを清武がクロスをゴール前に送ると、マークを外した吉田が高い打点のヘディングでたたき込んだ。場内がドカンと沸騰した。0-0で終了するかと思われたブラジルワールドカップ・アジア3次予選の初戦、日本は5分のロスタイムを80パーセント消費したところで勝利をモノにした。

終了間際に強さを発揮するのが、このチームの“芸風”とも言える。アジアカップでの数々の劇的な試合展開は、国内でもしっかりと再現された。アジアカップでの初戦も吉田が最後にゴールを決めたのだ。もっとも、そのヨルダン戦は1-1の引き分けだったことを考えると、日本は成長した姿で好スタートを切ったと言えるだろう。

日本が敗戦する可能性は低かった。シュートは日本の20本に対して朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は5本、ボール支配率は66.1パーセントと33.9パーセントと圧倒的な差をつけていた。

もっとも、それでも0-0だったのは北朝鮮の狙いどおり。鄭大世は「予想どおりだったし、自分たちの作戦どおりだった」と振り返る。北朝鮮は攻められて脆くも崩れてしまった南アフリカワールドカップ、ポルトガル戦からしっかりと学んでいた。ラインを低く敷いているものの、しっかりとブロックを作り対応してくる。チャンスは作れないものの、特に前半は日本の攻撃をしっかり抑えた。

日本は60分、韓国戦で2アシストの清武を投入してリズムを変える。さらに70分、ハーフナーを入れて空中戦での優位を握った。ところがそれでもゴールが生まれない。北朝鮮のサイドをさんざん崩し、ペナルティエリアには何度も入るものの、ゴールには結びつかなかった。

結局は冒頭のゴールで1-0の勝利を収めたものの、今回の展開は今後の予選を十分に予想させるものだった。これからの相手も日本に対しては勝ち点1を奪えばいいと、いつものどおりしっかりと引いて対応してくるだろう。日本は様々なバリエーションの攻撃を持っているが、それでもそうそう易々とゴールを割ることはできない。相手の狙いどおり勝ち点1を分け合うことになっても不思議ではない。

今日のところは初戦で勝ち点3を奪ったことを喜んでいられる。前回ワールドカップに出場した国を下したのだ。だが、埼玉スタジアムで垣間見ることができた予選の厳しさは、この日の天候のように曇天で時折横殴りの雨がたたきつける天候に一致している。その激闘の中で日本の“芸風”がいつまで続けられるか、ハラハラしながら見守るのがこの予選の楽しみかもしれない。